ドック・リバース「拘束され、撃たれ、殺されているのは我々だ」
現地8月23日、ウィスコンシン州ケノーシャで、家庭内暴力の通報を受けた警官が黒人男性のジェイコブ・ブレイク氏に対して背後から発砲した『事件』は、その様子を収めた動画がSNSで拡散され、アメリカ中に大きな衝撃を与えた。ブレイク氏に反抗する素振りはなく、乗り込もうとしていた車には彼の子供が乗っていた。子供たちは、父親が背後から警官に撃たれる様子を見たことになる。
彼は一命を取り留めたが、家族の弁護士によれば「奇跡的な回復がない限り、もう歩けない」そうだ。
人種差別への反対、社会正義の実現を訴える『Black Lives Matter』の活動がこれだけ盛んになっても、警官による黒人男性への不条理な暴力が新たに起こったことは、NBAにも大きな衝撃を与えている。
NBAがシーズン再開に向けて動き出した当初、選手の間には『Black Lives Matter』への世間の関心をそらすのであればプレーすべきではない、という意見があった。結局は自分たちがプレーするだけでなく、社会正義の実現を訴えていくことで意見がまとまり、『Black Lives Matter』はNBAの大きなテーマとなった。
だが、今回の事件は、彼らの取り組みが意味を成していないことを示した。このことに多くの関係者が失望し、憤慨している。選手会はこれから全選手を集め、今回の件への対応を協議するとのこと。
選手たちがボイコットを決める前の発言を紹介したい。
レブロン・ジェームズは、24日のブレイザーズ戦の最後は、亡くなったコービー・ブライアントと娘ジジのこと、そして今回の事件のことでプレーに集中できなかったと明かしている。そして勝利の喜びではなく、またも事件が起きた怒りと悲しみを語った。
「これが何なのか、誰か僕に教えてほしい。また黒人が狙われた。銃を撃つ前にできることはいくらでもあったはずだ。なぜ銃を撃たなくちゃならないのか。そこには彼の家族が、子供たちがいた。白昼堂々の出来事だ。率直に言って僕たちのコミュニティは最悪だ。この国の黒人は怯えている。なぜこんなことが起きるか分からないからだ。彼が至近距離から7発も撃たれて生きているのは神のおかげだ。彼の家族とコミュニティのために祈りを捧げたい」
クリッパーズの指揮官、ドック・リバースも同様だった。ただ、彼はポールやレブロンよりも明らかに怒っていた。マーベリックスとの第5戦に快勝し、シリーズ突破に王手をかけた試合の直後だったが、そんなことは彼には関係なかった。感染防止のために義務付けられているマスクをはぎ取った彼は、感情をあらわにして「恐怖を感じている」と語る。
「拘束され、撃たれ、殺されているのは我々だ。なぜ恐れなければならないのか。我々はこの国を愛しているのに、なぜこの国は我々を愛してくれないのか。この状況を変えなければならないが、抗議デモがあれば暴動と見なされるし、何かあれば銃を持った警官が派遣される。政府は警官の力を抑制すべきだ。すべての警官が悪いわけじゃないのは分かっている。私の父は警官だったからだ。私は悲しい。なぜこれだけ頻繁に自分の肌の色のことを思い知らされなければならないのか」
ナゲッツの指揮官、マイケル・マローンは『Denver Post』に対し「もし選手が私のところに来てプレーする気になれないと言えば、私はそれを支持する。これはどのコーチも同じだろう」と語っている。
そのナゲッツでプレーするマイケル・ポーターJr.はこう語る。「世界で何が起きているのかを考えれば、バスケットボールについて考える気にならないこともある。でも、負ければ終わりのプレーオフの試合のための準備をしなきゃならない。これはすごく厳しいことだよ。僕たちNBAプレーヤーにとってバランスを取るのはすごく難しいんだ。でも世界で起きていることはバスケットボールよりも大きく、人々が僕らに注目しているからこそ、僕らが問題について語る意味があると思う」
レブロンは感情を抑えながらも「変えなければいけないと言い続けること。それが変革に繋がる」と語るとともに、「投票に行こう」と呼び掛けた。スポーツには大きな力があり、彼らには大きな影響力がある。だが、それは今のところアメリカの持つ問題を変えられていない。