ジェームズ・ハーデン

文=神高尚 写真=Getty Images

昨シーズンはリーグ最高勝率を挙げ、プレーオフではウォリアーズに対し3勝2敗と追い詰めたものの、最後はクリス・ポールのケガに泣いたロケッツ。攻守にリーグトップクラスのチーム力はクリス・ポールの加入が大きかったと言えますが、実はオフェンス面では加入前と加入後で大きな差はありませんでした。むしろ2016-17シーズンはリーグ3位の25.2本を記録したアシスト数は21.5本で26位まで急落。より個人の力に頼った形で機能したチームとなったのです。

その中心にいるのはシーズンMVPに輝いたジェームス・ハーデン。指揮官であるマイク・ダントーニの奥さんに「主人はハーデンに恋をしている」とまで言わせた多彩なスキルとコートビジョンを併せ持つコンボガードは、NBAで最もパスをしないチームに最高レベルのオフェンス力をもたらしています。

ドライブ、ステップバック、ドローファール

ダンスを踊るようなリズミカルなハーデンのドリブルワークは、緩急織り交ぜたドライブと組み合わさることでディフェンスを悩ませます。決して速いわけではないからこそ、ギリギリの間合いをキープしながら、ディフェンダーの動きを観察します。ハーデンは相手の動きに合わせた対応を重要視しており、レッグスルーを繰り返すなど細かく、そしてしつこく前後左右にボールを動かす中で、ディフェンダーが反応してバランスを乱した瞬間に一気に逆を取る加速でドライブを決めていきます。ドライブから生み出した11.5得点はリーグ最高の数字でした。

ならばディフェンダーはバランスを崩さないように細心の注意を払い、ハーデンの動きに反応しないでスタンスを守ろうとしますが、そうなると得意の大きなステップバックシュートを狙ってきます。難しいはずのステップバック3ポイントシュートでさえ44.6%の高確率で決めました。

先に反応しては抜かれてしまう。先に反応しなければ追いかけられない間合いまで下がられてしまう。どちらにしても苦しいのであれば、よりハイプレッシャーでボールを奪いに行くしかありません。そこでそもそもドリブルさせないほど距離を詰める守り方をするのですが、得意のファウルを誘う動きでフリースローを稼ぎ、リーグで最も多い10.1本のフリースローを打ちました。

前に出ればドライブでかわされ、スタンスを保てばステップバックで打たれ、プレッシャーをかければファールになる。ハーデンの1on1スキルは単調な一面があるのですが、一つひとつが高い決定力を誇り、何よりハーデンがその選択肢をほとんど間違えないため、ディフェンダーからすると何をしても止められない印象となります。後手に回れば深みにハマるようにハーデンのリズムに吸い込まれてしまうのです。

そんなハーデンの個人技をベースとしていることもあり、ロケッツはチームとしてのオフェンスパターンも決して多くはありません。それでも高い精度で実行するため止められなくなりました。特に昨シーズンは「7秒オフェンス」と呼ばれるダントーニ流のラン&ガンから、時間をかけて組み立て直してでも良いシュートセレクションを待つようになりました。

それを可能にしたのもまたハーデンの落ち着きです。ディフェンスにプレッシャーをかけることを許さないステップバックシュートを用いて、全シュートアテンプトの18%にあたる3.4本をショットクロック残り4秒以内で打ちました。これは2位のレブロン・ジェームスの2.3本に大きな差をつけての1位です。4位にはクリス・ポールもいて、この2人が『最後に何とかできる』からこそ慌てないロケッツオフェンスになったのです。

ハーデンを生かし生かされるのがロケッツ

ロケッツはダントーニでなくても恋をしてしまいそうなハーデンの個人能力を中心に設計されたチームですが、チームとしてもハーデンが最大限の能力を発揮できるように整備されています。

得点王になったハーデンはアシストでもリーグ4位になりました。そのパスは正確無比なパスというわけではないものの、味方のスピードを殺さない絶妙なタイミングのパスが多く、センターのクリント・カペラはビックマンながらスピードという特長を生かしフィールドゴール率65.2%を記録し、エリック・ゴードンはリーグで最も多くワイドオープンでの3ポイントシュートを打ちました。

ハーデンのパスが周囲の得点を生み出し、周囲の動きがハーデンのプレーを楽にしていくのがロケッツです。広いスペーシングでアイソレーションンを容易にし、複数のオプションが用意されたピック&ロールはディフェンスを混乱させ、オフボールの細かいポジショニング変化でヘルプディフェンスを難しくします。そしてディフェンスでは負担が軽そうな相手を選ばせて楽をさせてくれます。

このオフにロケッツは打倒ウォーリアーズのためカーメロ・アンソニーを補強し、これまでなかったインサイドから始まるオフェンスパターンを増やすことに成功しました。チームがワンパターンに陥ったときのオプションを多彩にするスターが揃ったことは、オフェンス面でハーデンの負担を軽減させるはずです。

しかし、ダントーニが最も頼りにし、勝負を決める場面を託すのがハーデンであることは変わりません。3年目を迎えるヘッドコーチとエースの恋物語。すでに最優秀コーチ賞もMVPも手にした2人が欲しいのはチャンピオンリングだけです。