取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

寺園脩斗の情熱を燃え上がらせる燃料となったのは、伊藤達哉の活躍だった。東海大で4年間に渡り切磋琢磨した仲間は、ルーキーながら京都ハンナリーズの先発ポイントガードとしてチームを引っ張り、今シーズンのBリーグ新人王の有力候補となっている。最も身近な選手が過酷な戦場に身を置き、奮闘し、結果を出している。それを励みに、社会人として仕事に軸足を置いてバスケを続けることもできた。「そうすべきだ」と考えることもあった。しかし、社業との両立で続けていくには、バスケへの情熱が強すぎた。寺園は6月いっぱいで九州電力を退社することを決めている。自分の情熱をぶつけられる舞台に立つために、彼はすべてを捨てて勝負に出る。

「プロとして、死に物狂いでバスケをやりたい」

──まずは自己紹介をお願いします。

寺園脩斗です。宮崎県出身で、小1からミニバスを初めて、中高一貫の延岡学園に行きました。高2の時にインターハイとウィンターカップ、高3の時にインターハイとウィンターカップ優勝の4冠です。東海大を経て九電(九州電力)に入って今に至ります。

──九州電力を退社してBリーグへ。この方針転換の理由は何ですか?

もともと安定した生活を望んでいたのではなく、長男なのでそろそろ帰らなければいけないということで、「どうせやるなら強いチームで」と九電に入りました。しかし、やってみると物足りなさをどうしても感じたんです。大学まではバスケと勉強を両立させていて、社会人になると仕事との両立になるのですが、実際は「ほとんど仕事」でした。自分は新入社員なので残業もなく、空いた時間は練習ができましたが、先輩たちは仕事が優先です。僕は18時から体育館でワークアウトをするのですが、他の選手は練習開始の20時に間に合わないこともあって、練習回数も少ないし、バスケの熱に温度差を感じました。

「社会人になったのだから仕事を頑張ろう」とも思ったのですが、どうしてもそれができませんでした。バスケのために仕事をするよりも、バスケ一本で行きたい。これが僕の結論でした。プロは実業団と違い、本当に生活のかかっている選手の集まり、失敗したらクビという世界です。そんなBリーグに行って、プロとして死に物狂いでバスケをやりたいと思いました。

東海大の同期の活躍も刺激になりました。特にプロに行ってすごくレベルアップしている伊藤達哉を見ていると感じるものがありました。こうしてヘッドコーチに相談すると、「俺もプロを経験しているから、行った方がいい」とアドバイスをいただき、快く送り出してもらいました。

「慣れも必要でしょうが、やっていける自信はある」

──自分の強みはどういった部分で、それはBリーグでも通用すると思いますか?

コントロールするより点を取っていくタイプで、自分の進化系が富樫勇樹さんだと思っています。だから富樫さんをイメージして、あのプレーをやらないとBリーグで存在感は出せないと思っています。ポイントガードとしては声を出してチームを鼓舞できるのも強みです。今まで大学や実業団では外国籍選手がゴール下にいるわけではないので、そう簡単にレイアップには行けないだろうから、そこは慣れも必要でしょうが、やっていける自信はあります。

Bリーグはまだ未知の空間で、どういう選手がいるかは映像でしか見ていません。トランジションを得意としているチームもあれば、セットプレーを中心とするチームもあります。千葉みたいに富樫さんをメインにやるチームもあります。大学時代はディフェンスのチームで、自分としてもディフェンスを主にするチームが良いんじゃないかと思っています。

──実際のところ、オファーはありますか?

交渉が始まっているわけではないのですが、いくつか連絡をいただいています。B1とかB2とかにこだわりはなくて、入ったチームで自分の良さを出して、存在感を出していくことがまず今の目標です。ここで行かないと後悔すると思ったから、人生を懸けてBリーグに挑戦するつもりで何でもやります。

「社会人を1年経験したことは自分にしかない強み」

──実業団に行ったことがキャリアの遠回りだとか、不利になるとは思いませんか?

行って良かったと思っています。同期の選手と比べると僕は社会人を1年経験しました。そこは自分にしかないものだとプラスにとらえています。プロの選手はバスケだけやっていて、そういう環境がどうやって作られているか分かっていないと思います。実業団では試合は出張のような感じで、その時は僕の仕事を周りの人がやってくれます。そういうバスケをやることのありがたさを知っている選手は強いと僕は思っています。

──Bリーグデビューした時には、ファンにどんなところを見てほしいですか?

点を取れる選手を目指すと言いましたが、根本的にはディフェンスやリバウンドやルーズボール、東海大で教わっていたものを見てほしいです。あとは、チームメートを鼓舞するというか、ガードとして周りへの声かけを見てほしいです。