多嶋朝飛

レバンガ北海道は10勝50敗で残留プレーオフに回った昨シーズンからチームを刷新して、2019-20シーズンに臨んだ。ポイントガードに橋本竜馬が加わり、得点力不足解消の切り札としてマーキース・カミングスを獲得。新たな顔ぶれで新たなスタイルの構築に四苦八苦しながらも、レギュラーシーズン13勝27敗と勝率を倍近くに伸ばし、中止決定時点で残留プレーオフ回避の順位につけていた。もっとも、司令塔の多嶋にとっては『四苦八苦』の部分が印象深いシーズンになったようだ。新型コロナウイルスに振り回されながらも奮闘したシーズンを、多嶋が振り返る。

感染拡大の中「これで罹ったら仕方ない」と大きな覚悟を持って

──シーズン中止に至るまで、感染拡大が早かった北海道の選手としてどんな経験をしましたか?

北海道は感染が広がるのが早く、全国でも一番早く北海道知事による緊急事態宣言が出ました。まだリーグの途中でも自宅待機をしなければいけなくなり、練習も自主練になりました。最後の1カ月はチームの練習も十分にできなかったので難しかったですし、もちろん怖さも感じていました。最初はまだ日本全体では新型コロナウイルスの影響がそれほど深刻ではなく、北海道ではみんな外出を自粛しているのに僕たちは飛行機を使って全国で試合をしていて、選手によって差はありますが「今は活動を控えた方がいいのではないか」という声はありました。

誰かが感染すれば広めてしまう状況で、知らぬ間に拡散させてしまうリスクがありましたから、僕個人は練習にしても試合にしても気持ち良くやるのが難しかったです。それでも、練習も試合もやるとなれば適当にはできません。「これで罹ったら仕方ない」というくらいの覚悟を持ってやるようにしていました。

──一度は無観客でのリーグ再開が決まりましたが、北海道と川崎ブレイブサンダースとの試合は中止となりました。

第1戦の開始前に僕たちのチームから3選手が発熱したのですが、当初は試合をやる方向でしたので割り切って準備をしていました。外国籍選手がいない中でも戦わなければいけない使命感があって、どう戦うかを考えていたのですが、開始直前になって中止が決まりました。そこで「明日のゲームはない」という気持ちに一度なってしまったので、実施となった第2戦はすごく難しかったです。結局は負けてしまったのですが、会場にファンの皆さんがいなくて盛り上がれない中で自分たちの気持ちを上げて我慢して戦えた、乗り越えようとする気持ちをチームとして出せたのは良かったです。ただ、あの経験をもう一度したいかと言われたら、正直したくないですね。

──結局、その試合がシーズン最後の試合となりました。あれからの1カ月と少しを、どう過ごしていますか?

家にいるんですが、やることがないんです。リーグの終盤から外出はできなくなっていたので、外で買い物を手早く済ませて、家で食事を作る機会は増えました。トレーニングはチームのトレーナーが送ってくれるものをやっています。あとはクラブと共同でオンラインサロンを始めたので、今はそちらに時間を使うようにしています。

オンラインサロンを始めるにあたって勉強はしたつもりなんですけど、どれぐらいの人が集まってどんな空気感の中でやるのか分からないままのスタートでした。最初はクラブと投稿スケジュールなどをどうするか相談していたのですが、月額のサービスで投稿が少ないないのはダメだと思って、当初の予定以上に頻繁に更新しています。やっていく中で反応が少しずつ分かってきて、コメントにしても長さや質が普通のSNSとは違う感じで皆さんとのコミュニケーションが取れてきて、やればやるほど楽しくなっていますし、ありがたいことに会員数も増えてきています。

──オンラインサロンはこの1年ぐらいで広まりましたが、バスケ界では新しい試みになります。

そうですね。本来、この新型コロナウイルスの状況じゃなければメンバーの皆さんと会う機会もあるはずだったんです。僕たちから一方的にコミュニケーションを取るのではなく、メンバーと一緒に何かを創り上げていきたいと思っていたので、直接会ったりすることは今はちょっと難しいですが、一緒にグッズを作ったりはしていきたいです。今の時点でいろんな意見をいただいてはいるので、その反響の大きさはありがたいです。

多嶋朝飛

「チームを動かす、そのための存在感をもっと出す」

──あらためて2019-20シーズンを振り返りたいと思います。10勝50敗で残留プレーオフに回った昨シーズンを経て、今シーズンは勝率が16.7%から32.5%と倍増の結果を出しました。チームとしての成長はどこにありましたか?

メンバーが結構入れ替わったのですが、結果的に開幕4連勝と良いスタートを切ることができました。それでもバスケの質はそれほど良くはなくて、帰化選手も含めてオン・ザ・コート3の時間が長く、どちらかと言えばゴリ押しのバスケットになりがちでした。それまではみんなでディフェンスを激しくやって、ロースコアに持っていくバスケだったので、今シーズンこういう形で進んでいくとどうなるのかな、とは思っていました。

それから勝ったり負けたりする中で、個人的な調子は良かったんです。ただ12月に僕が足首の捻挫で、(橋本)竜馬もケガ明けであまり出れない時期があって、そこで個に頼るバスケに戻ってしまってリズムが悪くなりました。シーズン中盤からコーチ陣と選手で何度も課題を話し合ったんですけど、それが勝ちに結び付かずに難しい時期になりました。

一番難しかったのは、「レバンガ北海道のバスケは何か」が出てこなかったことですね。コーチ陣からはディフェンスを頑張りなさい、取ったらまずブレイクを考えなさいとは言われるので、それが求めるバスケなんでしょうけど、実際にどの選手が出ているかの兼ね合いで遂行度に差がありました。それでチームとして頑張れないことが多かったと感じます。

──シーズンが中止にならず終盤戦まで試合があれば、その課題を解決することもできたと思いますか?

