「俯瞰的にコートを見れるようになった」
10月25日、サンロッカーズ渋谷はミッドウィーク開催のゲームで栃木ブレックスに大勝した。終わってみればすべてのクォーターで相手を上回る完勝だったが、決して簡単な試合ではなかった。前半を終わって36-24と稀に見るロースコアの重たい内容だった。SR渋谷のオフェンスは序盤の5分間でわずか6点と機能していなかった。
「ピックの時にハードショウしてくるかと思っていましたが違いました。あっちのディフェンスに対して浮き足立っていて、コートを広く使いすぎたと言うか、本来いるべきポジションにいなかった」と、ポイントガードの伊藤駿は序盤の停滞したオフェンスを分析した。
重い展開を変えるきっかけが、SR渋谷の6点目となる伊藤のミドルシュートだった。「ピックで誰か一人を崩して決めれば相手のディフェンスが下がると思いました。そこを自分が打開して(竹内)公輔さんがマークになったところを決められて、流れをつかんだと思います」
その後もピック&ロールからのミドルシュートや3ポイントシュート、ドライビングレイアップなどで加点し、伊藤は11得点をマークした。
伊藤は得点型ではなくコントロール型のポイントガード。昨シーズンも伊藤が出場する時間帯はどこかチームが締まる印象があった。その安定感が今シーズンはより増したように思える。「俯瞰的にコートを見れるようになったかなと。去年よりさらに見れるようになったという感覚はあるので」と自身も成長を感じており、その結果チームに与える影響力も増したということだ。
「僕が言ったことを理解してやってくれていれば」
先週末に対戦した川崎ブレイブサンダースには2試合とも2点差の僅差で敗れている。強豪相手に接戦を演じ、チームの持つ力を再確認できたと同時に、勝ちきれない脆さも露呈した。
「先週の川崎戦は取らなければいけない2点や3点を相手にあげている部分がありました。チームとして『ここを守らなければいけない』、『走らなければいけない』というのを全員が理解しているわけではないので、それを伝えていかなきゃいけないなと思います」
接戦を勝ち切る力とは、勝負どころを見極める能力だ。そのアンテナの精度を高めることが今のSR渋谷には求められている。「共通認識がまだ甘いと言うか、誰に打たせるかというのも、僕がコールしてる意図をみんながみんな汲んでくれているわけではないので。そういう細かいところがあの2点だったりします。僕が言ったことを理解してやってくれていれば勝ちゲームになるイメージができてます」
乱暴な言い方をすれば、伊藤の考えを理解して遂行できれば勝てるということ。大人しそうな印象を受ける伊藤からそれだけ強い言葉が聞けたのは意外だった。「ポイントカードなのでやっぱりそれぐらいの気持ちがないとやっていけません。自分がやるからみんながついてくるという、そのぐらいのリーダーシップがないと駄目かなって」と、責任を一身に背負う覚悟が伊藤にはある。
同時に、憎まれ役を演じることも厭わない。そんな自分のことを「めっちゃ腹黒いと思います」と伊藤は笑いながら言う。その爽やかな表情と発言のギャップがなんとも面白い。「僕のことをみんなも信頼してくれているのでそこは自信を持って、迷ったり躊躇したような発言をしないで、言ったことはやるように強いキャプテンシーを持ってやっていきます」と締めた。
口だけで行動が伴わない人間の発言には誰も従わない。その一方で責任を持ち、誰よりも行動で見せる人間には求心力が自然と身に着いていくだろう。SR渋谷のスローガンである『together』は伊藤を中心にして完成する。
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