2020-21シーズン、川崎ブレイブサンダースはチャンピオンシップのセミファイナルで敗退し、リーグ王者を逃した。それでも天皇杯を制してBリーグ開幕後では初のタイトルを獲得。チームとして進歩を見せたシーズンとなった。リーグを席巻したビッグラインナップなど新しい武器が光る中でも、変わらぬ輝きを放っていたのがニック・ファージカスだ。1試合平均20.7得点はリーグ3位、9.7リバウンドはリーグ4位で、さらには3ポイントシュート成功率でも44.1%で4位とアウトサイドからも相手ディフェンスの脅威となった。大ベテランの域に入っても川崎の絶対的エースであり続ける彼がアメリカへと里帰りする直前、今シーズンの総括を聞いた。
「勝つためにベストを尽くしたという意味で、後悔はありません」
──長いシーズンを終え、どんな心境ですか。そしてシーズン全体の評価を聞かせてください。
チャンピオンシップで敗退が決まった後、数日は辛い気持ちで過ごしました。ですが今はリラックスしています。新しいシーズンが始まるまで時間があり、ここで休みを取れるのは素晴らしいです。
今シーズンについて目標であるリーグ優勝は達成できませんでしたが、それで失敗だったと評価するのは適切ではないと思います。もう一つの目標である天皇杯は優勝できました。もちろんBリーグのタイトルに届かずにがっかりしたし、思っていたより早くシーズンが終わりましたが、天皇杯の優勝も簡単なことではありません。自分たちの成し遂げたことに誇りを持つべきです。
──宇都宮ブレックスとのセミファイナル、勝敗を分けたのは何だったと思いますか。
第2戦、宇都宮のシュート確率は本当にすごいものでした。相手に96点を取られてしまっては勝つのは難しいです。そして初戦は勝たなければいけない試合でした。65点に留まってしまったが、勝つチャンスはあったと思います。
僕たちのビッグラインナップを無効化するために、相手が対策してくることは分かっていました。彼らは帰化選手と外国籍2人の布陣においてLJ・ピークの3番起用、ビッグラインナップと2つのオプションがあることがアドバンテージになっていました。僕たちにはビッグラインナップしか選択肢がなく、それが上手くいかないことで不利な状況になってしまいました。
ノーマルラインナップをもっと使った方が良かったかもしれませんが、そこまでの道のりではビッグラインナップが機能することで勝ち上がってきました。どんな結果になるにせよ、僕たちにとってビッグラインナップがベストの布陣だったと思います。上手くいかなかったですが、ゲームプランの作成など試合前の準備から勝つためにベストを尽くしたという意味で、後悔はありません。宇都宮が良い対策を打ってきた、僕たちより素晴らしいプレーをしたということです。
──ファイナルは見ましたか? それとも自分のプレーしないファイナルは興味がないですか。
ファイナルは見ました。自分たちはあの舞台にいるべきチームと感じて、楽しく見る気分にはなれませんでしたが、僕はバスケットボールのファンでもあります。最初の2試合はともに大差での決着となって奇妙な感じでしたが、第3戦は見ていて興奮しました。
「年齢は数字に過ぎないということを証明したい」
──里帰り中はどんな風に過ごすつもりですか。
まずはリラックスして過ごし、たくさんゴルフをプレーするつもりです。その後で、身体を絞って今シーズンよりもさらに良いコンディションを作りたいです。子供たちと一緒に過ごせるのは楽しみです。
──今シーズンは、コロナ対策での入場制限などいろいろな制限がありました。仕方ないことですが、どんな気持ちでしたか。
今シーズン、家族が試合観戦に来られなかったのは悲しかったです。子供たちはロウルが大好きで、会えないことを残念がっていました。来シーズンは日常が戻ることを期待しているし、そのために自分のできることなら進んで協力するつもりです。例えば観客制限がなくなる手助けとなるなら、喜んでワクチンを接種する考えです。
──一方でアメリカではワクチン接種が進み、スポーツ観戦では観客制限がなくなってきています。滞在先のアリゾナでNBAやメジャーリーグなど試合を見る予定はありますか。
もしかしたらサンズの試合を見に行くかもしれないです。野球観戦も行きたいですね。球場はとても広く、子供たちが遊ぶスペースなど楽しい場所がたくさんあります。ハドソンを連れてジャンクフードを食べながら試合観戦するのは良いですね。
──シーズン中、自分のことを時々「おじさん」と呼んでいました。実際に年齢からくる身体の衰えを感じることはありますか。それとも本心では「年齢は数字にすぎない」という思いですか?
そういう気持ちでプレーしています。今シーズンのシュート確率はキャリアの中でも最も高い部類で、良いパフォーマンスだったと思っています。来シーズンは36歳なので「何を言っているんだ」と思われるかもしれませんが、僕はまだまだ成長したい。来シーズンはよりシュート確率を上げ、より効果的に決めたい。年齢は数字に過ぎないということを証明したいです。
──特にシーズン後半、アシストがこれまで以上に増えました。このプレースタイルの変化をどう感じていますか?
今シーズンはいろいろな役割にフォーカスする必要があって、それは来シーズンも同じだと思います。パスを出して味方のシュートチャンスを生み出す役割を楽しんでいました。僕は得点だけを狙っているわけではなく、より効果的なプレーをすることを意識しています。常に考えているのはチームの勝利のことだけです。
「悲しいですが、僕も辻もこれがプロなら起きうることだと分かっています」
──辻直人選手の移籍はファンに大きな衝撃を与えましたが、ニック選手はどんな思いでしたか。
辻とは9年間と、本当に長い間一緒にプレーしていたので驚きました。家族も含めて良い友人関係を築いていたので離れ離れになるのは悲しいです。ただ、僕も辻もプロであるが故に誰にでも起きうることだと分かっています。辻だけでなく、選手の移籍は本当に活発になってきました。JBL、NBLの時代だけでなくBリーグが始まった時も移籍は少なかったのが、実績のあるなしにかかわらず、契約が満了になった選手の移籍は増えています。チームの運営側から見たら、編成がより難しくなっていますね。
活発な補強を行うチームもあり、勢力図も変わってくるでしょうが、勝ち抜くにはチームとしての一体感が必要です。それは主力が同じメンバーで長く一緒に過ごすことで練り上げられていくものです。少なくともシーズン開幕前の1、2カ月でチームがまとまるのは簡単ではないと思います。
──まだロースターは確定していませんが、川崎の動きについてはどう見ていますか。
来シーズンも引き続きチャンピオンを狙えるチームになると思っています。何人か選手は去りましたが、穴を埋める選手たちが入ってくれます。来シーズンはこれまでとは少し違うチームになるでしょう。ただ、それは悪いことではないはずです。天皇杯では優勝しましたが、リーグ戦を勝ち抜くことはできなかった。だからこそ、僕らは変化に尻込みをしてはいけないのです。
今シーズン、天皇杯には勝てたのはうれしいですが、やはりリーグチャンピオンを逃した悔しさが大きいです。自分があと何年プレーできるかは分からないですが、早くリーグチャンピオンにならないといけない危機感はあります。
──最後、ファンへのメッセージをお願いします。
皆さんのサポートに感謝しています。新シーズンはアリーナがいつもの状態に戻り、より多くのお客さんが会場に来てくれることを期待しています。皆さんの存在がBリーグをより特別なものにしています。新シーズンが皆さんにとってさらに特別な1年になるために、僕も全力で頑張ります。
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