ケイタ・ベイツ・ジョップ

若手有望株の層が厚く、誰もが「自分が決める」意識を高めて開幕に臨む

この2年間のスパーズは運動量とスピードを重視する傾向を強めてきました。スターターにはガード4人を並べ、インサイド担当は1人しかコートに送り出さない時間が次第に長くなり、ウイングプレイヤーを補強してもほとんど活用しないまま放出することもありました。チームの軸に据える若手もガードばかりとなり、このオフはさすがにバランスを考えた補強をするかと思われましたが、ドラフトで193cmのジョシュア・プリモを指名すると、フリーエージェントでもブリン・フォーブスやダグ・マグダーモッドといったシューターを獲得し、昨シーズン以上にアウトサイドプレイヤーに偏ったチーム編成になっています。

通常、ガードを多く並べるとサイズの不利だけでなくフィジカル負けすることが増え、ディフェンスでのデメリットが大きくなります。しかし、スパーズは機動力を生かしてプレッシャーをかけ、インサイドではヤコブ・パートルの優れたカバーリングが機能し、また7.1リバウンドを記録したデジャンテ・マレーを筆頭に全員がリバウンドに絡んでいくことで、見た目ほどサイズのデメリットを感じさせないディフェンスができています。

一方でこれだけガードを並べていながら、3ポイントシュートのアテンプトがリーグ最少の28.4本と少なく、成功率も35.0%で24位と低迷していました。通常のスモールラインナップはディフェンスでのデメリットをオフェンスで取り返していきますが、スパーズの場合はオフェンスでのメリットを感じさせないという変わった悩みがあります。シューターの補強はオフェンスの改善に狙いがありそうです。

ガードが多ければパスが回り、どこからでもドライブできるメリットがある一方で、フィニッシュパターンが似たようなものになり、ディフェンスは対応しやすくなります。しかし、これを神がかったミドルの確率を誇るデマー・デローザンによってプレーの駆け引きが生み出され、なんとか形にしてきました。

スパーズ

そのデローザンが移籍した新シーズンにオフェンスがどんな形に変わるのか、3ポイントシュートが増える期待以上に、停滞したときに打破する武器がない不安が大きいです。

プレシーズンでは、これまでにない積極的なプルアップ3ポイントシュートが目立っており、オフェンスの軸がいなくなったことで、逆に誰もが『自分が決める』という意識を高まっています。4年目のロニー・ウォーカーや2年目のデビン・バッセルはプレータイムを増やすチャンスだけに、よりアグレッシブに打ってきています。新エースが誰になるのか全く分からない状況ですが、シーズンを通じて競争が促されそうです。

20得点を期待できる選手がいないエース不在の代わりに、若手有望株の層が厚くなっています。特殊な戦術とチームファーストのカルチャーで全員が輝くスタイルを確立できるのか、それともライバルのスターパワーに屈してしまうのか。名将グレッグ・ポポビッチは72歳にして新たな挑戦を始めます。