中堅も若手も大きく成長、チーム作りは順調
女子日本代表は9月末に行われるワールドカップに向け、着々と準備を整えている。だが、始動した当初のチームには少なからず不透明な部分があった。不動のポイントガードとして、そしてキャプテンとして長く代表を引っ張った吉田亜沙美、インサイドの要でありチームワークを下支えしていた大﨑佑圭の2人が揃ってメンバーを離れたからだ。
それでもワールドカップ開幕まで1カ月半と迫った今、指揮官トム・ホーバスの下でチームは右肩上がりの成長を続けている。
言うまでもなく、吉田と大﨑の穴はすぐに埋まるものではない。しかし、百戦錬磨のベテランである髙田真希に続き、町田瑠唯、宮澤夕貴、長岡萌映子といった、2016年のリオ五輪を経験した20代中盤の選手たちが中心選手へとステップアップ。そして赤穂さくら、ひまわりの姉妹、オコエ桃仁花といった新たな世代が台頭したり、これまで世代別を含め代表に縁のなかった本橋菜子という新戦力も出現。ここまでの強化試合は8月5日、7日に行われた世界ランキング5位のカナダに連勝と上々の結果を残している。
現在の代表は、これまで以上に3ポイントシュートを積極的に放つスタイル。センターの髙田を含めコートに出ている5人全員がチャンスと見るや打っていく。カナダとの2試合目、日本は3ポイント31本中9本成功の内容だった。30本は一般的に多い本数であるが、ホーバスは「1試合25本から30本は打っていきたい」と語る。
「3ポイントシュートはあまり入らなかったけど、3ポイント、インサイド、フリースローとオフェンスのバランスは悪くなかったです。3ポイントは入らない試合もありますが、打っていくことで相手はウチの3ポイントへの怖さがあるので中に入って行けます。オフェンスのバランスは本当に必要です」と、3ポイントシュートはただ打って決めるだけでなく、ゴール下へのアタックを成功させるためにも大事だと語る。
「このチームにとっては当たり前じゃない」との戦い
ここまで順調な歩みを見せているチームの仕上がりについて、「若い選手たちは、私のバスケで分かっていない部分もありますが、言われたことはちゃんとやろうとする強い気持ちを持っています」と若い選手たちの奮闘を評価する。ただ、次のように課題も挙げる。「もっときれいなエクスキューション(遂行力)のために、良いコミュニケーションを取らないといけないです。チームには大きい声を出せる人があまりいない。トランジションの守備では、コミュニケーションをしっかりしないと簡単にレイアップを打たれてしまう」
「今日は声を出して、コミュニケーションがすごく良かった。これは経験のあるベテランのチームだったら当たり前のこと。でも、このチームにとっては当たり前じゃない。そこはもっと上手にやりたい。アメリカ、オーストラリアと世界トップレベルの相手にはローテーションが少しでも遅れたら対応できない。ファウルするしかないです」
この声かけの部分は、まさに吉田や大﨑といったリーダー不在のマイナスが大きく出ている部分であり、ここは若手だけでなく、チーム全体での更なる意識改革が求められる。
どこよりも長い準備期間で作る『チームの一体感』
ちなみに「今回はいなかったですが、カナダには2人の大きなツインズ(身長190cm)がいます。このメンバーでワールドカップに残るのは7人、8人かもしれない。9月に対戦する時はもっとキツい相手になる」とホーバスが語るように、今回の相手はベストメンバーではなかった。カナダに限らずワールドカップ本番では、WNBAなどで活躍する傑出した個の力を有するチームと対峙しなければならない。高さ、身体能力など単純なタレント力の総合値で言えば、女子日本代表は世界上位チームではない。
しかしホーバスは、日本には個で劣る部分を補って余りある、どこにも負けないチームの一体感があると力強く語る。「カナダ、アメリカなど、みんな日本ほど長い間、チーム練習をやっていないです。そこは日本のアドバンテージです。選手たちにはいつも『ウチより大きく強い選手が揃うチームはいるかもしれないけど、ウチが一番良いチーム』と言っています。そこはみんな信じています」
ワールドカップでメダル圏内の位置にするチームの中では、どこよりも長く代表として練習を積み重ねていた。そこで熟成された阿吽のコンビネーションと女子の世界では最先端のスモールバスケットボールを武器に、ホーバスは日本を世界の高みへと導こうとしている。