「最初に好き勝手やられたのが良いきっかけに」
京都ハンナリーズにとって2017-18シーズンは充実したものとなった。ペイントアタックを重視する自分たちのスタイルを高みに持って行くことでチャンピオンシップに進出。最終的に優勝することになるアルバルク東京に敗れたものの、様々な不利を抱えながら相手を最後まで苦しめる堂々の戦いを演じた。チャンピオンシップ1回戦敗退という結果には納得していないが、やるべきことはやった、という充実感を選手の誰もが抱えているのではないか。
「僕にとってはすごく大きな1年でした」と振り返るのは伊藤達哉だ。東海大から京都に加入したルーキーシーズン、レギュラーシーズンの60試合中56試合で先発出場し、1試合平均25.3分出場、9.0得点、4.4アシストと堂々の数字を残し、新人王の有力候補にも挙げられていた。
特別指定選手としてチームに加わった2016-17シーズンは出場なし。それでも今シーズンは開幕戦からスタメンに名を連ねた。「選手の入れ替えが結構あった中で、ルーキーである自分を最初からスタートとして使っていただいたことにはまず感謝です」と話す伊藤だが、序盤戦は相手よりもチーム内での信頼を勝ち取るのに苦労した。「最初は不満や葛藤も多かったです。それでもコートに立つことで学べることが多く、うまく行かないこともコミュニケーションを取るうちに次第にうまく行くようになりました」
「チームの司令塔という一番大事なポジションを自分がやっていいのか、というのが問題でした。直接言われたことはありませんが、『京都は新人ガードで大丈夫か』、『補強すべきだ』という声はやはり耳に入ってくるので。それもあって、見返してやろうと燃えたんです」
この時期、伊藤にとって強烈なインパクトとして残っているのが第2節の千葉ジェッツ戦、富樫勇樹とのマッチアップだ。「本当に好き勝手やられて、プロは違うと思い知らされました。ただ、最初にやられたのが良いきっかけになり、自分を成長させてくれたと思います。そこからは負けず嫌いの性格が出て、自分がライバル視する小島元基選手やベンドラメ礼生選手、田渡凌選手の活躍が刺激になりました。モチベーションには事欠かない1年でしたね」
新人王を逃すも「悔しさをバネに成長できる」
「プロは違う」というレベルの差を伊藤はどうやって克服したのか。その一つは、良い意味で力を抜くことだった。「ディフェンスが自分の強みだと理解していましたが、100%ディフェンスばかりやっていても体力が続かないことに途中で気づきました。ウェイトトレーニングも体幹だけにして、身体を一回り小さくしたことがフィットして、スピードを生かしたドライブが通用するようになりました。そこはシーズンを戦いながら新しいスタイルを築くことができました」
まず変わったのはチーム内の見方だ。「自分のプレーを見せることがチームに響きました。チームメートにもヘッドコーチにも信頼されて、それで得た自信をまたコート上で体現できました。それがこの1年で一番大きかったことかもしれません」
司令塔としての意識もシーズンを戦う中で少し変化があった。「ガードがボールを持ちすぎるのはダメだというのが自分の中にあって、良いシューターがたくさんいるのでボールをシェアしてバランス良くやるイメージがありました。でも、自分で行く時は100%アタックしようと。周りからも『行ける時は行け』と言われていました。最初は自分で点を取りに行くのを遠慮する部分があったのですが、そこで吹っ切れてからは自分の中でも楽になりました」
シーズンを通してスタメンで活躍したのは伊藤のみ。新人王が有力視されたが、結果は優勝チームのA東京から馬場雄大が選ばれた。「取りたかったのは本音です。そうなれば『京都ハンナリーズの新人王を見てみようか』と思ってもらえるので。雄大に対して僕がどうこう言うことはないし、候補に挙げていただいただけでも感謝です。それに、個人としては新人王になって満足してしまうのが怖い。悔しさをバネにまた成長できると思うと、これで良かったです(笑)」
「悔しい気持ちを来シーズンにぶつけます」
個人タイトルは別として充実したシーズンではあっても、自分の能力はまだまだ足りないと感じている。「足りないところはありすぎるレベルです。現状に満足したら終わりですし。もう1つか2つ、それ以上の技術を身に着けたいです。開幕時点で相手チームは僕のことを知らない状況でしたが、来シーズンはそうはいかないと思うので」
では、伊藤が見据える『理想の自分』はどんなプレーヤーなのだろうか。「一流のガードは普段は点を取らないかもしれないけど、ここぞの場面で自分でも取れる決定力があると思います。チャレンジして、ターンオーバーをするのではなく点を取る。そこは今シーズンも意識していましたが、学ぶことがたくさんありました。あとは全体的なシュートの確率も上げたいし、リーダーシップも来シーズンは課題になってきます」
先発ポイントガードに固定されてはいたが、ベテランの多いチームにあって頼る部分があった。伊藤はそれを認めつつも、2年目は変わろうと意気込んでいる。「プレーはもちろん絶対ですが、声の部分もやります。ガードである自分が率先してチームを引っ張りたいです」
コート外でのプロの自覚も芽生えた。「お客さんの数も増えていますし、街を歩いていて声を掛けられる機会も増えました。京都ハンナリーズの知名度が上がっている実感はあります。でも、まだリーグの中では人気が下のほうだと思うので、その京都が盛り上がればリーグ全体の底上げにもなると思っています。僕は京都の洛南高校出身で、京都に縁があるので、そこはオフもいろんな活動に積極的に参加するつもりです」
オフは実家のある関東で、5月中は身体を休め、6月から「オンファイアです」とのこと。5月中もバスケからは離れても『NBA2K』でイメージトレーニングに励んだそうだ。「ずっとセルティックスを使っているんです。雑草チームの雰囲気が好きなので」と伊藤は笑う。ちなみにNBAでお気に入りの選手はクリス・ポール。「小さくてもあれだけ得点力があって、周りを生かすこともできる。自分が目指す一番のプレーヤーです」とそのプレーに注目している。
最後にファンへのメッセージをこう語った。「皆さんが期待していた新人王を取れなかったのは悔しいし、応えられなくて残念でしたが、その気持ちを来シーズンにぶつけます。もう1つ、2つレベルアップした自分をまた見せられるように頑張りますので、応援よろしくお願いします」
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