オット・ポーターJr.

『明確な武器がない』オールラウンダー、NBA9シーズン目の勝負

ステフィン・カリー、クレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーン、アンドリュー・ウィギンズの4人を合わせたサラリーが、リーグの過半数のチームにおけるサラリー総額よりも高くなっているウォリアーズは、大型トレードを実行する以外はドラフトで指名したルーキーと、アンドレ・イグダーラのようなベテランを安いサラリーで獲得するしか補強のやりようがありませんでした。複数のスター選手を抱えるチームはどこも同じ悩みを抱えており、全盛期にある実力者をフリーエージェントで獲得することは、ほぼ不可能な状況です。

しかし、ウォリアーズは2013年のドラフト3位で、選手として最も脂が乗る28歳のオット・ポーターJr.と契約する補強を実現させました。昨シーズンのサラリーが2800万ドル(約31億円)を超えていたポーターが、ミニマムサラリーを選んでまで自ら契約を望んだと言われており、ウォリアーズにとって獲得できただけでもラッキーですが、それ以上にチームスタイルに合った素晴らしい補強であり、王座奪還のキーマンになりそうです。

ウィザーズ時代はジョン・ウォールとブラッドリー・ビールに続くサードオプションとしてフィールドゴール成功率50%、3ポイント成功率40%を超えるシュート力の高いウイングとして活躍したポーターJr.は、スキルだけでなく217cmと言われるウイングスパンもあってポジションを問わずプレーできるため、サードオプションながら魅力溢れる若手の有望株でした。

チームのエースクラスとしてプレーすれば得点力も期待できることから、2017年のオフに当時再建中だったネッツが4年1億600万ドル(約120億円)のオファーを出したのですが、これにウィザーズがマッチして残留させました。しかし、役割がサードオプションから変わらなくてはスタッツが伸びることはなく、サラリーに見合った活躍はできませんでした。その後、トレードされたブルズでは試合に出れば活躍するものの、度重なるケガで欠場が多くなり、ここ2年で42試合にしか出場していません。

すっかりコストパフォーマンスが悪い選手になってしまったポーターですが、そこには『分かりやすい武器がない』という課題もかかわってきます。スキルも身体能力もあるオールラウンダーとしてスマートかつ高確率でシュートを決めるものの、個人技での強引な突破がないため得点は伸びず、良いディフェンダーではあっても闘争心むき出しのエースキラータイプでもないため、どこかしら物足りない選手だったのも事実です。今になって振り返ればウィザーズでのサードオプションという立ち位置は、ポーターにとってベストだった気もしてきます。

それでも、個人技での仕掛けに頼らずパスワークとオフボールムーブで崩していくウォリアーズでは、ポーターの特徴は長所になります。アンセルフィッシュなパサーやスクリーナーとしてボールムーブに加わりカリーやトンプソンを生かしながら、エクストラパスが回ってくれば高いシュート力でフィニッシュ担当としても機能します。加えてスイッチやローテーションを積極的に行うチームディフェンスでも、ポジションレスな特徴が生かされるだけなく、スモールラインナップのビッグマン役もこなせそうです。

これまで高度なチーム戦術を展開するチームに所属したことがなく、場合によってはイグダーラのようにポイントフォワードとして選手としての新たな領域を開拓するかもしれません。ポーターにとってもベストフィットする予感があるからこそ、サラリーを度外視してウォリアーズを選んだのでしょう。

ポテンシャルはあっても完成度の低い若手や、信用はできてもプレータイムを制限せざる得ないベテランと違い、西カンファレンスの強力なウイングエースたちに対抗するだけの能力もスタミナもあるポーターは、主力としてウォリアーズがキーマンになり得る存在です。ポーターにとってもウォリアーズをステップアップさせ優勝争いを演じることで、自分自身の価値をあらためて世に問う大事なシーズンになります。