「バスケットができない日々があまりにも長かった」
藤岡麻菜美が1年ぶりに国際大会の大舞台で輝いた。ワールドカップ第2戦のベルギー戦にて、ベンチスタートながら流れを変え、走る展開のゲームメークを披露したのがポイントカードの藤岡麻菜美だ。髙田真希との2対2のコンビプレーを演出する8本のアシストなど、冴え渡るゲームメークで日本を勝利へと前進させた。負傷明けであることから本橋菜子に延長戦の仕上げを任せることになったが、ゲームの大半の時間は藤岡がコート内を掌握していたと言っていい。
ベルギー戦を終えての藤岡の第一声は「私、バスケをしているよ!」という喜びの声だった。藤岡は昨年のアジアカップで日本の3連覇に大きく貢献する活躍を見せ、アジアのベスト5に輝いた。しかし、アジアカップ直後のユニバーシアードでは体調を崩して本調子でプレーすることができなかった。その後、国際大会の連戦というオーバーワークも重なり、骨盤の剥離骨折と腱断裂という診断を受けて戦線離脱。Wリーグではわずか2試合しか出場できなかった。
リハビリを経てコートに立つまでには丸1年を要した。それでもヘッドコーチのトム・ホーバスは藤岡の復帰を待ち望み、ワールドカップ代表の12名に選んだ。「回復さえすれば、ネオ(藤岡)はやってくれると信じていた」からだ。
代表合宿では、攻防練習のメニューを制限しながら徐々に練習の強度を上げて回復に向かっていたが、8月には再び「ジョギングをしても痛くなってしまった」と症状は逆戻りしていた。チームメートが海外遠征を積んでチームを形成していく中で、藤岡だけはひたすら調整練習をする我慢の日々だった。
全部の練習メニューに加わることができたのは9月3日。本番に向けた最終調整となるアメリカ、スペイン遠征を控えた前日のことだった。出発当日の羽田空港では「今はバスケットができる喜びがとてもあります。大会前のこの時期に、そんなのんきなことは言っていられないのですが、バスケットができない日々があまりにも長かったので、バスケットができる喜びがとても大きいんです。あとはそれを試合のコートで表現するだけです」と語り、日本を発ったのだ。
完全復活は「球際でのプレーが戻ってから」
勝負の試合で藤岡は帰って来た。出場時間は23分59秒、6得点8アシスト4リバウンド。得意のクロスオーバーで相手ディフェンスを揺さぶってからのジャンプシュートは健在だった。
「とにかく今は自分にできることをやろうと思ってこの大会に臨みました。今の自分にできる役割はポイントガードとしてベンチから出ていって流れを変えること。勝負が懸かった接戦の試合にこんなに長く出たのは昨年のアジアカップ以来で、大事な試合に貢献することができて本当にうれしかったです」
1年間、実戦から遠ざかっていた状態から、ワールドカップという大舞台の本番に照準を合わせることはとても難しい挑戦だった。その中で心がけてきたのは「バスケットボールの感覚を取り戻すことに専念した」ことだという。
12名が決定してからの日本代表は、5対5の攻防練習では町田瑠唯と本橋の2人がAチームのポイントガードだったのに対し、藤岡は1人でBチームのポイントガードを務めていた。「1人でBチームのポイントガードをやった分、プレータイムが長くなったことで、バスケットの感覚を少しずつ取り戻せたことが大きいです。チームメートとの合わせは去年もやっているから心配はしていなかったのですが、バスケットの試合感覚だけはどうしても取り戻すのに時間がかかりました」
だが、完全に復帰したといえるのは「球際でのプレーが戻ってから」だと藤岡は課題を挙げる。ボールハンドリングの悪さからミスが出たり、ルーズボールやリバウンドを取り逃したり、ワンテンポ反応が遅くなっている。こればかりは、相手の強いディフェンスとやり合う中で取り戻していくしかない。
「チームを引っ張るのはポイントガードの仕事」
もう一つ、大きな課題となるのがリーダーシップだ。今大会に挑む日本代表は初代表4名を含む若いチームであり、国際大会での経験が浅い。それだけに「フワッと試合をして集中を欠くことがある」と藤岡は感じている。本来ならばポイントガードの自分が引っ張っていきたいところだが、これまで調整練習ばかりでコートに長い間立つことはできなかった。
だが、今は違う。「日本代表はみんな一緒に手をつないでいるチームだけど、リツさん(髙田真希)がプレーで引っ張る以外は中心になる選手がまだいない。ベルキー戦でも点差が開いたところで離せるはずだったのに逆に追いつかれてしまい、そこは若いチームの戦い方でチームが一つになりきれていないところだと感じました」
「自分はもうケガが治って、やっていけるから、中心選手になって苦しい時にもっとまとめていきたい。リュウさん(吉田亜沙美)はコートの中で必ずみんなをまとめていたけど、自分はまだそれができない。リュウさんのように、プレーで引っ張って背中で見せることにプラスして、言葉で伝えることもやっていき、リツさんをバックアップできるようになりたい。そうしなければ、これから戦うもっと強い相手には勝てない。チームを引っ張るのはポイントガードの仕事だと思っています」
この若いチームで、藤岡がリーダーシップを発揮することができれば、大会中にもさらなる成長を見せることだろう。完全復活へ向けた手応えと自信を得たばかりではなく、これからはリーダーになると誓ったベルギー戦。ここから藤岡麻菜美はさらに上昇していくはずだ。