山口颯斗

「オーバータイムを2試合続けて勝つこともできて良かった」

今年のインカレで筑波大は2連覇こそ逃したが、準々決勝、準決勝と2試合連続でオーバータイムの激闘を制し、2年連続の決勝進出を果たした。その原動力となったのは絶対的なエースとしてチームを牽引し、敢闘賞に選出され得点王に輝いた4年生の山口颯斗だ。

194cmのサイズでガード陣と遜色ないボールプッシュの推進力を持つ彼の繰り出すドライブは、スピードとパワーを兼備し今年の大学界では頭一つ抜けていた。また、今大会の筑波大は平均得点が60点台と大会を通してオフェンスがなかなか噛み合わずに苦しんでいたこともあって、エースの山口はハーフコートオフェンスでは相手から徹底マークにあっていた。その結果、何度もタフショットを強いられシュート確率は決して良くはなかった。しかし、それでも集中力を切らさずに最後まで強気なプレーを貫くことで、アタックからのフリースローを獲得して得点を重ねる。そして、ここ一番でシュートを決めきるなど、心身ともにタフなところを存分に示した。

準々決勝の途中でキャプテンを務める司令塔の菅原暉が故障離脱したこともあり、勝ち上がるたびに山口の負担は増大。「決勝は正直キツかったですが、気持ちでやるしかなかったです。第4クォーターでは足がつってしまいましたが、公式戦では人生で初めて足がつったのでびっくりしました」と振り返るように、肉体面は悲鳴を上げていた。だが、そんな状態でも決勝はチームハイの16得点7リバウンドと奮闘。最後まで名門、筑波大の大黒柱として、コート上で圧倒的な存在感を発揮していた。

「プレーで引っ張ることができたと言って良いのか分からないですが、決勝まで来ることができました。オーバータイムを2試合続けて勝つこともできて良かったです」

このように大学最後のインカレを総括する山口だが、今年は4年生となりエースとしての役割に加え、リーダーとしても大きな成長を見せた。そこには「オータムカップで自分の思うようなプレーはできなかったです。そしてチームも勝てずに良い流れも来なかったです。インカレの3日くらい前、去年の大会を思い出している時に、『このままで良いのか』という気持ちになりました」と、インカレ前哨戦となったオータムカップで消化不良に終わった反省があった。

そして菅原の離脱を受けたことも契機となり、一つの殻を破る。「菅原が離脱したことで、4年生は僕しかコートにいない時間帯も出てきます。自分は声を出して引っ張るようなキャラではないですけど、そこで僕が無言だったら勝てるわけはない。そういう意識が芽生えました」

山口颯斗

「オールラウンダーになれれば日本代表も見えないわけではない」

これから、より高いステージで活躍するためには自分の思っていることをしっかりチームメートに伝え、相手の考えを聞き出すコミュニケーション能力は、プレーの精度を高めるのと同じくらいに大事な要素だ。その意味においても、このインカレは山口の今後のキャリアに向けての実り多きものになったはずだ。

昨年は主力としてインカレ優勝に貢献し、今年は絶対的エースとして準優勝に導いた山口は間違いなく世代を代表する選手で、これからはBリーグでの活躍が大いに期待される。昨シーズンは1月から地元チームである宇都宮ブレックスに特別指定で加入したが、コロナ禍によるシーズン打ち切りの影響もあって足跡を残せずに終わってしまった。

しかし、4年生のシーズンで心身ともにステップアップした今の彼なら、強力ドライブを武器にオフェンス、中でもトランジションにおけるフィニッシャーとして即戦力の働きが期待できる。そして、本人はトップリーグで活躍するために何をやるべきかしっかり把握し、その先を見据えた高い向上心は頼もしい。

「今大会、僕的にはアシストもそんなに多くなく、ピック&ロールでのミスも多かったです。次のステージでは外国人選手ともプレーするのでピック&ロールから自分で行くだけでなく、判断良くパスをしないといけない。得点だけでなくディフェンス、パスも磨いてオールラウンダーになれれば日本代表も見えないわけではないではないと思っています」

これからBリーグは中盤戦に突入していくが、そこで山口がコート上で躍動していてもそれは決して驚くべきことではない。彼がネクストステージにどのチームを選び、そこでどんなプレーを見せてくれるのか楽しみだ。