文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

組織力と機動力を最大限に生かす三遠の『堅守速攻』が機能

三遠ネオフェニックスと川崎ブレイブサンダースの開幕節。土曜に行われた初戦は大接戦の末、第4クォーターに川崎が同点ブザービーターを決めたと思われたが、ビデオ判定により得点は認められず、72-70で三遠が競り勝った。

一夜明けて第2戦の立ち上がり、三遠は持ち前の速いトランジションが機能。あっという間にボールを前に運び、相手の守備陣形が整う前にガンガン仕掛ける超アグレッシブな攻めで川崎を圧倒する。開始3分15秒で13-3と10点のリードを奪うと、川崎はたまらずタイムアウトで間を取った。

ここまでは三遠にとって出来過ぎとも言える内容だったが、NBL王者の川崎は甘くない。インサイドのスペースをすぐさま埋めることで三遠の速攻が止められると、得点源のニック・ファジーカスを集中的に使われ次々とシュートを決められる。0-8のランを浴びて13-11、勢いは一気に川崎へと傾く。

それでも新加入のロバート・ドジャーが難しい反転ジャンパーを決めて川崎のランを止めると、そのドジャーが守備でもゴール下でファジーカスとガンガンぶつかって自由を奪う。ただ、川崎のランは止めたものの三遠の攻撃も停滞。中を押さえられドライブで切り込めなくなると、中・長距離のシュートの確率が上がらず、得点を伸ばせない。ファジーカスのマークが厳しいと見るやジュフ磨々道や篠山竜青を使って得点を重ねる川崎に逆転を許し、17-19で第1クォーターを終える。

その後は太田敦也とドジャーがファジーカスを押さえ、ディフェンスに重点を置いた辛抱の展開に。それでもライアン・スパングラーのスティールからの独走ダンク、ドジャーのアリウープタップなど派手な得点も飛び出し観客を飽きさせない。重い展開の中でミスを犯したのは川崎のスパングラー。必要以上に激しいプレーがアンスポーツマンライクファウルと判定された。三遠はこれで得たフリースローで24-24と追い付き、続くオフェンスで太田がミドルレンジからのジャンプシュートをきっちり沈めて再びリードを奪う。

ドジャーとファジーカス、両エースの得点合戦

第3クォーターに入ってもお互いが激しいディフェンスを披露。特に鈴木達也と篠山は最前線で見応えのある1on1を繰り返した。しかし、この第3クォーターはドジャーがベンチに下がった時間帯にファジーカスが得点を荒稼ぎ。背中から強引にペイント内に割って入り、そのまま柔らかく正確なジャンプシュートを次々と決め、このクォーターだけで9点を記録。2人がかりでファジーカスに対応すると、その隙に老練な磨々道がフリーでパスを呼び込み得点。この連携を止められず、鹿野洵生の3ポイントシュートで食い下がるも、46-53と突き放されて第3クォーターを終える。

しかし勝負の第4クォーター、今度はファジーカスが一息入れるためベンチに下がると、コートに戻ってきたドジャーの得点力が爆発。田渡修人の立て続けの3ポイントシュートも決まり、慌ててファジーカスが戻る時には54-55と1点差まで詰め寄っていた。

ところが、この猛追はこれまで以上に激しくディフェンスした結果であり、ファウルもかさんでいた。残り6分7秒の時点でオルー・アシャオルが5つ目の個人ファウルを犯し退場、しかもチームファウルが5つに達してしまう。

この厳しい状況にも三遠はあきらめなかった。田渡がこのクォーターだけで3本目となる3ポイントシュートを沈めてチームを再び勢い付けると、残り2分2秒、相手のターンオーバーからドジャーが独走のレイアップを決めて63-63、ついに三遠が川崎をとらえた。

そして、試合を決定付ける得点を奪ったのは、手の付けられない当たりっぷりになっていたドジャーだった。エンドライン際をドライブでブチ抜いてのレイアップを決めて65-63と逆転。豊橋市総合体育館が一番沸いた瞬間だった。そしてファジーカスがシュートを落とし、そのリバウンドを拾ったリチャード・ロビーがドジャーに負けじと自ら切り込み、値千金のファウルをもぎ取る。このフリースローを危なげなく2本とも決めて、さらに川崎のターンオーバーからドジャーのファストブレイクが飛び出し69-63。これにて勝負アリ。

厳しい状況からの逆転勝利に指揮官「こういう勝ち方は大事」

最も重要な最終盤の時間帯、ファウルできない状況に追い込まれながら9-0のラインで一気に試合をひっくり返した三遠が勝利した。

藤田弘輝ヘッドコーチは「両チームとも非常にフィジカルなディフェンスをして、展開としては重くなったが、選手が我慢して、良いディフェンスから自分たちの流れに持っていってくれた」と勝因を語る。「こういう勝ち方は大事。この2試合の経験を活かせるように練習して、来週の試合に備えたい」

そしてまさかの連敗スタートとなった川崎の北卓也ヘッドコーチは「昨日に続いて競ったゲームを落としたのは残念」と悔しがる。「三遠さんがしっかりとしたゲームをやったということ。ウチはまだまだチームとして未熟で、昨日今日とミスが多い。シュートもそうですが、第4クォーターでターンオーバーが続けて出た。こういうミスが出ると勝つ確率が下がっていく。これからの練習で連携を上げていくしかない。最初は連敗でつまづきましたが、まだ上向くと思います」

Bリーグ開幕に当たり、「NBL勢とbj勢」という対立軸は、特に見る側に明らかに存在した。だが、この三遠と川崎、あるいは栃木ブレックスと秋田ノーザンハピネッツの対戦を見る限り、力の差は思ったほどないと見ていいのではないか。

まあ、コート外で繰り広げられる『戦前の予想』とはそんなもの、あくまで余興だ。大事なのはコート内でエンタテインメント性の高いバスケットが展開されること。これから毎週、日本各地のアリーナで今日の三遠vs川崎のような手に汗握る戦いが繰り広げられれば、Bリーグはきっと成功を収めるに違いない。