激戦の中で真の『日本一丸』となったバスケ日本代表、『世界』への一歩を踏み出す

2018/07/05
日本代表
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文=小永吉陽子 写真=FIBA.com、小永吉陽子

新戦力がハマった日本代表、裏目に出たライバル国

「ここまでチームが変わるものなのか――」という感想は、これまでアジアで勝ち切れなかった男子日本代表の戦いを見てきた者ならば、誰もが抱いたことだろう。ワールドカップアジア1次予選の最終決戦であるWindow3にて、ニック・ファジーカスと八村塁を加えた日本は、アジア最強のオーストラリアを1点差で撃破する歴史的勝利を挙げ、チャイニーズ・タイペイを40点差で一蹴。4連敗からの2連勝でグループ3位となり、2次予選進出を果たした。

Window3はオフシーズンであることから、どこのチームもカギを握っていたのは『新戦力』だった。オーストラリアは2名のNBA選手を、チャイニーズ・タイペイは30代の実績あるベテラン選手を加入させたが、短期決戦においてはこれが裏目に出た。両国ともに、Window2までのチームを解体してネームバリューを加える人選を行い、オーストラリアは自慢の組織力が築けず、チャイニーズ・タイペイは持ち味の機動力が落ちて個人技に偏った。そんな中で、日本が新戦力を加えてもチーム力を高められたのは、ファジーカスと八村が、これまでの日本に足りなかった『自信』、『高さ』、『得点力』を埋められる適任者だったことに尽きる。

ファジーカスと八村の良さが最大に現れたのはゲームのスタートダッシュだ。これまでの日本は、ホームでのフィリピン戦とチャイニーズ・タイペイ戦において、重い立ち上がりで後手を踏んでしまったが、オーストラリア戦では八村が、チャイニーズ・タイペイ戦ではファジーカスがチームを牽引。シュートレンジが広い2人は相手に的を絞らせることなく、猛攻を仕掛けて先手を取り、攻め続けることで試合を支配し続けた。

2人がコート上でリーダーシップを取ることによって竹内譲次は「精神的に余裕が出た」と言い、比江島慎は「負担が減った」と証言している。頼れる軸ができたことにより、選手それぞれが持ち場の仕事に集中できるようになり、役割が明確となる相乗効果を生んだのだ。

そしてオーストラリアに勝った自信こそがチームを劇的に変えた。実質、チャイニーズ・タイペイとの直接対決で上回れば2次予選には進出できたが、その1勝だけでは1次予選での成績が持ち越しされる2次予選での戦いが厳しくなる。格上といえども、オーストラリア戦をただのチャレンジマッチとせずに、勝ちに行く覚悟と準備のもとでチーム作りをした取り組みが、崖っぷちからの形成逆転を生んだ。そのカギを握る特攻隊長は八村塁で、安定させたのはニック・ファジーカスだった。

指揮官と選手たち、試合を重ねる中で理解が深まる

何よりもWindow3で解消しなければならなかったのは、チーム間の信頼関係だ。ヘッドコーチのフリオ・ラマスと選手たちには、傍から見ても分かる遠慮が双方にあった。

確かにラマスヘッドコーチはロンドン五輪でアルゼンチンをベスト4に導き、世界的には実績がある指揮官だ。だが、日本やアジアのバスケスタイルの質については理解していなかった。「どんどん動いてペイントにアタックしろ」という理想論の指示だけでは、リーグで外国籍選手に頼っている日本人選手には通用しない。それ以前に、日本の文化や選手一人ひとりのパーソナリティを知ることに時間を費やしていたため、アジア各国のスカウティングもままならなかった。「相手の新しい選手の特徴がわからない」との声は選手から幾度か聞こえたし、エースである比江島をシックスマンとして使ったことで出足の悪さに影響したり、ゲーム終盤での采配の迷走は何度もあった問題だ。

一方で選手たちにも問題があった。キャプテンの篠山竜青はこの1年を振り返る。

「今までラマスさんに言われたことを遂行しようとやってきたのだけど、それは言われたことだけをやろうとする、あまりに受け身の姿勢でした。ニックと塁が入ったことでセットプレーのコールがなくても、運べる状況の選手がボールを運べば良くなったし、自分たちの判断でうまくいっていることであれば、ラマスさんは認めてくれるようになりました」

その最たる変化が、八村がボールをプッシュして運ぶことによって、トランシジョンの速さが出てきたことだ。そして、コミュニケーションの面で一歩を踏み出せたのは、オーストラリア戦での国歌斉唱のシーンだった。

富樫がラマスに歩み寄り『日本一丸』が実現

日本は2015年のアジア選手権にて、オリンピック最終予選の切符がかかった準々決勝から選手とコーチングスタッフ全員が腕や肩を組んで一列に連なる国歌斉唱のスタイルに変わったが、ラマス体制になってからは選手だけがそのスタイルを継続し、コーチ3人は別離していた。それがオーストラリア戦ではコーチ3人も選手と連なって腕を組むスタイルに変えたのだ。手を差し伸べたのはラマスヘッドコーチの隣にいる富樫勇樹だった。

「コーチ3人だけが別々に立っているのもどうなのかと思ったので、ラマスさんの隣にいるのが僕だったので寄っていきました。みんなも絶対にそう思っていたはずなので」と富樫が言えば、ラマスヘッドコーチもその姿勢を快く受け入れた。

「勇樹が近づいてきて『一緒に肩を組んでくれますか』と目で訴えていたので、一緒にやろうという気持ちになった。信頼関係を無理に築くことはとても難しいもので、人間同士が分かり合えるためには時間が必要だと思いながらやっていたところ、選手から一歩近づいてくれたことがとてもうれしかったのです」

さらに、篠山の証言によれば、チャイニーズ・タイペイ戦で国旗に向かってナナメに整列するようになったのは「あれはオーストラリアの整列がカッコ良かったからマネしました(笑)」という理由であり、「それはフルさん(古川孝敏)を始め、これまで代表にいた選手が言い出したもので、どんどんチーム状態を改良しているところです」と、チーム内の雰囲気が向上していることを教えてくれた。

心の内面の変化だけで勝てるわけではないが、お互いを知ることでつまらないミスが減ったのは事実だ。信頼関係がなければ、ファジーカスと八村の加入をプラスにはできなかった。

8月末のアジア競技大会でさらなるチーム作りを

日本は1次予選を突破したが、2次予選を戦うグループFでは6チーム中5位。アジアからワールドカップのチケットを得るのは開催国の中国を除く7チームで、各グループ上位3位まで。各グループの4位は成績が良いほうが7位として出場権を獲得することになる。現在グループ5位の日本が崖っぷちにいる状況はこれまでと変わらない。

Window3での2連勝によって信頼関係は構築されてきたが、チームが完成したわけではない。八村はNCAAの規定である成績を得るために、今月中には学業のために帰国することが決まっている。ただ本人が代表戦に意欲的であることと、必要な選手であることから「9月のWindow4には出られるよう、ゴンザガ大には交渉し続ける」(東野智弥技術委員長)という前向きなニュースも届いている。

そんな状況下で国内組ができることは、8月18日に開幕するアジア競技大会でチームを熟成させていくことだ。アジア競技大会は4年一度の総合大会で、JOCがオリンピックに向けて強化の場としている大会。女子はワールドカップと重なるためにB代表が出場するが、男子はA代表が出ることになっている。真剣勝負の中でアジアの覇権を争うのだから、チーム構築にこれほど最適な大会はない。現状は1次予選を突破してスタートラインに立ったところ。さらなるチームの形成はここからだ。