文=鈴木健一郎 写真=古後登志夫、B.LEAGUE

6月28日、千葉ジェッツは田口成浩の獲得を発表した。秋田ノーザンハピネッツ一筋、フランチャイズプレーヤーの突然の移籍に、誰もが驚いたに違いない。ある意味、最も移籍しそうにない選手が動いたと言える。『秋田の顔』だった田口には、移籍を決断するまで多くの葛藤があったに違いない。移籍に至る心の動き、そして新天地での意気込みを聞いた。

B1復帰を決めた時に「使命を果たした」とホッとした

──誰もが驚く移籍となりました。まず、秋田を離れることを考えるようになったきっかけがあったのかどうか教えてください。

「移籍しようかな」ではなく、「自分のキャリアはどうなるのかな」と思うところから始まりました。僕は長く秋田でプレーさせてもらって、勝つために、チームを盛り上げるためにキャプテンとして必死にやってきたつもりです。チームメートには「ああしよう、こうしよう」と言葉を出して鼓舞して、ブースターさんのために何が何でもB1に復帰しなきゃならないと。これは出身地のチームにいる自分の使命だと感じていたし、そうすることで充実していました。もともと秋田でそういう存在になりたいと願っていた姿でもあります。

でも、そんな自分を客観的に、上から俯瞰で見た時に、「俺って成長できているのかな? バスケットボールがうまくなってるのかな?」という思いが出てきました。昨シーズンを通じて、B1の試合を見ることが多かったんですけど、「このチームにいたら自分はどんな使われ方をするんだろう?」とか「このチームで試合に出れるかな?」とか、いつしかどのチームの試合でも自分を当てはめて見るようになっていました。

──昨年秋に取材した時には「B2のレベルに悪い意味で慣れてしまわないため、B1に上がった時にそのレベルで戦えるようにB1の試合を見るようにしている」と話していました。そうやって他のチームを見ていくうちに、見方が少しずつ変わっていったんですね。

そうかもしれないです。自分の実力がどれぐらいか、そのチームで通用するかどうか、そう考えるようになりました。でも、それは行かない限りは分からないですよね。そんなことをシーズン後半までずっと考えていて、普通に考えれば秋田でプレーを続けるんでしょうけど、B1復帰が決まった時に「使命を果たした」という感じでホッとしたんです。気持ちの緊張が緩んだ時に、「他のチームの評価を聞いてみたい」という考えが浮かびました。思い切って自由交渉選手リストに挙げてみたいと。

やっぱり、僕にはバスケットボール選手としての夢があります。優勝したいとか、日本代表に入りたいとか、オリンピックに出たいとか。そういう夢に対して「俺では無理だ」とあきらめるんじゃなくてチャレンジしたいんです。そう考えた時に、周りに良い選手が揃うチームで自分がどれだけ通用するか試したいという気持ちが出てきました。

──秋田のファンにとっては他のどの選手が移籍するよりショックだったと思います。田口選手の決断に怒る人も悲しむ人もいるはずで、「かわいさ余って憎さ100倍」となることも考えられます。そういう反応を怖いとは思いませんでしたか?

これだけ評価してもらって愛してもらってもいたので、ショックが大きいのは分かっていました。でも、僕の移籍はそういうことだと自分の中で覚悟を決めたんです。いろんな受け止め方をされると思うんですけど、自分の夢に挑戦する姿を見てもらうことで秋田の人たちに納得してもらいたい、納得はできなくても「あいつ、頑張っているな」と思ってほしい、それがこれだけ愛してくれた秋田を出ていくことに対する責任だと思っています。

もちろん批判もあると思いますが、何も思ってもらえないよりは言ってもらえるだけでもありがたいことです。僕としては自分の決断に責任を持ち行動するだけで、結果を出すことで納得してもらうしかないと思っています。

「夢に向かってチャレンジすることに意味がある」

──秋田を出るからには日本代表として東京オリンピックに出る、ぐらいの意気込みですね。そうなれば「秋田から日本代表選手を出した」と誇りに思ってもらえるわけで。

僕としては、そういうサクセスストーリーを夢見ています。本当にそうなったら秋田も相当に盛り上げられるはずです。もちろん、可能性としてはすごく低いことだと自分でも分かっていて、今の僕がオリンピックに出ると言っても「いやいや無理でしょ」と受け止める人がたくさんいると思います。でも、厳しいと分かっていても、それで逃げるんじゃなくて、実現するために全力でチャレンジしたいです。全力で取り組むことで確実に自分は強くなれます。日本代表になれてもなれなくても、選手としても人としても確実に成長できると思っています。

夢に向かってチャレンジすることに意味があるし、その姿を見て「自分も頑張ろう」とバスケをやっている子供たちに勇気を与えられたら、それだけですごい価値があると思うんです。それに反対する人もいるかもしれませんが、僕は自分なりに覚悟を決めて決断しました。

──くどいようですが、そのチャレンジは秋田では無理だった?

いや、無理だとは思いません。ただこの年齢になって、どうすれば自分のスキル、能力を一番上げられるかと考えた時、試合に出るだけでも難しいチームに行って、そこで揉まれて活躍しなきゃいけないと考えました。代表に向けてのアピールも、注目されるチームで結果を出せばより評価されると思います。何が正しいか分かりませんが、それが自分の出した答えです。

強豪チームに行って、試合に出るには何が必要か、活躍するにはどうすべきか、そう考えて行動する、ゼロのところからスタートしたかったんです。僕が秋田に加入した時は、そこからのスタートでした。その気持ちをまた探したい、そうすれば自分はまだ伸びるんじゃないかと思っています。僕はバスケを始めたのが遅かったので、まだまだ伸びると自分では思っているんです。

田口成浩、『覚悟』の移籍を語る(後編)「盛り上げて信頼される選手になりたい」

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