田代直希

「スマートさを織り混ぜていかなければいけない」

琉球ゴールデンキングスの2020-21シーズンは、千葉ジェッツとのセミファイナル第3戦に敗れて終わった。運命の第3戦は前半こそ互角に渡り合ったが、後半になると攻守の運動量、インテンシティがともに落ちてしまう。クォーターファイナルで富山グラウシーズと第3戦までもつれる激闘を繰り広げ、24日間で11試合目となった影響か、藤田弘輝ヘッドコーチも「後半はちょっとガス欠な印象でした」と語った。

その結果、後半は攻守で本来のパフォーマンスを見せることができず71-89と大敗を喫してしまった。キャプテンの田代直希はこう振り返る。「自分たちの負けパターンがすごく出てしまった試合で悔しい終わり方でした。みんなの気持ちは前に出ていましたが、負けパターンである1対1に頼ってしまった。自分たちの流れでバスケットボールができなかったことが、点差が広がっていった要因だと思います」

「体力面の消耗はかなりあったと思います」と続けるが、他に根本的な問題があったと冷静に語る。「それで判断力が鈍ったしまった面はあったと思いますが、シーズンを通して僕たちの悪いパターンを認識できていなかった。1対1で点を取りにいくのは僕たちにとって良いオフェンスではないので、それを徹底できていなかったこともあります」

琉球にとってセミファイナルでの敗退はこれで3回連続となり、第3戦で散るのは前回の2018-19シーズンに続き2回連続だ。あと一歩で届かないファイナルへの道を切り開くには、田代は継続性が重要と考える。

「僕にはコントロールできないことですが、多くの同じメンバーで来シーズンを始められたら、今回のチャンピオンシップは僕らにとって良い経験、土台となります。今村(佳太)選手、牧(隼利)選手と、チームの核になっていく選手が経験を積めたのは大きかった。それを来シーズンに繋げることができれば結果も変わってくると思います」

ただ、過去2回と全く別物のチームでも地区王者となり4強に進んだことは、チームの標榜するハードワークがメンバーに左右されることなく、文化としてしっかりと浸透できていることの証明だ。

田代も「ハードワークは根付いてきています」と自信を見せるが、頂点に立つにはハードワーク以外の要素も必要だということも分かっている。「それだけでは勝てない。ハードワークをしながら、これだとやられてしまう。こういう攻め方をする必要があると判断できるスマートさを織り混ぜていかなければいけないと思います」

田代直希

「気持ちを込めてバスケットをする必要がある」

田代個人で言えば、昨シーズンは左足首の手術によってわずか20試合出場でシーズン終了と不完全燃焼に終わった。それだけに、キャプテン2年目の今シーズンはより期するものがあった。しかし、手術をした影響で、「足首が前のように動かなくなり、これまでのようにジャンプしたり、走れなくなりました」と失ったものがあるだけでなく、大きな困難を抱えながらシーズンを戦った。

「試合でハードワークをし続けると、足首が動かないので膝に影響が出ます。シーズン中、膝に何度も水が溜まっては抜いての繰り返しをやってきました。休みの日もケガをしないためのトレーニングを続けてきました」

試合中の田代は、そんな苦しみを微塵も感じさせないハードワークをコートで披露し続けた。そして、キャプテンとして初めて臨んだチャンピオンシップは、これまでにない強い覚悟を持っていた。

「今まではプレータイムがもらえるか、もらえないか。活躍できるか、できないかの選手でした。一歩ずつステップアップしてきて今年はコートに立つのが大前提で、その上でどういった貢献ができるのかを自分に課していたところがあります。去り方は毎年一緒ですが、自分自身のプレー、世界の見え方は全く違いました」

その上で、本人は自分のリーダーシップに関して厳しい自己採点を下した。「チームのみんなを引っ張ってきたかと言われると、正直、そうではなかったと思います。個性のあるメンバーで一つにまとめることはできなかったですが、各々が考えて行動していました。特にチャンピオンシップは勝ちにみんながフォーカスしていて、僕がいなくても勝手にチームがまとまる。優秀なメンバーに囲まれてここまで来れました」

「言葉だけでは人は動かない。第2戦のディフェンスで何人かの選手に火をつけることができましたが、それが僕の目指しているところです。行動で示す。プレーに対する結果は求められてくると思うので、そこは課題として残ります」

ただ、田代のハードワークを体現する闘志あふれるプレーに、多くの人々はチームリーダーとしての頼もしさを感じていたはずだ。琉球の目指すスタイルを最もプレーで示した1人は間違いなく田代であり、彼は名実ともに大黒柱としての地位を確立した。

新たな本拠地である沖縄アリーナは、満員で8000人とこれまでの倍以上の収容人数を誇る。だからこそ、田代はすべての試合で全力プレーが必要と言う。

「その分、僕たちはちゃんとプレーをしなければ、つまらなかったと帰る人数も多くなります。どれだけ情熱を持って激しくプレーし、お客さんの胸を打つことができるのかがより求められます。今日も最後に手を振った時、観客席の一番上の人はかなり距離があると感じました。それでも、チケットを買って見に来てくれる人のためにも僕たちは気持ちを込めてバスケットをする必要がある。その責任は間違いなくあると思います」

このチャンピオンシップ、田代が背中であるべき姿を示した琉球は、沖縄アリーナ最上段の観客の心にも響く戦いぶりを見せた。それを来シーズンも継続することができれば、結果としてチームはさらなる成長を果たすことができる。そのためには、琉球の文化を体現する田代が必要だ。