取材・文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

大ベテランの域に達した今も研鑽を重ね、プレーヤーとして成長を続ける『生ける伝説』の田臥勇太。そしてBリーグ時代の到来とともに恐るべきポテンシャルを発揮してバスケ界を席巻する富樫勇樹。それぞれの立場で日本バスケ界を引っ張る37歳と24歳のポイントガードが、3月18日の千葉ジェッツvs栃木ブレックスを終えて取材に応じた。世界と日本を知る2人が、日本のバスケットボールの成長を語った。

栃木ブレックスの田臥勇太と千葉ジェッツの富樫勇樹。世代もプレースタイルも異なるが、所属チームだけでなくBリーグでも看板選手であり、日本バスケ界を代表する存在。2人がポイントガードとしてプレーする両チームは、リーグ屈指の強豪としての地位を築いている。

田臥「成長していく可能性を感じながら戦っている」

──2試合の対戦を終えて、お互いの印象はあらためていかがでしたか?

田臥 まずケガが治って復帰したことがすごく良かったと安心しました。予想よりケガが長引いたので大変だろうなとは思っていたので、そこをしっかり我慢して、治して戻ってきたことは一選手として良かったと思います。元気な姿を見れて良かったですが、対戦していて抑えるのは大変です。やはり彼がいるのといないのとでは千葉さんは全然違いますから。

富樫 今回に限らず、昨シーズンから対戦回数も相当な数になるんですけど(笑)、田臥さんは毎試合変わらずポイントガードとして空いているところはすべて見えている気がします。こちらとしては、どう守ったらいいか分からない。パスワークの良さを出させないようにしなきゃいけないのに、パスの出しどころが分からない。そこは毎試合大変だと感じます。

──今回のテーマである『日本のバスケットボールの進化』について聞かせてください。Bリーグの掲げるミッションの一つに「世界に通用する選手やチームの輩出」があります。Bリーグが始まって1年半、日本のバスケのレベルは上がっていると感じますか?

田臥 競争が今までよりも激しくなっている感覚はあります。そういう面でレベルは上がっているというか、上向きになっているというか。外国籍選手のレベルも上がっているし、これからもどんどん成長していく可能性を感じながら初年度も2シーズン目の今も戦っています。そういう面ではみんなが目指す方向が明確になったし、プロ意識もどんどん強くなっているという点で、僕はポジティブにとらえています。

富樫 僕も同じように思います。以前は対戦相手次第では外国籍選手を休ませることもあると聞いたのですが、今はどの試合も全力じゃないと戦えません。そういう話からすると競争が激しくなったのは間違いないと思います。今までの日本のバスケットがあまり分かるわけではないのですが、Bリーグが始まってネガティブな部分はほとんどないと思います。

田臥 チーム数が増えて試合数も増えて、各チームそれぞれにスタイルがあって、そういう面ではバスケットもどんどん変化してきていると感じます。それはバスケットのスタイルや技術だけじゃなく、今回の千葉さんもそうですけど、ホームゲームの演出や盛り上げ方も変わって来ています。そういうものを全部含めてバスケットだと僕は思っていて、何年か前とは全然違うイメージを受けています。今回の千葉さんも、すごかったよねあれ?

富樫 はい(笑)。ここ数試合、XFLAGさんプロデュースの試合があったり、いろんなスポンサーの方々が演出の部分も手伝ってくださっていて、そこは自分が2年前に千葉に入った時と比べて一番大きく変わったところだし、各チームも本当に努力していると思います。

富樫「勝たないと『成長した』という声は聞こえてこない」

──毎週末の試合を丁寧に追っても、スタイルの変化やレベルの向上を感じ取るのはなかなか難しいです。そういう意味で日本代表が勝てるようになれば「日本のバスケは成長している」と一発で明らかなのですが、いかんせん勝てません。それについてはどう感じますか?

