ニック・ファジーカス

「負けたことに何も言い訳はできない」

天皇杯の決勝、川崎ブレイブサンダースはサンロッカーズ渋谷に73-78で敗れ、またしてもタイトル獲得を逃した。

ファイナルラウンド直前の12月下旬になって篠山竜青、マティアス・カルファニが故障で離脱。さらにベスト8の前には鎌田裕也、ベスト4の前に藤井祐眞がインフルエンザで欠場と満身創痍の中、4日間で3試合のタフな日程を勝ち上がり、優勝まであと一歩まで迫った戦いぶりは、多くのバスケットボールファンの胸を熱させるものだった。

川崎の大黒柱ニック・ファジーカスは、連日の激戦で疲労困憊の中でも、決勝では40分フル出場を果たし、26得点10リバウンド7アシストと獅子奮迅の活躍だった。

普段の取材から、彼がどれだけ負けず嫌いであることは十分に理解している。それでも、この戦いぶりには、敗れても自分たちを誇りに思うべきではないか。そう問いかけると、彼はこう答えた。

「決勝も5点差とあと一歩での負けだった。人数が足りていない中、この大会で自分たちが達成したことは誇りに思うべきだと思う。でも、負けことに何も言い訳はできない。今はまだそうは考えられない」

この『あと一歩』とは何だったのか。「辻(直人)がポイントガードとして、素晴らしい仕事をしてくれた。でも、ポイントガードのポジションが薄くて、そこで疲れが溜まっていった。そこが少し自分たちの足を引っ張った」とファジーカスは振り返る。

実際、前から激しくプレッシャーをかける渋谷のタフなディフェンスによって、慣れないポジションの辻がスムーズに敵陣までボールを運ぶのは簡単ではなかった。それを熊谷尚也、長谷川技など他の選手がサポートすることで補ったが、それでチーム全体の疲労は少しずつ溜まり、そこが明暗を分ける差になった。

ニック・ファジーカス

「最後の3ポイントシュートは悔いが残る」

天皇杯前の最後のリーグ戦の後には、「選手がいないので勝ち抜くためには40分出ることも考えている」とファジーカスは言っていた。その言葉が現実となったが、自身のパフォーマンスには、「トーナメントを通して良いプレーができた。今日も勝つチャンスは与えられた」と語る一方で、1点を追う残り49秒で放った3ポイントシュートを決めらなかったことで自らを責めた。

「でも、最後の3ポイントシュートが入らなかったのは悔いが残る。あそこで入っていたら試合は変わっていた」

ファジーカスにとって、どれだけ見るものの心を震わせた戦いぶりであったにせよ、『優勝できなかった』という事実において、今回の天皇杯で充足感を得ることはない。

ただ、それでも「このトーナメントを、自分たちが勝ってはいけないことになっているんじゃないかと思うほどだった」と感じるアクシデントを乗り越え優勝まであと一歩まで迫れたことへの手応えは得た。

「チームのみんなを誇りに思っている。全員がハードワークをし、自分たちの最大限を出し切れた。マティアス、篠山、藤井もいなくてアルバルク(東京)、宇都宮(ブレックス)を破り、あと少しで天皇杯を勝てるところまでいった。ケガ人が出て大会前に自分たちはアンダードックだと言っていたけど、欠場したメンバーが戻って来たら川崎は優勝候補の筆頭と言えるようになれる」

ファジーカスが言うように、プロの世界は結果がすべて。記録として残るのは、あくまで勝者の栄光のみ。ただ、今大会の川崎の戦いぶりは記憶に残るものだった。どんな苦境に陥っても決して心が折れないタフなチームであり、これから後半戦に突入するリーグ戦で王座を狙える力を十分に備えていることは証明できた。

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