ペイサーズ

「私が再建期を見たくないのだから、ファンだって見たくないだろう」

ペイサーズはNBAでいまだに優勝経験がないが、ABA時代からリーグに所属している由緒ある古豪チームだ。

近年はスーパースター不在であっても実力者を集め、ここ10シーズンでプレーオフ進出を逃したのはわずか2シーズンのみ。今シーズンはリック・カーライルを新たな指揮官に据え、ドマンタス・サボニス、マイルズ・ターナー、キャリス・ルバートを中心としたチームで戦っているのだが、開幕から一度も貯金を作ることなく13勝18敗で東カンファレンス13位に低迷している。

プレーオフ進出の可能性が見いだせない状況がこのまま続くようであれば、主力選手をトレードに出すチームの再編に舵を切ってもおかしくない。だが、その可能性を排除するのがオーナーのハーブ・サイモンだ。

サイモンは、『The Athletic』とのインタビューでチーム編成に関する自論を語っている。彼がフロントに要求しているのは「再建期を作らずチームを強化せよ」という難題だ。

「再建期は認めない。私が再建期を見たくないのだから、ファンだって見たくないだろう。アクティブに活動しながらチームを強化するのは可能なのに、どうして再建しないといけないんだ? 求められるのは才能と資質だ。ドニー・ウォルシュもラリー・バードもそうやってきた。ケビン・プリチャードもやってくれる」と、サイモンは言う。

近年のNBAでは、優勝レベルに達しないと判断した時点で、思い切った再建に入る球団が少なくない。戦力均衡ルールが徹底されているNBAでは、下位になることでドラフト上位指名権が得られる。主力をトレードに出す見返りに成長株の若手を獲得し、順位は落ちるがドラフトで将来のスター選手を指名する。そうやって『今の勝ち』を放棄して数年先を見据えた強化を進める。

だがサイモンは、ドラフト上位指名権を獲得するためにわざと試合に負けるような行為を許さない。「我々はすべての試合で勝ちに行く。時には成長に一定の時間が必要なルーキーを育てることもあるだろう。だが、私の目が黒いうちは、負けるためにプレーすることなど許さない。そういうチームもあるが、私はそのやり方が正しいとは思わない」

「ドニーの時代を思い出してもらいたい。我々は再建期なしで強いチームを作るんだ。それをまたやるだけだ。ファンの一人として、わざと負けるようなチームは見たくない。わざと負けるようなチームは、ウチのファンに相応しくない。そんなチームを作った人間として非難されるのも御免だ」

サイモンの自論は理解できるし、球団運営に懸ける熱い気持ちには心打たれるものがある。しかし、現代のNBAで『わざと負けるチーム』がいるのは、そこに合理性と優位性があるからとも言える。だが、その方法でプレーオフに進出するのがやっと、というのが今のペイサーズの置かれた状況だ。

方針が定まっているのは悪いことではない。とはいえ、プリチャード球団社長とチャド・ブキャナンGMは、日々難題と向き合い続けなければならない。