取材=古後登志夫 構成=鈴木健一郎 写真=本人提供、B.LEAGUE

誰よりも個性的な男がコートを去った。1982年、山口県生まれの中川和之は専修大4年次にアメリカへと渡り、ABAでプロバスケ選手となった。強烈な個性で見る者を魅了し続けてきたが、アースフレンズ東京Zでの2年目のシーズン途中で引退を発表。セカンドキャリアの一歩を踏み出した彼に、しばし後ろを振り返ってもらい、濃密だった現役生活と今の心境を語ってもらった。

[中川和之 引退インタビュー]
vol.1 現役引退の決断を語る「全力でやってきたからこそ、シーズン途中で燃え尽きた」
vol.2 波乱のキャリアを語る「アメリカでの失敗から学び、再スタート」
vol.3 引退後のプランを語る「痛い目に遭ったからこそ、奉仕の精神で恩返しを」
vol.4 支えてくれた人たちに伝える「後悔は一切ない、あるのは感謝の気持ちだけです」

「永遠のライバル、兄ちゃんは兄ちゃん」

──ちなみに、双子の兄である中川直之はバスケにおいてどんな存在ですか?

無意識レベルだけど、永遠のライバルだと思います。DNAが一緒だから言い訳ができない。自分がダブルクラッチできないのに同じDNAのあいつができたらダメでしょ。あいつが自主練やってたら俺もやる。俺があいつより上手くなかったら困るから、休みたくても休めない。それを9歳から22歳まで延々とやってきました。

双子の兄弟にみんな言えることかもしれないけど、DNAが一緒過ぎてすごくムカついたりすることもあって。仲が良いのはみんな知っていますが、ガチンコの殴り合いとかしょっちゅうで、絶縁みたいなことも何度かありました。生まれてから中学ぐらいまでは毎日ケンカですよ。でも、俺の性格があまりにも負けず嫌いなジャイアンなので、大人なナオがバランスを取ってくれました。

昨日、引退記念でナオと昼飯を食べながら話をしたんです。「高校で得点王を取らせてもらったけど、お前からのアシストがなかったら半分も取ってないね」と。俺はパスは全然うまくない。点を取りたくて仕方ないから「全部よこせ」ですから。だからあいつは配給しまくる中で天才的にパスが上手くなりました。逆に言えばナオがいなかったら俺は何もなかったかもしれません。

大学までずっと一緒で、九州電力に入って俺がいなくなったらイキイキとプレーするようになりました。実業団だって簡単じゃないのに、50得点20アシストなんてするのはナオぐらいじゃないですか? 得点もそうやって取れたのに、俺が制圧しすぎたせいでずっと我慢してきた。実はあいつが一番すごくて、あいつのおかげで俺が立たせてもらったんじゃないかって。

──2人でともに歩んできたバスケ人生だと思いますか?

俺はプロで好きなことをやらせてもらいましたが、やっぱりつらいこともあります。でも、その時にナオは九州電力で社会の現実と向き合っていました。社会の現実の方がずっと大変ですよ。そういう情報がナオのおかげで入ってくると、「俺はどれだけ恵まれてるんだ。キツいかもしれないけど、好きなことで何を言うてんねん」と。同じDNAを持つ双子の、本来俺がそうなったであろう世界の話を聞けたのはありがたかった。そういう意味では2人で歩んだとも言えます。

引退後のナオはプロのコーチ業でいろんなことをやっていて、単純に兄でありながらビジネス的にも尊敬できる人間だし。一言で言えば兄ちゃんは兄ちゃん。やっぱりこいつすげえわと。

理想のポイントガードの実現を若い世代に託して

──引退という現実に対して、気持ちはもう整理できていますか?

猛烈に寂しいですが、後悔は一切ないです。ただ、東京Zを退団した時に、あえて引退は明言しなかったんです。その理由は、信じてもらえないと思うけど、ひざのケガが本当に完治したので、もしかしたら辞めてしばらくしたらまたプレーしたくなるんじゃないかと思ったからです。それに燃え尽きてはいましたが、以前はB1でプレーしたい気持ちがあったので、オファーが来ればもしかしたらもう一度スイッチが入るかもしれないと。

でも、しばらくたってもプレーしたいという気持ちが全く起きなかったし、キツい練習もしなくなった。そして案の定、1部のチームからも声がかかりませんでした。そういった状況から2月7日をもって引退することを決めました。退団と引退が空いたのはそのためです。現役に心残りがあるとすれば、身体がついてこずに理想のポイントガードとして完成しなかったことですが、それはこれから指導者として俺よりもっと可能性を持った若い世代に伝え、実現してもらいたいと思います。

「東京Zのファンの皆さんは『サポーター』でした」

──最後に、これまで応援してくれたファンに向けてメッセージをお願いします。

これはケガをし始めた時から痛感していますが、自分がプロキャリアを13年間も続けられてこれたのは、間違いなくファンのみなさんの応援があったからです。ファンとの距離が問題視されることも多々ありますが、気持ちとしては「いっそこのまま飲みに行っちゃいますか?」っていうくらい感謝の思いを表現したくなることが何度もありました。

特にキャリア最後の在籍チームとなった東京Zのファンの皆さんは、ひざが悪かった僕にとってはもはやファンではなく『サポーター』でした。どれだけ支えられ励まされたか。何人かの方には会って直接お礼を伝えることができましたが、その都度ばれないように涙腺を締めるのに必死でした。やっぱり歳は取るもんじゃないですね(笑)。

13年間本当に応援ありがとうございました。プロバスケットボール選手のKAZはもうどこにも存在しません。けれど、これからもバスケ界の坂本龍馬を目指して奮闘する中川和之は必ずどこかの会場の最前列にいると思います。髭は濃くても可愛い目をしたフレンドリーな男ですから、見かけたら必ず僕を捕まえて話しかけてください。

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