文・写真=鈴木栄一

佐々宜央を新任のヘッドコーチとして迎え、戦力も刷新した琉球ゴールデンキングス。シーズン序盤から西地区の首位を快走し、ここまで41勝14敗。すでに地区優勝は決め、チャンピオンシップに向けた準備を進める段階にある。『熱く、激しく』戦う琉球が狙うのは、もちろんBリーグ初制覇。シーズン大詰めを迎えたチームに、指揮官はどんな手応えを得ているのだろうか。

「泥臭いところをやり切って勝てるのは良いこと」

──ここまでリーグ上位陣に勝った試合を見ると、点の取り合いではなく自分たちが点を取れない時間帯があってもタフな守備で相手のオフェンスを抑えることで勝ち切る、言い方は悪いですが『泥仕合に持ち込む』のが勝ちパターンかと思います。ヘッドコーチはどうお考えですか?

泥臭いところをやり切って勝てるのは良いことです。泥仕合にどう持っていくかが結構ポイントだと思います。強豪と言われる相手と、お互いに最高のパフォーマンスをした中で勝ちきっていくのは難しい。相手のやりたいことをさせないことで歪みを作り、そこを突いていきたいです。

──キングスにはコンスタントに20得点以上を取るようなスコアラーはいませんが、それでも最近になってハッサン・マーティンがインサイドでの得点の柱になりつつあるイメージです。彼はエースになれる精神的な強さを持っていると見ていますか?

メンタリティはすごいですね。ブレないです。守備の部分で、例えばニック・ファジーカスのようなトップスコアラー相手にした時の対応などは、まだまだ経験不足の面はあります。また、チームメートの共通認識の部分など課題もありますが、精神面は強いです。

──シーズン後半戦に入って、オフェンスでは3ポイントシュートが目立っています。守備で粘って、ここ一番で3ポイントで一気に突き放すスタイルは、意図して作っているものですか?

相手のビッグマンにゴール下で5本中4本決められても、3ポイントなら5本中3本成功で、こちらが1点多いと応戦できます。3ポイントシュートを重視するのはそういう単純な話です。もちろんインサイドも突いていかないと相手の守備にストレスを与えることはできません。ただ、効率の話になった時、3ポイントシュートが大切になるということです。

これは理想ですが、(岸本)隆一と古川(孝敏)のガード陣が、ステフィン・カリーとクレイ・トンプソンのような関係に、そしてアイラ(ブラウン)はインサイドプレーヤーだけど、外から打ててアシストもできるドレイモンド・グリーンみたいにプレーしてもらう。そういった攻撃を展開したいというイメージは持っています。

「悶々とした気持ちでゲームに臨むことはない」

──ヘッドコーチ1年目の自分のコーチング力が試されていると感じることはありますか。

特にキングスは、試合中にブザーが鳴っても聞こえないくらいの声援があって、その人たちのために勝たなければいけない。これはすごくプレッシャーを感じます。ただ、自分の今の力は、シーズン中にそう変わるものではないので、そういう開き直りはしています。持っているもの以上の力は出せない。自分の持っている力を最大限に出すという世界にいると思っています。

例えば負けたらなかなか寝付けなかったりとかはあります。いろいろ考えが出てきて、どうなのかなって。でも試合になったらもうやるしかない。今まで50試合近くやってきて、終わった後に出てくるものが積み重なっています。僕の性格的なものかもしれないけど、それでないものは仕方ない。今あるもので精一杯やることです。最後のクォーターで僕が不安そうにやっていたら、それこそ選手が変になってしまうだろうし。準備をしないといけない不安感はあっても、やっている時は開き直っています。

開き直るしかないですよ。選手にも最近は「開き直ってプレーしろ」と言っています。指導者としてのあるべき姿はどうなんだと悩むことも多いですが、悶々とした気持ちでゲームに臨んで采配をすることはないです。そこは開き直って、あるものをすべて出そうという気持ちです。

「守備で粘って勝てるゲーム展開に持ち込む」

──レギュラーシーズンの終盤はシーホース三河とアルバルク東京、最後は千葉ジェッツと優勝候補との戦いが続きます。過酷なスケジュールですが、チャンピオンシップを考えた場合はプラスでしょうか?

最高ですよ。ラッキーというか、一番良い状況です。もしかしたら負けが多くなってどん底に落ちるかもしれないですが、どん底に落ちるならそれまでのチームです。この厳しいスケジュールを跳ね除けられたら、チャンピオンシップに可能性を残すチームと言える。どこまで自分たちができるのか、難しいですが楽しみな部分でもあります。

──チャンピオンシップに向けて、次のステップに進むために重視するポイントは?

いかにチーム全体での共通理解を深めていけるかだと思います。まだチーム全体で「この状況だったら、このオフェンスだよね」というところには至っていません。そこはターンオーバーが減らない理由の一つで、もっと修正していかなければいけないです。同じメンバーで何年もプレーしている強豪相手に戦っていくのはハードルが高いですが、守備で粘って勝てるゲーム展開に持ち込むのが今のスタイルだと思います。