カワイ・レナードなど主力を欠き、紙一重の差でサンズに敗れる
第6戦の最終スコアは103-120と大敗に終わりましたが、ホームのファンから温かい拍手が送られたように、クリッパーズにとっては奮闘が光ったプレーオフでした。かつてクリス・ポールを中心とした『ロブ・シティ』時代に跳ね返され続けたカンファレンスファイナルに進出したものの、ファイナルに進むにはケガ人が多すぎました。『たられば』は禁物ではあるものの、あまりにも苦しい状況で、それでもここまで進んだチームにファンも賛辞を送ったのです。
消耗戦となった今シーズンにおいて、プレーオフ序盤でサージ・イバカが離脱し、ジャズとのシリーズではエースのカワイ・レナードが離脱し、そしてサンズとのカンファレンスファイナルではディアンドレ・エイトンを上回る存在感を発揮しつつあったイビチャ・ズバッツまでもが途中離脱しました。
もしもレナードがいれば、6試合で平均41.2分もプレーし、28.7得点、10.5リバウンドを記録したポール・ジョージへの過度な負担は軽減され、攻守にワンランクもツーランクも上のプレーを見せたでしょう。もしもイバカがいれば、アウトサイドシュートでエイトンをおびき出し、13.7本ものリバウンドは取らせなかったはずです。第6戦でクリス・ポールが41得点、フィールドゴール成功率67%を記録できたのは、適切な距離感を保ってシュートチェックに来ていたズバッツが不在だったからこそです。「たられば」は禁物ですが、主力3人の不在は余りにも不運でした。
それでもサンズとの差は紙一重でした。特に第2戦の終盤にジョージのフリースローが決まっていれば、シリーズを優位に進めたのはクリッパーズだったはずです。この小さな差を覆すには、戦力不足だったことは否めません。このフリースローミスこそあったものの、昨シーズンはプレーオフ通して見せた『精神的な弱さ』を感じさせなかったジョージが引っ張ったチームは、優れた連携というより、個人の持つ武器が組み合わさった多彩さを感じさせました。それはプレーオフで勝つために必要なことだった気もします。
昨シーズンの敗戦後には「ゲームメーカーが必要だ」と言われ、敗戦の責任を暗に押し付けられたレジー・ジャクソンは、ゲームメーク力は低くてもパスを供給しながら、高確率の3ポイントシュートと強気なドライブでジョージに次ぐ得点源として機能しました。ラジョン・ロンドを起用すれば鮮やかなアシストが期待できたでしょうが、チーム全体が消耗している中では個人で決めきる選手の方が効果的でした。
マーベリックスとのファーストラウンドで出番が少なかったパトリック・ベバリーは、マンマークでデビン・ブッカーへプレッシャーを掛けるだけでなく、ヘルプで何度もチャージドローをしていきました。スクリーンを使って3ポイントシュートを打ってくる相手にはサイズの小ささもあって上手く守れませんでしたが、1on1とドライブに対してのディフェンスが必要な場面では誰よりも頼りになるディフェンダーでした。
レナードの代役になった2年目のテレンス・マンは、本来はガードでありながら全く違う役割を当然のようにこなし、スピードと運動量という武器を使ってレナードとは違う形で機能しました。プレーオフを通じたフィールドゴールは成功率52%。アグレッシブなアタックで得点機会を作り、確実にフィニッシュへと繋いでいきました。
逆にプレーオフ途中からベンチに回ることになったニコラス・バトゥームは、ウイングスパンを生かしたディフェンスでシュート中心の相手を守り、オフェンスでは周囲のドライブに死角からのカットプレーで合わせてスモールラインナップを成立させました。同じくマーカス・モリスはスモールラインナップで活躍し、センターが相手なら3ポイントシュートを打ち、小さい選手が相手になるとポストアップで押し込むプレーで得点していきました。
19試合を戦ったプレーオフで全試合スターターだったのはジョージのみ。レナードの離脱という事情があったにせよ、固定的なスターターではなく、戦略に応じた柔軟なラインナップを組み、一つの戦い方にこだわることなく、起用された選手に応じて変化できる強みを見せました。強力なスターターを組むというよりは、違う特徴の選手を集めて機能させたことが、同じ相手との試合が続くプレーオフでは効いたといえます。
思い返せば『ロブ・シティ』時代は、強力なスターターとシックスマンで常に同じ戦い方をしており、シーズンでの圧倒的な強さに反して、プレーオフではカンファレンスファイナルにも進めませんでした。ゲームメーク力のあるクリス・ポールでは超えられなかった壁を、様々な選手を起用することで乗り越え、そしてそのクリス・ポールに沈められるという、何とも言えない結末でもありました。
レナードとイバカは来シーズンの契約がプレイヤーオプションとなっており、ジャクソンやバトゥームの契約も満了を迎えます。再びロスター構築からやり直す可能性もありますが、フロントは同じような考え方で選手を集めようとするでしょう。消耗戦のような今シーズンはクリッパーズ自身もケガに泣いたものの、それでも立派に戦い抜きました。それは「プレーオフで勝つ」ためには、多彩な武器を持ち、消耗戦に耐えて戦い抜くロスターが必要であることを示した戦いぶりでもありました。