文・写真=泉誠一

仙台のロッカールームで「あきらめているヤツはいるか?」

昨日の代々木第二体育館、前半に完璧なディフェンスを見せたアルバルク東京が仙台89ERSを圧倒。前半だけで45-18と大量リードを奪った。

「中学生か、というほどシンプルなことしかホワイトボードに書いていない。例えば『PLAY HARD』とか。今はチームのDNAを徹底させている段階であり、そのシンプルなことができていたことが素晴らしいディフェンスにつながった」と、A東京の伊藤拓摩ヘッドコーチは前半を振り返る。

一方、仙台の間橋建生ヘッドコーチは、23.3%しかシュートが決まらなかったオフェンスよりも、「僕が気にしているのはディフェンスのところ。昨日やられてしまったことで、精神的に参っていた部分があった」と気力が見えないプレーを責めた。

前半、第1クォーターは『A東京が2人で仙台が1人』、第2クォーターは『A東京1人で仙台2人』とオンザコート数が異なった。外国籍選手を1人多く使える第2クォーターだったが、仙台のコート上には帰化選手の坂本ジェイのみ。「外国籍選手が無理にオフェンスしてしまっており、それはダメなことだと思って下げました」と間橋ヘッドコーチはこの決断を説明した。

点差が開いたハーフタイム中、間橋ヘッドコーチは選手たちの気持ちに問いかけた。「あきらめているヤツはいるか?」

元々小さいチーム、まずは戦う選手から起用していく

後半、間橋ヘッドコーチの静かなる檄に発憤した仙台が息を吹き返す。エナジーを持ってチームを目覚めさせたのは、ベテランの片岡大晴であり、志村雄彦であった。身長差で劣る仙台はディフェンスを徹底し、オフェンスでは恐れずにペイント内に切り込んで行く。前半の大量リードが響き、91-69で敗れたが、後半だけの得点を見れば46-51と上回ることができた。

「これからは勝てるチームにするためにもインテンシティ(激しさ)ある選手から使う。サイズも関係ない。元々小さいチームなのだから、まずは戦う選手から起用していく。落ち込んでいる暇はなく、そういう選手は自分で這い上がってこい」

試合後のロッカールームで間橋ヘッドコーチは、今後の方針を選手たちに伝えた。前節の栃木ブレックス、そしてA東京に4連敗を喫したが、吹っ切れることができる試合となった。

「今日の片岡選手のように、エネルギーを持ってディフェンスからファイトするプレーを2400秒間(40分間)できれば、A東京と同じ土俵に立てる、ということを具体的に表現してくれました。これまでも僕が口では言ってきましたが、本当にこのようなプレーをすればできるんだ、ということを片岡選手が示してくれたことが我々にとって本当に大きな収穫になりました。僕自身も非常に勉強になった4試合でした」

勝つチームに変わるきっかけをつかんだ仙台は次戦、秋田ノーザンハピネッツをホームに迎える。この経験を東北ダービーで生かしていく。

いつかは分からないけど、息が合っていけば得点につながる

6人の選手が入れ替わったA東京は、「息が合うのも時間がかかる」と伊藤ヘッドコーチが言うように、様々なことを試している段階である。持ち前のディフェンスが奏功して点差を開くことができた。オフェンスはまだまだ個人技で打開するシーンが目立つ。ディアンテ・ギャレットの20点は、ほぼフリーランスなプレーから生まれていたが、それも意図があってのことだった。

「先週まではシステムに当てはめようとしてしまっていて、ギャレットの良さがまだ見えていなかったです。今週は彼に『直感でやれ』と言いました。その中で悪いプレーをしたら、そこはフィードバックするからと言ったら良いところが出ました。そこは僕がコーチとして学ばなければいけないところであり、良い勉強になりました」

昨年までのチームは長く一緒にプレーしてきたことで、あうんの呼吸が当たり前のようにできていた。しかし、外国籍選手を一新した今シーズンは、まだまだ選手もコーチもお互いを理解することに努めている段階にある。

「少しずつ、少しずつ息が合ってきています。試合前に見せたビデオもシンプルなことで、空いているのが見えているんだけどパスが通らないところがある。ここにパスを通すことが当たり前になるように、いつかは分からないけど息が合っていけば得点につながる」と選手たちには話している。

すべては時間が解決してくれる。開幕してからまだ1カ月。リーグ戦を通してチームや選手は成長していくものだ。

次節、A東京は7勝1敗で並ぶ栃木ブレックスとの対戦。東地区の首位攻防戦を伊藤ヘッドコーチは楽しみにしている。「ディフェンスはすごく堅いし、オフェンスはどう攻めようかまだ考えているところだと思いますが、素晴らしいチーム。現段階でどっちが勝つかは分かりませんが、それ以上に良いチームとプレーでき、その中で我々がどのようなパフォーマンスを出せるかが楽しみ。この試合が終わった時に、弱点も強みも見えてくる。昨シーズンもそうでしたが、栃木戦はいつも成長させてもらってきたので、来週が待ち遠しいです」