取材=小永吉陽子 文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦、FIBA.com、小永吉陽子

「自分の持ち味を出し切ることにフォーカスした」

富樫勇樹がケガで参加できなかったワールドカップ1次予選のWindow2、日本代表の先発ポイントガードを任されたのは篠山竜青だった。その篠山は、ホームのチャイニーズ・タイペイ戦こそ動きが固かったが、昨日のフィリピン戦では攻守にエナジー全開のプレーを披露。特に試合開始早々の日本の攻勢は、篠山のアタックが呼び込んだもの。自らのプレーでチームに流れを呼び込む先発の務めを果たした。

「チャイニーズ・タイペイ戦が終わって気持ちの切り替えで苦労しましたけど、とにかくやってやろうと。タイペイ戦ではスタートでもありますしホームでもありますし、ちょっと気負いすぎました。自分がスタートとして責任をもって日本を背負って、あえて自分で追い込んでいました。そこが迷いにつながったと反省して、とにかくもう一回気持ちをクリアにして、自分の持ち味を出し切ることにフォーカスしました。それが最初のドライブにつながったと思います」

その後はフィリピンの時間帯に。第1クォーター残り3分半、篠山がベンチに退いた時のスコアは20-9だったが、次にコートに入った時には24-37と2桁のビハインドを背負っていた。ただ、この逆襲を浴びたきっかけとなる時間帯でプレーしていたのは篠山であり、反省は多い。

「ディフェンスで対応されたというより、こちらのディフェンスが甘くなりました。ペネトレイトを簡単に立て続けにやられてしまったことと、その後のオフェンスリバウンドですね。ああいうイージーポイントがあると、どうしてもオフェンスで足が止まってしまいます。それがドドッと追い付かれた要因の一つだと思います」

「強い気持ちでアタックすること」の重要性

逆転を許し、15点差まで突き放されたものの、日本代表はそこから巻き返す。フィリピンの大きな波に流されずに踏み止まり、押し返すことができた理由を篠山はこう考える。「強い気持ちでアタックしなさいと、コーチからはとにかくそこを強調されました。それがある程度はできていたと思います。相手のインサイド陣がそこまでアスレチックではないので、ピック&ロールから外角の選手たちがしっかりとアタックすればファウルをもらえたりアシストができる部分を出だしで感覚としてつかめていたので、点差が離れた時もオフェンスで修正できました」

強い気持ちでアタックする──。言葉にすれば簡単だが、それを実行できるのは限られたチームだけ。篠山もそれを理解している。「結局、ペイントにアタックできていないから得点が止まるし、その部分だけだとタイムアウトにも指摘されました。そこをすごくシンプルに、オフェンスに関してはやれたと思います」

強い気持ちでアタックすれば、試合の流れを呼び込むことができる。昨日のフィリピン戦はそれを実証した試合であるとともに、40分間徹底できない結果として落とした試合でもあった。

「後ろを向かずに前を向いて、変えずにやり抜く」

結果として4連敗。厳しい結果ではあるが、篠山は「中の人間がまとまって前を向くしかないというか、落ち込んでてもWindow3はやって来ます」と気持ちを切り替えようとした。「これで希望がなくなってもWindow3はやって来るし、試合がある以上は日本を代表して戦うべきで、それができる権利が僕たち選手にはあるわけで。それは別に恥ずかしいことじゃないです」

篠山が語るのは『JAPAN PRIDE』だ。「結果が伴わなくて、いろいろなことを言わるのは分かっていますけど、人生の中で国を背負って戦う、国を背負ってバスケットボールができるということは、人生80年の中ではすごく大きな経験になると思います。それがもし、結果が出なくていろんなことを言われてたとしても、それは絶対に失敗じゃないと思うし、一人ひとりにとってすごく貴重な経験になると思うので」

「であれば──」と篠山は続ける。「後ろを向かずに前を向いて、一つひとつの試合で国歌を聞いて歌って、国を代表してしっかりバスケットボールをするのが一番かなと思います。そこは変えずにやり抜こうと思います」

篠山はすでに29歳。Bリーグ以前から強豪の東芝で正ポイントガードを務めながら、これまで代表でのチャンスをなかなか得られなかった。だからこそ、国を背負って戦う意義を強く感じている。若い頃から代表でプレーしてきた比江島が、その経験を積み上げてスコアラーとして大成の時を迎えているとすれば、篠山はまた違った経験を糧にポイントガードとしてのスケールアップを果たしている。あとは勝ちがついてくれば──チームにも篠山自身にも、また大きな変化があると期待したい。