文=鈴木栄一 写真=鈴木栄一、古後登志夫

JX-ENEOSに完敗を喫した皇后杯「ひどすぎた」

皇后杯の準決勝でトヨタ自動車アンテロープスは『女王』JX-ENEOSサンフラワーズと激突。今シーズン開幕前、日本代表経験者を複数獲得する大型補強を行ったトヨタを、JX-ENEOSの対抗馬の一番手に推す声は多かった。実際、12月9日に行われたWリーグでの対戦では81-75で勝利し、JX-ENEOSにリーグ戦初黒星をつけている。

しかし、下克上の期待された皇后杯では52-78と完敗。大一番におけるJX-ENEOSとの差を見せつけられる格好となった。

シーズン開幕前に富士通レッドウェーブからトヨタに移籍。新天地で打倒JX-ENEOSを目指した長岡萌映子はわずか3得点と不発。「今日の私は何も言うことがないです。もうひどすぎたし、何も貢献できていない。次に向けて気持ちを切り替えるしかないくらい、今日はひどすぎただけですね。良いシュートは打てていたんですけど、なんでここまで……というのは思いました」と、自身のプレーについて厳しい評価を下す。

オフの大型補強で10人の選手をローテーションで起用できる陣容に。層の厚さにおいては、藤岡麻菜美が離脱中であるJX-ENEOSを上回るくらいのタレント集団となったトヨタではあるが、当然のように新加入選手が多いことで、チームとしての成熟度でははるかに及ばない。

「思い出したくないような試合になりました」

苦しい試合、苦しい時間帯で、誰が率先して点を取りにいくのか。この役割を期待されているのが長岡だ。本人にもその自覚はあるのだが、一方で新加入選手である自分がチームのエースなのだという確たる意識を持つには至っていない。まだチームメートと試合を重ねていく中で、連携を構築している段階なのだ。

「チームメートへの遠慮とかはないですが、みんなが点を取れる分、頼ってしまう部分があると思います。いろんな時にコーチから『お前が行け』と言われますが、今日は試合の流れをつかむのが難しかったので、どうしたらいいのか自分でも分かりませんでした」

振り返れば去年の皇后杯、決勝でJX-ENEOSに敗れた長岡は、試合後のインタビューで「JX-ENEOSに勝たないと意味がない」と言い、大会ベスト5に選出されたことも「申し訳ない」と悔し涙を流していた。あれから1年、雪辱を期して臨んだ皇后杯だったが、「最悪です。思い出したくないような試合になりました」と、これ以上ない返り討ちを浴びてしまった。

「この壁を乗り越えていかないといけない」

あらためて痛感することになったJX-ENEOSの厚い壁。ただ、「自分たちが勝った時の勝因はリバウンドの多さとターンオーバーの少なさ、シュートの確率が良かったことでした。勝つために何をしないといけないかは分かっているので、もっと正確さを高めていくことです」と勝利への青写真は描けている。

また、長岡もトヨタでは富士通時代の4番ではなく、代表時代と同じ3番ポジションと新たな挑戦中。「いろいろ勉強というか、分からないことだらけで大変です。ただ、これを求めていたので、この壁を乗り越えていかないといけない」と、『苦戦することの充実感』を得てもいる。

JX-ENEOSの強さは称賛するしかないが、『1強』では面白くない。女子バスケット界の底上げのためにも、トヨタが『女王』に脅威を与える存在になることは重要だ。そのために、長岡のエースとしての覚醒は必要不可欠な要素であるはずだ。