田臥 世界のレベルもどんどん上がっているので、簡単にはいかないことですが、選ばれているメンバーはその時その時でベストを尽くしているし、強くなるためのチャレンジをしています。結果だけで語られる世界なのは仕方がないですが、それでも絶対に強くなっている。それは僕は2年前に代表に入っていてもそう思ったし、今のメンバーを見ていても同じことを思います。

富樫 レベルどうこうもありますが、やっている本人としては結果を出さないといけない。結果が求められる世界なので、勝たないと「成長した」という声は聞こえてこないと思います。今は東京オリンピックに向けてワールドカップ予選を戦っていて、まだ2試合残っていて可能性もありますし、勝つことだけにフォーカスしてやっていきたいと思います。

──田臥選手は今回、予備登録メンバーに入りました。今の日本代表についてはどういうアプローチで見ているんですか?

田臥 いろんな状況がありますので、その時その時で考えるようにはしていますけど、とにかく今選ばれている12人、チームに入っているメンバーでベストを尽くして試合に勝ってほしいと思っています。2年前、リオ五輪に向けた世界最終予選のチームと比べても、今の代表は個性のあるメンバーが揃っているし、絶対に強くなっていると思って見ています。

──具体的にどういう部分が違うと見ていますか?

田臥 ヘッドコーチが違うのでバスケットは全然違うのですが、5人で動きながら富樫選手や比江島(慎)選手、田中(大貴)選手がボールハンドリングをしながら崩せるので、そのへんをうまくやりながら。やはり速い展開になれば日本のペースになると見ています。それは普段のリーグ戦で戦っていて、みんなの良さは十分に分かりますので。良い選手がみんなで集まってやれば絶対に強くなると思います。

富樫 あの頃のチームから半分近くの選手がまだ残っていて、代表の中心である比江島選手や田中選手はその時から2つ歳を取って、それでもまだ27歳ぐらいですよね。バスケでは身体的にも技術的にも一番良い時期なので、確実にチームとしては成長していると思います。

田臥「求めてもらえることがありがたい」

──日々身を置くリーグ戦の競争が激しくなることで全体がレベルアップし、その結果の一つとして代表チームも強くなると思うのですが、成長していると言っても「待てない」という現実もあります。今、バスケ界全体が成長しているスピードをさらに上げるには何が必要ですか?

田臥 成長スピードを求められるのは当然だし、求めてもらえることがありがたいので、そういう期待に応えられるよう選手は毎日頑張っています。そういう意味で競争は非常に大事で、みんな大変だと思いますがリーグで競争しながら代表活動もしています。そんな中で一つやれることがあるとしたら、代表がいきなり海外のチームと対戦するのは難しいかなと。それは僕が代表に入っていても感じたことなので。他の国といきなりやるのではなく、強い国と可能な限り対戦して、競争をしていくこと。それがレベルアップにつながるとは思います。

富樫 本当にそう思いますね。強いチーム相手にボロ負けしてもいいと思うんです。トップレベルの国際試合を肌で感じることに一番意味があると思います。ウルグアイ代表とは試合をしましたが、なかなかそういう時間が取れないのが現状です。去年はフリオ・ラマスヘッドコーチが来たのがギリギリで、すぐに大会になりました。ただ、今シーズンが終わっての夏はラマスコーチが来て初めてフルで使える夏なので、いろんな国の代表チームやクラブチーム、トップレベルの選手と対戦したいです。選手は日々それぞれ努力をして、やれることはすべてやっていると思うので、そこに国際試合を付け足して経験を積めれば一番良いですね。

──では最後に、Bリーグにしても日本代表にしても、時には温かく、時には厳しく応援しているバスケットボールファンに向けたメッセージをお願いします。

田臥 バスケットの試合を見たい、応援したいと思ってもらえることが、プレーヤーとしては本当にありがたいです。そういうプレーだったり試合を一つでも多くできるよう、それぞれのチーム、それぞれの選手がやっていきます。応援してくれる方にもっとバスケを好きになってもらえるよう頑張ります。

富樫 同じことになっちゃうんですけど、日本代表が結果を出せないと「なんで負けるんだ」と言われると思います。でも、本当に応援してくれるからこそ出てくる言葉だと思うので、それも幸せなことです。ただ自分たちはそれを結果で返すのが役目です。Bリーグが始まってバスケを初めて見た人も多いと思いますし、そういう人に魅力が伝わって応援してくれているのだと思います。個人としてもっと努力して、日本のバスケットボール界の助けに少しでもなれるよう頑張ります。ファンの方々も、時には温かく、時には厳しく応援していただけたらと思います。