予測不能なスキルはネッツ移籍でより際立つように
昨シーズン開幕直後にブルックリン・ネッツの高いオフェンス力と、それを統率するディアンジェロ・ラッセルの充実ぶりが話題になりました。開幕から12試合で平均20.9点、5.7アシストを記録したことで、ファンの間ではオールスター選出の期待も高まりましたが、ケガで離脱し話題が続くことはありませんでした。
1月に復帰するとファンを魅了するプレーを披露したものの、46%を超えていたフィールドゴール成功率は40%を割ってしまい、シーズントータルでの平均得点を15.5点まで落としてしまったラッセル。東カンファレンスのスター選手が手薄になった新シーズンは、ブルックリンを本拠地とするチームから新たなスターが台頭することが期待されます。
2015年のドラフト2位でレイカーズに指名されたラッセルは、コービー・ブライアントの跡を継ぐ選手として大きな期待を背負っていました。フロント交代などのチーム事情もあって昨シーズン前にネッツにトレードされましたが、コービーと比較すれば物足りなかったものの、レイカーズ時代も一定の結果を残していました。
平均15.6点という数字の面でも、緩急織り交ぜたドライブのハイライト集を見ても、ネッツに移籍して大きな変化があったようには映らないかもしれません。
しかし、試合を通してラッセルを観察すると、ネッツのシステムにより、その能力の使い方が大きく変化しています。独特なリズムによりディフェンスの裏をかくのが最大の特徴であり、豪快なダンクや周囲を置き去りにするスピードではなく、パスにしてもシュートにしても予測不能なタイミングで放つスキルが際立っています。そのプレーに必要だったのは周囲とのコンビネーション。常に複数の選択肢がある状態でこそ、ラッセルの能力が最大限に発揮されるのです。
システマチックなネッツにおける『異物』
レイカーズもネッツも若いチームらしく試合のペースが早いのですが、速攻での得点が多いレイカーズに対し、ネッツはセットされたオフェンスが多くなります。一方でポイントガードが長くボールを保持するのではなく、パッシングからシュートに持ち込むまでの展開の速さがネッツの特徴。リーグ3位のパス数とキャッチ&シュート数は、身体能力をベースにした突破力ではなく、チーム全体の連携と判断力を重要視するオフェンスを表しています。
これがラッセルにハマりました。シンプルなパスを連続することでボールを持ちすぎることがなく、その一方で個人では『一瞬のタメ』を作れるためタイミングの良いパスが可能になりました。「チームがシステムとして連動している」といえば聞こえが良いですが、逆に言えば動きが決まっている部分もあり、ディフェンスからするとプレーを読みやすい側面があります。そこに視野が広く予測が難しいラッセルのプレーが混じることで、ネッツのオフェンスは多彩に変化していくのです。
単にスタッツとしての得点やアシスト以上に、ラッセルのプレースタイルはネッツのシステムの中で一層輝きました。多くの選択肢を得ている状態でのラッセルは魔法のようなプレーでファンを楽しませてくれています。
その一方で、ラッセルは欠点も多いプレーヤーです。ケガのリスクもあり、ネッツは来シーズン以降の契約をいまだに提示していないと言われています。オールスターへの飛躍が大いに期待されていながらも、マックス契約を提示するには二の足を踏んでしまう存在でもあるのです。
シュート能力自体は評価されているのですが独特すぎるタイミングゆえに安定性を欠き、3ポイントシュート成功率はキャリア最低の32.4%に留まりました。高いハンドリング技術がありながらシュートまでの一連の動作が確立されておらず、積極的に打つ割にはプルアップの3ポイントシュートが決まりません。
身体能力で強引に突破することができないため、アウトサイドシュートが決まらなくなるとプレー全体が低調になりがちです。選択肢が一つ消えたことでディフェンスはフェイクに惑わされることが減って止めやすくなり、パスを優先的に守ればよくなります。
ターンオーバーの多さも大きな課題です。チームメートのスペンサー・ディンウィディーが非常にミスの少ないポイントガードであるのに対し、魅力なパスゲームを生み出す存在でありつつもミスが多いラッセルは、時にチームのブレーキにもなる存在なのです。
爆発的な身体能力を持つ若手が注目を集める中で、スキルベースの選手として、連携とパッシングを中心にしたネッツのオフェンスに多彩な変化をもたらす若きポイントガードは、エンターテイメント性に溢れるブルックリンで輝きだそうとしています。
さらに言えばスキルベースでありながら、そのスキルがあまりにも未完成でもあるのがディアンジェロ・ラッセルの面白いところ。飄々とした感じで惑わしていく若きスター候補は「天才肌で、努力不足」という噂もありますが、それでもなおオールスターへの飛躍を期待したい存在です。