文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

モチベーションを上げてやっていくことが大事です

8月のリオ五輪本大会に向けてチーム作りを進める女子日本代表は、2度目のヨーロッパ遠征から帰国したばかりだが、今日から東京都内で第5次強化合宿をスタートさせた。

Wリーグ終了後にまとまった休みはあったが、代表チームの強化が本格的に始まった4月9日以降は、文字通り合宿と遠征の繰り返し。今回はリオ五輪という華やかな舞台が待っているだけにモチベーションには事欠かないにせよ、それでも心身ともに相当追い込まれているはずだ。

だが、AKATSUKI FIVEの14番、本川紗奈生は全くそんな素振りを見せない。むしろ代表でバスケをするのが楽しくて仕方ないように見える。五輪に向けての抱負を改めて問われた本川は、「ざっくり言ったら、本当に楽しみたいんですよ。オリンピックという舞台を」と答えた。

「楽しむと聞いたら『えっ!?』と思うかもしれませんが、楽しむって難しいと思うんですよ。その舞台に立った時、足が震えてしまったり、自分のプレーができない人のほうが多いと思うんです。練習では良いプレーができても大舞台だと出せない、という選手が大半なので。私はその中でも自分のプレーを発揮しつつ、『楽しむ』というのが目標です。チーム一丸となって戦って、なおかつ笑顔でいられればいいなって」

もっとも、笑顔ばかりでやれるわけではない。合宿スタート時、本川はかかとのケガを抱えた状態でチームに合流した。最終メンバー12名へのサバイバルレースの間も、「本川はスタメンなんだから、無理をすべきではない」という声も少なからずあった。ケガを再発させたのでは元も子もない、という考え方だ。しかし本川は通常メニューをこなし続け、ここまでコンディションを上げている。

練習でも試合でも、強い気持ちで、なおかつ楽しむ余裕を持ちながらバスケットに取り組んでいるように見える本川。実際、メディアに公開される練習で、最も笑顔を見せているのは本川だ。プレー中は真剣だが、メニューの合間となればチームメートと盛んに言葉を交わし、厳しい合宿をエンジョイしているように見える。

だが、それも彼女自身が意識してやっていることだった。「一番意識しているのはメンタル的な部分です」と本川は言う。「ネガティブになってしまうと何もできない、それが今回すごく分かったので。自分のモチベーションを上げてやっていくことが大事です」

キャプテンの吉田亜沙美とは特に会話が多い。本川と吉田のコンビネーション、呼吸はバッチリ合うはずだ。

殻が破れて、メンタルが強くなった気がしています

ネガティブの要因はやはりケガへの不安だ。不安に押しつぶされてしまっては身動きが取れなくなる。だから本川は自分を奮い立たせていた。「プレーもすべてメンタル的なところです。行くか行かないか判断するのも、自分の気持ち次第なので。だから強い気持ちを持てればいいと思っています」

完治しないままやっていた合宿初期、オーストラリアとの3連戦では「本当に何もできなかった」と言う。「一歩目を出すのが『よいしょ』というぐらい遅かったので。それに比べたら今はリハビリでだいぶ良くなりました。でもやっぱり、シュートを打ってフィニッシュで跳べていないのが現状です。どれだけ足裏の感覚を戻していくか。地道なリハビリをやっていくしかないと思います」

五輪への切符を手に入れた去年のアジア選手権。これが本川にとっては「楽しめた大会」だった。「自分が常に楽しみながら、それを試合に出せたというのがすごく大きかったんです。今回はケガから入って、「どうしよう、どうしよう」という悩みから入って、自分の殻を破れずにいました。でも今はその殻が破れて、また去年よりステップアップできたというか、メンタルが強くなった気がしています」

「そうして気持ちに余裕が生まれて、プレーにもまた余裕が生まれてきたので。あとは去年みたいなプレーが戻れば。あとはこのケガと向き合って、付き合ってやっていくことです」

爆弾とは言わないまでも、ケガを抱えて大舞台に挑むのは精神的にはキツいに違いない。それでも本川は前向きな姿勢を失うことなく、ケガと付き合いながらリオ五輪を楽しもうとしている。「楽しみたいんですよ」と言う本川の表情は明るいが、それは重く長い葛藤や悩みの時間を経て、『吹っ切れた』からこその表情なのだろう。

力強いドライブ、思い切りの良いシュート、ルーズボールに飛び込む姿勢など、アグレッシブなプレーでチームを支える本川。リオ五輪本大会でもバスケを楽しみ、アグレッシブにプレーする姿を見せてほしいものだ。

葛藤や悩みを経て「吹っ切れた」本川のアグレッシブなプレーに期待したい。