津屋一球

東海大のキャプテンとしてコート内外でチームを引っ張り、2年ぶり6回目のインカレ優勝に貢献した津屋一球は、三遠ネオフェニックスでBリーグデビューを果たした。デビュー戦では得意の3ポイントシュートを2本決め、その後もローテーション入りを果たすと、ここ6試合では先発に据えられている。Bリーグでの手応えや、かねてより挙げていた「元気や勇気を与えられるようなプレーをしたい」という目標について話を聞いた。

デビュー戦は「緊張よりもテンションが上がった方が勝ちました」

──12月の中旬から特別指定選手として三遠に加入し、先日には2020-21シーズンの選手契約が発表されました。まずは三遠に加入した経緯を教えてください。

僕はBリーグを目指していましたが、大学4年生のシーズンが始まる時に世の中がコロナになり、アピールの場がなくなってしまいました。コロナの状況があり、実業団のチームからも声を掛けてもらっていたので、実業団に行くかBリーグを目指すか迷っていたんです。それで陸さん(東海大の陸川章ヘッドコーチ)に相談したら、「後悔しないためには、自分がやりたいことをちゃんと考えてから俺にまた言いに来い」と言われました。そこでやっぱりBリーグに行きたいと思って、実業団をお断りさせていただきました。ただ、コロナで練習はできないし、試合もできるかどうか分からない時に、三遠がたまたまトライアウトをやっていたんです。自分でアプローチをしなきゃとトライアウトに参加させてもらって、その数日後に三遠に声をかけてもらいました。他のチームも考えてはみましたが、やっぱり三遠は自分のプレーを直接見て声を掛けてくれましたし、新しいヘッドコーチがセルビアの方ということもあり、学ぶところがいっぱいあると思って、そのまま三遠を選びました。

──大学2年生の時にも『バスケット・カウント』では取材をさせてもらっていますが、当時から「Bリーグでプレーすることしか考えていない」と言っていました。その夢がかないましたが、率直にどんな気持ちでしたか?

あまり実感がなかったですね。まだ正式な契約ではなく口頭での合意だったのですが、そこから大学のシーズンだったので、まずは「大学バスケを頑張らなきゃ」というのが正直なところで、心の余裕はなかったですね。ただ、Bリーグのチームで、あれだけの観客の前でバスケができるんだという喜びはすごくありました。

──12月20日の新潟アルビレックスBB戦でBリーグデビューを果たしました。実際にお客さんの前でバスケットをした時はどんな気持ちでしたか?

プレーを見てもらうことがすごく好きなので、本当にテンションが上がりましたね。緊張よりもテンションが上がった方が勝ちました。だからこそ、自分の持ち味のシュートをデビュー戦で決めることができたのかなと思います。緊張したら躊躇してしまうかもしれないので。

──ここまで15試合に出場して、平均プレータイム18.5分で6.1得点、1.5リバウンドを記録しています。Bリーグでの手応えはどうですか?

デビュー戦を含め、1月中旬ぐらいまではチームのシュートではなく、新人としてのシュートを打っていて、チームが勝つためのシュートを打てていなかったんです。例えばメモリータイムとかに出た時は自分のアピールの場ではありますけど、チームの勝利に貢献したのかと言われれば、そうではありません。

早くチームの勝利に貢献できるようになりたいと思っていた時に、ケガ人が増えたこともあってプレータイムをもらえるようになりました。1月末の琉球ゴールデンキングス戦あたりから、やっとチームのシュートを打てるようになったというか。「チームのために」という感じが自分の中でもだんだんと出てきて、そうしたら周りもパスをくれるようになりました。意外と早くチームのシュートを打てるようになったことは、うれしいです。

津屋一球

「まずは信頼を勝ち取ることが大事でした」

──確かに琉球戦からの7試合は平均26.8分で9.5得点とスタッツにも表れていますね。これは気持ちの変化だけでなく、単純にプレータイムが増えたことが大きいのか、それともチームに馴染んで歯車が徐々に噛み合ってきたのか、どちらですか?

両方ですね。Bリーグに入ってから外国籍選手のレベルの高さには苦労しました。簡単にドライブに行けなかったり、ディフェンスのアジャスト、ヘルプの意識とかも大学バスケとは違います。そういう部分で徐々に感覚をつかんできて、やっと歯車が合ってきたなと思った時に、プレータイムももらえるようになりました。なので、ちょうどマッチしたなという感じです。

──ここ6試合は先発出場も果たしています。個人的に「このチャンスをつかみたい」という気持ちはありましたか?

チームメートのケガは良いことではありませんが、心の中では「これはチャンスだ」と、自分を出しまくるしかないと思いました。それは試合だけでなく練習中から「津屋でもいけるだろう」という信頼をチームメートから勝ち取らなきゃいけないと。そのためにも先輩たちにすごく質問していて、気になったことは全部聞いています。先輩たちとの歯車を合わせるためにも、まずは信頼を勝ち取ることが大事でした。

──では、ここをもっと強化したいというポイントはありますか?

