大倉颯太

優勝直後、河村から言われた『もっと喜んで』の一言

2020年のインカレ男子王者に輝いたのは、コロナ禍で開催中止となった関東大学リーグの代替大会であるオータムカップを圧倒的な強さで制した大本命の東海大だった。そして、世代を代表する選手たちが多く集まるタレント集団を卓越したリーダーシップとプレースキルの両方でまとめ上げる大黒柱が大倉颯太だ。

今大会、大倉はアシスト王のタイトルを獲得しているが、1試合最多得点は11点とスタッツ的には決して際立ったものではなかった。それでも最優秀選手賞に選出されたことが、彼の存在の大きさを物語っている。

今年の東海大はインカレの全試合で18点差以上の勝利と盤石の強さを見せた。決勝戦でも試合の出だしこそ互角の戦いとなったが、第2クォーター終盤にリードを2桁に広げると、第3クォーター序盤の猛攻でさらに突き放し、危なげない試合運びで優勝を決めた。

それでも、陸川章ヘッドコーチが「相手のチェンジング、ゾーンディフェンスに手こずったところがあり、我々の頭脳である大倉颯太はすごく悔しがっていました」と語ったように、大倉の第一声は「悔しかったです」の言葉だった。

確かに、後半に入って筑波大が行った守備の仕掛けに対して、オフェンスが停滞してしまった時間帯はあったが、結果が示すようにこれは東海大優位の流れに大きな影響を及ぼすようなマイナス要素ではなかった。それでも大倉にとっては心に強く残る反省点だった。

「4年生を勝たせることができてホッとしています」と安堵の次にくる感情は、喜びよりも決勝で会心のパフォーマンスができなかったことの反省だった。「4年生とビッグマンがタフに戦い続けてくれたことでこういう点差になりましたが、相手のゾーンに対して僕がアジャストできなかったのは本当に悔しいです」

その気持ちは優勝直後、周りが歓喜に湧いている中でも続いており、「どうやってやれば良かったのかと考えていたら河村(勇輝)から『もっと喜んで』と言われ、それでちょっと笑ってしまいました」と振り返るほどだった。

大倉颯太

練習生として再び千葉ジェッツに加入

言うまでもないが、大倉は自己中心的とは真逆で、常にチームとしてどう戦うべきかを考え、試合中もみんなをまとめようと声をかけ続けるチームファーストの選手だ。その彼が、優勝直後にこういった思いを持つのは、まさに飽くなき向上心によるものに他ならない。

大倉にとってインカレ制覇は、1年生の時に次いで2回目となる。この間、彼はBリーグ千葉ジェッツへの特別指定選手での参加など、様々な経験を積み着実にレベルアップを果たした。そして、自身が感じる変化をこう語る。

「一番、成長したと思えるのは責任感です。スキル、身体の部分も成長していますが、コート内外における責任感を千葉ジェッツで学んだりしました。同じ方向を向いていない時のチームは本当に強くない。特に今年のチームはみんなが違う方向を向くと、分かりやすいくらいに良い流れにならなかったです。そこについては毎日、目標をぶらさずタフに過ごすことができたと思います」

理論や情報の発達により、今や学生も最新の効果的トレーニングを行えるようになったことでフィジカル、スキルを上達しやすい環境になった。ただ、同時に様々な情報に簡単にアクセスしやすいことで誘惑が身近にあるからこそ、メンタル、人間性も高めていくのは簡単ではない。しかし、大倉は学生トップ選手と周囲から高い評価を受けても一切の慢心がない。それは、この「悔しいです」の第一声が何よりも証明している。

そして、大倉は本日から2021年2月末まで、再び練習生として千葉に加入することを発表した。今年のインカレで心技体の全てにおいて着実に進化していることを示した大倉だが、今後もその成長は右肩上がりであり続けるはずだ。