サンズは残留を望むも『大盤振る舞い』はできず
モンティ・ウィリアムズはNBAファイナル第6戦に敗れた後の記者会見で「NBAファイナルまで来るのがどれだけ難しいかは分かっている。だからこそ、今回勝ちたかった」とのコメントを絞り出したが、あとは様々な感情が入り混じって言葉が続かなかった。短い会見を終えると、順番を待っていたデビン・ブッカーと長い抱擁を交わし、そのままバックスを祝福するために彼らのロッカールームへと向かった。
入れ替わりで会見をスタートさせたブッカーは、この長いハグについて「僕らは家族で、感情を共有している。ハードに練習してハードに戦う。それを一緒に楽しみ、信頼し合い、フェニックスに優勝をもたらすという目的のために進んできた」と説明する。
目的はNBA優勝ただ一つ。それでも、その背景は様々だ。例えば、このチームを牽引してきたブッカーとクリス・ポールでは背景が異なる。ブッカーはまだ24歳と若く、フランチャイズプレーヤーとしてサンズを引っ張っていく立場だ。契約はまだ3シーズン残っており、ロッタリーからファイナルへと爆発的成長を遂げたチームを今後も引っ張ることだけを考えていればいい。
しかし、ポールは複雑な状況にいる。彼は36歳で、契約はあと1年残っているが、破棄してフリーエージェントになることは確実だ。昨シーズンにはサンダーをプレーオフに導き、今回はサンズをNBAファイナルに導いた。36歳でもなおリーグトップクラスの実力を持ったポイントガードであり、比類なきチームリーダーでもあって、新たに3年契約を望むと見られている。
サンズとしては何としてでも引き留めたいところだが、『何としてでも』とはいえ無条件で彼の要求を受け入れるわけにはいかない。伸び盛りの若手たちは近い将来に大幅な昇給が必要であり、大ベテランのポールに『超』が付く大型契約を提示するのは難しい。今オフにはキャメロン・ペインがフリーエージェントになり、来年にはディアンドレ・エイトンとミカル・ブリッジズの契約延長が待っている。もはやサンズは『持たざる者』ではなく、これまでとは違った悩みを抱えているのだ。
クリス・ポールはNBAキャリア16年目にしてファイナル進出を果たしたものの、優勝には手が届かなかった。モンティ・ウィリアムズはポールについて「優勝経験がないからといって彼を過小評価するのは愚かことだ」と、『またしても優勝できなかった』という批判にあらかじめ釘を刺した。それを聞いていたブッカーも「本物のフーパー(バスケプレーヤー)にとってはナンセンスなことだ」と一蹴している。
だが、優勝できなかったことを最も気に留めているのは、メディアでもファンでもなく彼自身であり、それこそがポールとブッカーの背景の違いである。ポールは36歳にしてキャリアベストのポストシーズンを過ごしたが、ファーストラウンド初戦でレブロン・ジェームズと交錯して肩を痛めた時点で終わっていてもおかしくはなかった。ファイナルではドリュー・ホリデーのディフェンスに散々にやられ、彼自身もチームが敗れる一因となった。
これは周囲がどう批判するかは関係なく、彼自身が最もよく理解していることだ。彼に残された時間は少ない。優れたフーパーだからこそ、優勝をあきらめられない。自分を高く評価し、なおかつ勝てるチームはどこなのか、慎重に見定めている必要がある。昨年オフの彼は、フリーエージェントとの交渉解禁の瞬間に、サンズとの契約を発表した。今回も決断を先送りにすることはないだろう。
何かしらの形で契約に折り合いを付けてポールの残留が決まれば、サンズは来シーズンも西カンファレンスの優勝候補筆頭となる。実際、そうなる可能性が最も高い。ポールに興味を持つチームは多いが、サラリーキャップに余裕がないか、ポジション的にハマらないところがほとんど。サラリーキャップを気にせず高額年俸を提示できるチームでは優勝が狙えず、彼は受け入れないだろう。
ファイナル第6戦を終えた直後の会見で、ポールは「自分自身を見つめ直し、どうすればもっと良くなるのか、何がもっとできたのかを考えて、来シーズンに向けて準備をしていきたい」と語っている。彼のことだから、その作業はこの数日で終えているに違いない。次の挑戦をどんなものにすべきか、そう遠くない時期に彼は決断を下すはずだ。