もともと3ポイントシュートが得意なんですが、ここ最近の試合では確率が本当に良くなくて、SR渋谷戦でも7本中3本の成功でした。自分としては4割以上は絶対に決めたいです。あとは、ディフェンスの対応力です。ただ、こればっかりはマッチアップする選手によって間合いも違いますし、本当に微妙な数センチの世界ですけど、例えば川嶋(勇人)さんはその対応力があるのでスティールが上手いですよね。岡田(慎吾)さんは3人分、5人分のディフェンスをします。その2人にはディフェンスのことをすごく質問して、この2カ月で試しながらつかめてきた感じです。

──今までも高校、大学と大きな舞台を経験していますが、それとBリーグではまた違いますか?

今までもウインターカップやインカレという舞台を経験はしていますが、メインコートでプレーをしたことはないんですよ。インカレではメインコートに立ちましたが、そこまでプレータイムはありませんでした。なので、今年のインカレがチャンスだったんですが、コロナの影響で無観客になってしまって。ウインターカップでもメインコートには立っていないですし、そういう意味だと今までは自分の中で注目されている感覚がなかったんです。でも、Bリーグだとお客さんも多くて、演出もすごいですし、フリースローとかめちゃめちゃ緊張しちゃって確率もすごく悪いんですよね(笑)。

──原因はやはり緊張ですか?

はい。「今、めっちゃ見られてる!」みたいな(笑)。これは言い訳ですし、自分の弱さなんですけど。でも、それだけ応援してもらっているし、高校や大学よりもファン方の応援も熱くて、そういう意味ではBリーグは別の世界だなと感じました。オープンショットもちょっと緊張しています。

──この取材中もとても落ち着いていてルーキーらしさを感じませんでしたが、その話を聞いてちょっと安心しました(笑)。

意外と小心者です(笑)。

津屋一球

「ファンの方たちもハッスルプレーを見たら一番グッと来ると思う」

──三遠に加入した時のリリースで「元気や勇気を与えられるようなプレーをしていきます」とコメントしていました。まだ、入って間もないですが、そういった反響はありましたか?

最近ですと、僕と同じ片耳難聴のお子さんを持つ親御さんからコメントをいただきました。その方は、息子さんがスポーツをやりたいと言い出しても、耳が聞こえないことで止めさせるかもしれないと考えていたようなんです。ただ、難聴の僕がBリーグでプレーしているのを見て、「自分を怒りたくなりました。息子がバスケをしたいと言ったら、津屋くんみたいな人もいるから、そこを目標に頑張らせてあげたい」と言ってくれたんです。それって僕が一番やりたいことだったので、うれしかったですね。

──いつ頃から、そう思うようになったんですか?

高校生の頃から思ってはいたんですけど、実際に自分で行動を起こしたのは大学3年生からですね。高校の時にデフバスケットにかかわり始めて、そこでデフバスケの監督の上田頼飛さんからいろいろな話を聞くようになりました。難聴と分かっていてもそれをさらけ出したくない、という人は自分の周りにもいます。上田さん自身は障害はありませんが、「障害があっても頑張る姿を人に見せる」とか「障害があるからって支援されることは当たり前じゃない」という厳しい励ましの言葉ももらいました。

その中で、自分と同じ障害を持っていても頑張っている人ってたくさんいるんだなと思って。その時に自分がそう感じたので、逆に今度は自分がもっといろいろな人にそう思ってもらいたいと高校の時に思いました。ただ、当時は結果がなかなかついて来なくて。そういうこともあって、陸さんに呼んでもらったこともあり東海大に入ったんです。陸さんからは人として成長させてもらいましたね。それで、大学3年生の時に上田さんから「そろそろ動きだしたらどうだ」と言ってもらって、そこからSNSを使ったりして、自分が難聴であることをもっと公にしたりするようになりました。

──では、元気や勇気を与える面の目標とは別に、プレー面での具体的な目標はありますか?

いっぱい点を取るとかではなくて、スタッツに残らないような部分ですね。NBAを見ていても思いますが、応援したくなる選手ってルーズボールに飛び込んだり、サイズが小さくてもリバウンドに飛び込んだりとか。そういうプレーを見ていてすごいと思いますし、自分もやらなきゃと感じます。ディフェンスではアグレッシブにプレッシャーをかけたり、外国籍選手がいてもリバウンドに飛び込む、ボールが外に出ると分かっていても追いかける。そういうプレーをもっともっとやっていきたいですし、表現したいなと思います。

──数字よりもハッスルプレーでチームに勢いを与えて、見ている人に元気を与えたいという気持ちの方が強いですか?

そうですね。もちろん、チームが勝つためにプレーするのが大前提です。ただ、チームが勢いに乗る時ってハッスルプレーが出た時とかじゃないですか。そういう意味でも、ファンの方たちもそういうプレーを見たら一番グッと来ると思うので、そこを頑張りたいですね。

──では、最後のファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

僕自身としては、いろいろな人に勇気や希望を与えられればと思っています。アグレッシブさやルーズボール、リバウンドに飛び込むプレーを注目してもらいつつ、チームに影響を与えていく姿勢を見てもらいたいです。そして『津屋ってる』でもいいので、ツイートしてもらえるとうれしいです。応援よろしくお願いします。