うーん……。最終的にチームとしてどういうバスケをやっていくべきなのか、迷いながらも見えてきてはいたんです。そこに集中していこうと、遂行できる選手とできない選手がいる中でも一緒になって取り組む姿勢は出ていました。僕もガードとしてシーズンの最後の方はやりやすくなっていました。

いろんなフォーメーションにたどり着かなくて1対1になってしまうケースが多かったんですけど、得点力のある外国籍選手をチームとしてどう生かすかがあるべきで、ローポストゲーム、1on1ゲームにせずに2メンゲームを作ろうという意図が出ていました。そのアクションがちょっとずつ出てきたことは良かったと思います。

──個人としてシーズンを振り返ると?

チームも僕自身も良い経験はできましたが、もどかしい気持ちでいることが多かったですね。課題としては僕個人が何とかするのではなくてチームを動かして何とかする力、そのための存在感をもっと出すことです。そこはオンボールでもオフボールでももっとできると感じていました。

自分で攻めるという思い切りの良さ、チームが動いている中で自分も攻める形は特に前半戦は良かったと思います。自分のプレーはチームで何を求められるかによって変わるし、今シーズンは得点を求められていました。

今シーズンは竜馬が入って来たのが大きかったですね。同い年ですし同じポジションですし、お互い意識しながら刺激になって、日々の練習も試合もやってこれたと思います。竜馬が加わったことで、プレータイムが長い試合も短い試合もありましたが、「今は自分の出番じゃない」と考えることもできるようになりました。僕が点を取りに行くスタイルに変えても崩れなかったのは竜馬がいたからだと思います。僕は竜馬みたいな選手になれないし、竜馬も僕のようなタイプにはなれないと思うので、そこで「自分はこう生きていく」と割り切ってプレーすることができました。

多嶋朝飛

「無観客を経験し、バスケをする意味を考えた」

──北海道としては、今シーズンはオールスターゲームを誘致したシーズンでした。多嶋選手はスキルズチャレンジで優勝していますが、どんな思い出になりましたか?

一言で言えば「忘れられない」ですね。初出場ですし、地元開催だったこともありますが、あれだけお客さんが入っている中で自分一人がコートにいるのはなかなかないじゃないですか。半分遊びのゲームではありますが、自分の名前が呼ばれて地元の方々が本当に大きな歓声をくれた、あの瞬間は忘れられません。優勝したことよりも印象に残っています。

──新型コロナウイルスの影響でシーズン終盤戦がなくなり、思うように外出することもできません。非常に難しい状況を自分にとって少しでもプラスにするために、何か考えていることはありますか?

今は家にいて辛抱するしかありませんが、オンラインサロンもそうですけど、いつもと違うことをすることは新たな発見になります。今はプロ選手としてバスケを仕事にしていますが、バスケができなくなったらゼロになってしまうわけじゃないですか。だから今は、いろんな気付きがある中で勉強ができる期間なので、何か今後の自分にとって武器になるものを見つける時期にしたいと思います。今すぐできるわけじゃなくても、自分が必要とされるとか需要があるのならチャレンジしたい気持ちはずっとあります。その勉強をしながら、タイミングが来た時にはいつでも準備ができている状況にしておきたいと思います。

──まだまだ先は長そうですが、正直に言えば自粛生活にはもう飽きましたよね?

僕はどっちかと言うと家で一人でいるのが全然大丈夫なタイプなんですけど、こうやって外出を自粛できない状況が続くとすごく気が滅入ります。それでも今はネットでいろんな人と顔を見ながら話ができるし、InstagramやTwitterを使った企画もいろいろやれるので、ファンの皆さんを少しでも元気にできるようにと思っています。あとは落ち着いた時にまたバスケができることをイメージしながら、ひたすらみんなで我慢ですね。

──ファンの皆さんに直接挨拶する場もなくなってしまいました。ここでメッセージをお願いします。

いつも会場に来てくれて、アウェーにも多くの方が来てくれて、いつも大きな声援を送ってもらえるチームになったと年々感じています。今シーズンは良い部分も悪い部分もあったんですけど、それでも北海道のファンの皆さんは優しくて、どんな状況でも応援し続けてくれました。その愛情を直に感じながらプレーできたことに本当に感謝しています。

それは無観客を経験してより感じたことでもあります。ファンの方々がいないところで自分たちがバスケをすることに何の意味があるのかとすごく考えました。スタッフが会場の設営をしてくれて、そこにファンの方々が来てくれることで初めて僕たちのバスケが成り立つんだと。いつ再開できるか分からない状況ですけど、その時はまた僕たちは楽しいバスケを見せられるようにしっかり準備しなきゃいけないと思います。会場の雰囲気をまたみんなで楽しめる日が早く来てほしいです。

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