文=小永吉陽子 写真=野口岳彦、鈴木栄一

日本代表として完全燃焼した吉田亜沙美(前編)
「代表とは日本を背負う覚悟がある選手が出るところ」

集大成のリオ五輪で出し尽くした日本のキャプテン

Wリーグで10連覇を達成したシーズンが終わり、吉田は日本代表には参加しないという結論を出した。目の前に東京五輪という大舞台があるのに、ここで代表をリタイアするのか? という周囲の声もある。だが吉田の歩んできたオリンピックへの道のりは、他の誰よりも長く険しいものだった。

オリンピック予選となるアジア選手権を3回(2007、2011、2015年)、世界最終予選を2回(2008、2012年)と計5回もチャレンジし、ようやく5回目で扉が開いた。2012年は世界最終予選の最終決定戦まで進み、あと1勝のところまで迫ったがカナダに敗れた。この時、日本を牽引してきた大神雄子と吉田は号泣し、しばらく立ち上がることができなかった。

また、吉田は2014年の冬に左膝の前十字靭帯を断裂し、一度は引退を考えている。そこからリハビリを重ねて走れるようになり、チームではWリーグと皇后杯の2冠を掲げ、代表ではオリンピックを目指す毎日を送ってきた。歴代の先輩たちがそうだったように、女子代表はひたむきに、懸命に戦う誇れる集団である。そんな選手たちが世界の高さに挑むため、どこよりも精密さを高め、どこよりも走り、極限まで追い込む練習を繰り返す。

初めてのオリンピック予選から11年、吉田は休むことなく挑戦してきた。日本代表については「今は戦う気持ちに達していない」と言ったが、そうではない。吉田にとっては集大成のリオ五輪で「自分のすべてを出し切った」のだ。日本代表の舞台は次世代に託してもいいのではないだろうか。

現役続行自体も悩んだが……今は前に進み始めた

ホーバスヘッドコーチからは日本代表を外れる説明があったが、吉田のこれまでの貢献を考えれば、本人の言葉で今の率直な気持ちを語ってほしい。取材に応じてくれた吉田は「日本代表についてはアジアカップの頃から気持ちは変わっていない」とした上で、偽りのない気持ちを語り始めた。

「今シーズン(2017-18)が終わった時に、自分のベストパフォーマンスでプレーできるのは今シーズンが最後だなと感じました。これからの長いシーズンをやっていく気持ちも体力もないと思ったので、引退することを考えてチームに相談しました」

その結果、出した答えは……現役続行だった。「家族やいろんな人に相談して考えた結果、次のシーズンをやることにしました。まずもう1年やって、その後のことはシーズンが終わったら考えることにします。今は身体と気持ちをゆっくりと休めながら、前に進むために気持ちと目標を作っていきたいです」

全力でやらなければ吉田亜沙美ではない、とのモットーで走り続けてきた。目標が定まったときの吉田は、恩塚コーチの言葉を借りれば「灰になるまでやる選手」だ。やると決めたからには、心身を調整してコートに立つことだろう。

ただ今は、休養が必要な時である。長年背負ってきた日本代表の荷を下ろし、これまでと違ったオフの環境に身を置いてほしい。そこから見える景色は彼女にどんな心境の変化と発見を与えるだろうか。新たな吉田亜沙美に会える10月のWリーグ開幕を心待ちにしたい。