取材・文=三上太 写真=Getty Images
PROFILE 内海知秀(うつみ・ともひで)
1958年12月7日生まれ、青森県出身。能代工、日本体育大を経て、日本鉱業で活躍。引退後の1988年に札幌大で指導者としてのキャリアをスタートさせた。2003年、JXでの手腕を評価され女子日本代表監督に就任し、アテネ五輪を戦う。JX-ENEOSを経て2012年に日本代表監督に復帰。4年がかりで強化したチームを率いてリオ五輪を戦い、ベスト8進出を果たした。

僕自身がベンチで少し冷静さを欠いていました

──次はオーストラリア戦です。見ている誰もが勝てる、もしくは勝っておきたかったと思える試合でしたが、結果としては86-92で敗れました。

内海 トランジションで速い展開に持ち込めたことは良かったです。5月の国際強化試合でも良い場面がありましたが、それをそのまま最初から出し続けられていたし、ディフェンスも頑張っていました。ただ第4ピリオドだけ33失点なんですよね。そういう展開は経験したことがありません。アメリカは別ですけど、それ以外の国と対戦してそうした経験はなかったので、対応できませんでした。しかもエリザベス(・キャンベージ)に第4ピリオドだけで18点も入れられている。オーストラリアからすると、最後は彼女の高さで押し込むしかなかったわけです。日本としたら彼女を抑えられなかったことと、反対に自分たちが相手のゾーンディフェンスに対して得点を伸ばせられなかったことが、勝敗を分けたと思います。

──確かに日本の第4ピリオドは得点が15点で止まっています。

内海 オーストラリアがインサイド一辺倒で攻めてきて、シュートの確率が非常に上がったわけです。日本としてはディフェンスでボールを奪って、相手がゾーンを組む前に攻められなかったことがまず一つ。ゾーンディフェンスに対して『がっぷりよつ』の形にならざるを得なかった。そこでしっかりとしたゾーンアタックをして得点をつなげられていれば違ったかもしれません。実際にいくつかノーマークになったシュートもありましたが、それも外れてしまった。

──しっかりゾーンアタックをしておけば良かったと?

内海 ゾーンアタックそのものはやっていたんですが、ゾーンディフェンスの狙いは相手のリズムを変えるためのものです。こちらとしてはノーマークのシュートにまでは持ち込めたけど、精神状態が整っていなかった。それは選手だけの問題ではありません。「ゾーンディフェンスを敷かれた時、ノーマークなら積極的に打っていこう」という気持ちが僕の中にもあって、それが選手に伝わったのかもしれません。僕自身がベンチで少し冷静さを欠いていました。「一度ゆっくりでいいから、ゾーンアタックでしっかり攻めよう」という精神状態であれば、選手たちももう少し落ち着いていられたのかもしれません。それまで「相手が戻る前に攻める」という形が功を奏してリードを奪ってきたから、あの場面でも……。そこは僕の責任だと思います。

──大変失礼ながら、内海ヘッドコーチがそうした反省を口にするのは珍しいので、少し驚いています。それくらいオーストラリアの負けは痛かった。

内海 そうですね。選手たちは本当によく頑張っていました。次回、同じように戦えと言われても、なかなかあんなゲームはできないと思います。だからこそ、勝てるチャンスで勝っておかなければいけないんです。そういう悔しさは僕の中にも残っていますから。

五輪でさらに強くなってきたと感じました

──予選最後のフランス戦では得失点差も求められました。

内海 1点でもいいから勝てば良いというのではなく、「13点差を目指そう」、「15点差を目指そう」という雰囲気でした。第1ピリオドこそそんなに離れませんでしたが、選手たちは「勝つんだったら1点差じゃなくて13点差だ」という気持ちを持ち続けてくれました。だから第4ピリオドまでにそれが実現可能な状況にできていたと思います。

──FIBAランキング4位のフランスに対して、13点差以上で勝とうと思えるメンタリティは今までにないことです。

内海 こちらも本来なら「1点差でも勝てば御の字だよ」という考えはあります。でも大会を進めていく中で、チームとしても選手としても自信が付いてきたことを感じていました。「13点以上を目指そう」となった時、選手たちもそういう顔つきをしていました。選手たちはそういう意味でも成長してきているし、リオ五輪でさらに強くなってきたと感じました。

──ただ勝利したものの、実際に得失点差をひっくり返すまでには至らず、79-71でした。フランスも得失点差を分かっているから、計算したゲーム運びをしていました。そこへの悔しい思いはありますか?

内海 もちろんです。終盤に11点リードするなど、目標に届きそうなところまでいきましたからね。その点差で勝ちたいという思いは強かったですね。

──最終盤、三好南穂選手を出して、彼女が3ポイントシュートを決めました。あのシーンは最後まであきらめず、貪欲に点を取りに行こうとする姿勢の表れでした。

内海 彼女はそういう選手だから。3ポイントシュートという魅力を持っているから出したわけです。

──しかもステップバックでの3ポイントシュートでした。

内海 いや、あれはもう彼女の個人技ですよね。でも「打ってこい」と言えば、しっかりと打って、それを入れてくれる。あれは彼女の強さがすごいんです。

内海知秀ヘッドコーチが振り返るリオ五輪vol.5
「激闘レビュー:チームUSAへの挑戦」