文=鈴木栄一 写真=鈴木栄一、FIBA.com

厄介なケガでシーズンを棒に振るも『劇的』に回復

昨日メディアに公開された日本代表の第1次強化合宿。今夏に行われるワールドカップとアジア競技大会に出場するメンバー選考を兼ねているため約50人の大所帯となったこの合宿て、一際印象に残ったのがJX-ENEOSサンフラワーズの藤岡麻菜美だ。

2017年夏の藤岡はインドで開催されたアジアカップで、吉田亜沙美の負傷もあり大会途中から先発に抜擢されると、思い切りの良いプレーで日本代表のトランジションバスケットを引っ張る存在となり、アジア3連覇の立役者に。さらに続けて出場したユニバーシアードでは、ケガを抱えながらも50年ぶりの銀メダル獲得に貢献した。それだけに秋に始まるWリーグでも大暴れを期待されていたが、開幕直後に骨盤の剥離骨折と腱断裂によって戦線離脱。前例のない症状だけに手探り状態のリハビリが続いた結果、藤岡のリーグ戦出場はわずか2試合。所属チームのJX-ENEOSはリーグ10連覇の偉業を達成したものの、藤岡は蚊帳の外という状況だった。

今回の合宿メンバーに藤岡が選出されてもプレーできるのか懐疑的な見方もあったが、今のコンディションについて藤岡は、何度も「劇的」という言葉を使っており、本人にとってもうれしいサプライズだった模様だ。

「ここにくる前はジョグをするだけで痛い日もあったレベルだったのが、いろいろな方に診てもらったり、サポートしてもらったりして良くなってきました。午前中のトレーニングも当初は、あそこまで入るつもりはなかったんですが、劇的に良くなってきたので、今はできることを1日1日様子を見ながら、まずは対人以外のメニューをやっていこうという感じです」

「バスケットから半年くらい離れていて、代表もどうかなと思っていたのが劇的に良くなりました。今は自分でも『バスケできるんだ』という感覚がやっと戻ってきました」と表情は明るい。

「今はバスケができて純粋に楽しいです」

本格復帰に向けてまだまだやることは多いが、それでもこの半年に比べたら大きな進歩を果たしているのは間違いない。「前十字靭帯を切った選手と一緒にリハビリをしていたのですが、その選手の方が順調に回復して、自分は上がったり下がったりでした。『本当にバスケをできるのか』という焦りが常にありました」と振り返るように、思うように身体を動かせない、そして状態がいつ良くなるのか分からない日々は、メンタル面でも辛い時期だった。

「みんなが励ましの声をかけてくれているのに、『そう言っているけど、実際はさ……』と思ってしまう時も正直に言えばあり、そういう自分が嫌になりました」と当時の苦悩を語る。

このように「Wリーグのシーズン中はずっとモヤモヤしていました」と言う藤岡だが、現在は「今まで半年もバスケをできないことがなかったので、今はバスケができて純粋に楽しいです」と前を向いている。

それでも、ケガをしたことで得られるものもあると考えている。「今後、チームを引っ張っていきたい、上に立ちたいと思っていますが、そういう立場の人はいろいろな苦労をされていまする。吉田(亜沙美)さんも前十字を切る大ケガを経験しています。そういう苦労があるからこそ説得力があり、周囲に影響を与えられる。吉田さんからもケガをしたからこそ見える景色がある。特にガードだから、ベンチで見ている時も『自分ではこうやる』とイメージしながら見ているといいとアドバイスをもらいました」

「アジアとは違う世界の大会を経験したい」

劇的に良くなったとはいえ、まだ実戦復帰の目処は立っていない。「我慢しながらちょっとずつ感覚を戻していく。ここまで我慢したので焦らないように頑張りたい」と藤岡自身が説明する状況だが、それでも9月のワールドカップには「絶対にスタメンで出場したい」と語る。

「トムさんは東京五輪で金を取るために、今回のワールドカップではメダルが目標と言っています。アジアと世界の大会では全然違うと宮澤(夕貴)とかも言っていますが、自分はリオ五輪に行けなかったので、アジアとは違う世界の大会を経験したい。今回のワールドカップを逃すと、東京五輪まで世界大会はない。遠征先で対戦するのと、大会で戦うのは違います」

ただワールドカップに参加するのではなく、「スタメンで出場したい」と藤岡は言い切る。それは吉田の次を担うポイントガードは誰にも譲れないという強い決意があるからだ。吉田は代表候補には入っているものの今回の合宿には不参加。その状況を踏まえ、藤岡はこう語る。「自分はチームでも代表でも吉田さんを越えていきたい。吉田さんを超えるのは自分でありたいし、自分でなければいけないと考えています」

この思いを実現させるためにも、まずは藤岡が順調に回復し、一刻も早く実戦復帰できることをバスケットボール界全体が願っているはずだ。