文=丸山素行 写真=野口岳彦

現役復帰の初戦でチームに勝利をもたらす大活躍

11月21日に現役復帰を発表した栃木ブレックスの渡邉裕規がコートに帰ってきた。先週末の横浜ビー・コルセアーズとの初戦、第1クォーター残り5分11秒のところで出場した渡邉は、ファーストシュートとなるロングレンジのミドルシュートを早速決めると、その後3本の3ポイントシュートをすべて沈めいきなり11得点の活躍。4-10の劣勢から、24-11と試合の流れを大きく変えて勝利に貢献した。

「復帰したということはまた新たにスタートを切ったということなので、私情をコートに持ち込んだつもりはないです。チームの役割をやっていくのが第一優先でした」と冷静な渡邉。

それでも大勢の観客の前でプレーをしバスケの楽しさを思い出した。それと同時に栃木が特別な場所であったということを再認識したという。

「ブレックスでバスケットをするのが特別だというはすごく感じます。アウェーにもかかわらず温かい声援をくれたのはすごいうれしいですし、他のチームだったらないのかもしれない。それは分からないですけど、あらためて楽しさというのは感じますね」

復帰初戦でいきなりの活躍を見せた渡邉。指揮官の安齋竜三も「苦しい時に出ていってすぐ決めてくれたのでさすがだなと思いました」と脱帽。「5年一緒にやってますし、あいつの良さっていうのは分かっていると思っているので、ゲームメイクなどを徐々に戻してほしいです」と渡邉に対する期待は高い。

「バスケットを楽しむことが第一歩」

初戦は勝利の立役者となったが、第2戦では無得点に終わりチームにも貢献できず。バスケの楽しさを噛み締めた翌日はバスケの難しさを思い出すことになった。「得点もそうですけど、自分が出てる時間帯に良い流れを作れなかったというのはあります。負けたチームが集中してやってくるので、どうしても受けになることが多い。そういう意味でこういうことあったなって思いましたね」

ただ、受け止め方としてはポジティブだ。「そうだよね、そんな簡単じゃないよねって。そういうことも含めてちゃんと取り戻していかないといけないです」と言って一呼吸置き、「そんなに時間はかからないと思います」と自信をのぞかせた。

休んでいる間に落ちた体重も以前のものに戻りつつある。ゲーム勘や試合に対する気構えなど、これから徐々に戻していく工程が待っているが焦りはない。そして本来の姿を取り戻す最善の方法は、楽しむことだと持論を展開した。

「正直に言うと焦りはないです。変な話、すぐに出られるような環境じゃないと思ってましたので。だから僕がやらなきゃというより、バスケットを本当に楽しむことが本来の姿に戻っていく第一歩だと思います。昨日みたいな日もあれば今日みたいな日もあるというを確認できたし、楽しむことじゃないですか。生きてる感じがしますね」

「完全体になったらまた引退しちゃうんじゃない?」

シュートやドリブルなど技術的なことはもちろんだが、ゲーム勘やコンディションの持っていき方など様々な部分が、まだ以前のレベルに達していないと渡邊は自覚している。

だがトークのスキルは全く衰えを見せない。『完全体』になるまでにはどれくらいかかるか、との記者からの質問に対し、「完全体になったらまた引退しちゃうんじゃない? 完全体とか言わないほうが良いですよ、気を付けてください」と渡邉。

「昨日も(発言を)気をつけようと思ってインタビューの時に下手に出ましたが、そう思ってたら今日テクニカル取られちゃいました」とさっそく自虐ネタを放り込んできた。この明るさがチームのムードを好転させ、喋りのうまさがファンを魅了する。栃木に頼もしい男が戻って来た。