大﨑佑圭

文・写真=小永吉陽子

5月31日に今シーズンのWリーグ登録を見送ったことを発表した大﨑佑圭。同時に、新しい命を授かったことも公表された。日本代表としてオリンピック出場とアジア3連覇を果たし、Wリーグでは10連覇を達成。次々に夢をかなえていく中で、次なる目標を考えた時、大﨑は家庭を持つ女性アスリートとして、どう生きるかとの悩みにぶつかった。そして「今は新しい家族を作りたい」との決断を下した。「自分の言葉で女性アスリートとしての生き方を伝えられれば」とインタビューに応じてくれた大﨑佑圭の等身大の思いをここに届けたい。無事に元気な子供を出産することを願って――。

「バスケに関しては満たされたので、次の道に進みたかった」

――今シーズンはWリーグの選手登録をしないことが発表されましたが、その決断に至るまでの経緯と気持ちの変化を聞かせていただけますか。

リオオリンピックが終わり、昨年に結婚してからは、いつまで続けるというよりは「1年1年」と思いながらやっていました。3月にシーズンが終わるまでは自分の気持ちがどうなるかわからなかったのですが、大きな目標として掲げていたオリンピックに出場でき、アジアで3連覇を果たし、チームでは10連覇を達成することができ、本当に幸せな経験をすることができたので、バスケットに関しては満たされた気持ちが大きくなっていました。そこで、次の目標はなんだろう……と考えたときに、東京オリンピックという目標よりも、新たに家族を作りたいという気持ちが上回りました。ただ、子供を産むことに関しては思った通りにいく保証はないので、選手として続けるか、自分の人生を考えて次に進むか、すごく悩みました。

――まず、日本代表候補に名前が挙がっていたので、4月からの代表活動について決断を迫られたと思うのですが、そうした迷いの中では心身のコンディションが整わず、今回は参加には至りませんでした。このときトム・ホーバスHCには何と伝えたのですか。

日本代表というのはエネルギーがないとプレーできないところなんです。バスケットに対して後悔も未練もなく満たされた気持ちになっていたので、こんなエンジンがかからない気持ちでは日本代表では戦えないと思い、素直な気持ちをトム(ホーバスHC)に伝えました。トムも最初は「気持ちの整理がつくのを待っているよ」と言ってくれたのですが、最終的には「東京オリンピックを目指すことも、家族を持つことも、どっちもハッピーなことだからメイ(大﨑)が決めること」と言ってくれて理解をしてもらいました。どっちもハッピーならば、あとは自分で決めて責任を取るまでだと思いました。

今、日本代表はワールドカップと東京オリンピックに向けてチームを作り上げていくところなのに、こんな気持ちで練習に参加しては代表選手になりたいと必死にやっている選手に失礼だし、何より中途半端な気持ちでは私自身が練習についていけません。本当にやると決めて、東京オリンピックやワールドカップを目指すと決断をすれば練習は耐えられるのですが、このままいけばどこかで挫折をしたり、私は違う道を選びたかったのに、という言い訳ができてしまうので、まず日本代表には参加しないことにしました。

――大﨑選手はリオのあとから「1年1年が勝負」と言っていて、昨年のアジアカップではコンディションをピークに持って行くことの難しさも見て取れました。たとえ、2年後に東京オリンピックがあっても、それは目標にはならなかったのでしょうか?

リオが終わったときに周りの人や記者の方からは「次は東京オリンピックだね」と言われたのですが、「東京を目指して頑張ります」とはっきり答えられない自分がいました。本当に1年1年が勝負で、先のことは考えられなかったんです。それでも、時期が来たら東京オリンピックを目指すことが明確になるのではと思ったけれど、一つ一つ壁を乗り超えた先に出てきた感情がこの決断でした。

会社とチームのバックアップにより、選手としての選択肢が広がった

――次の人生を踏み出したい気持ちが上回ったとすると、チーム(JX-ENEOS)で選手活動を続けることにも悩んだと思うのですが、すぐに答えが出たのですか?

すごく、すごく、悩みました。私は目標がないとプレーができないので、その意志をチームには伝えました。バスケットを辞めて自分の決めた道に行くべきか、目標を立てて選手として続けるべきか、何がベストなのか答えが出せないまま、何回も話し合いをしました。

そして、悩んでいたときに体の異変に気づき、妊娠していることがわかったんです。そのことをチームと会社に話をしたら「これからも可能なかぎりフォローするから、安心して産んでほしい」と言ってもらえました。「プレーヤーとして復帰するにしろ、クリニック活動をするにしろ、子育てを続けるにしろ、出産後の生き方の選択肢を増やしておこう」と言ってくださったので、本当にうれしかったです。それこそ、今はこの新しい命に導かれたという思いです。私が今やるべきことがはっきりとしました。私がJX-ENEOSを選んだそもそもの理由は、バスケが強いからだけではなく、会社やチームのバックアップ体制が素晴らしいことも理由にありました。心強いバックアップに救われたという思いです。

――ということは、出産後に復帰の可能性を考えているということでしょうか?

今後のことは断言できないですが、気持ちにエンジンがかかって、復帰できる状態になれたら、プレーヤーとして復帰したい意志はとてもあります。

ただ、日本代表にしろ、JX-ENEOSにしろ、中途半端な気持ちでバスケをするのは失礼だと思っていました。だから今回は引退することを視野に入れて、どういう道に行けばいいのか悩んでいたのです。でも妊娠がわかったときに会社が「今後のことは産んでから考えればいい」と言ってくれたとき、「選択肢が広がった」という安心感が出ました。そういう経緯があったので、今シーズンは選手登録をせず、自分にできることでチームや会社に貢献することにしました。

母になる大﨑佑圭インタビュー(後編)「新しい女性アスリートの道を歩きたい」

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