王者をギリギリまで追い詰めた東山
ウインターカップは福岡第一(福岡)の連覇で幕を閉じた。圧倒的な強さで勝ち続けた福岡第一を、優勝までの過程で最も苦しめたのは東山(京都)だった。
準決勝で福岡第一に挑んだ東山は、タフショットでオフェンスを終わらせず速攻のリスクを抑え、徹底したディレイドオフェンスでロースコアゲームに持ち込み、38-28と2桁をリードして前半を終えた。それを可能にしたのは米須玲音のゲームコントロールだ。福岡第一のプレッシャーディフェンスに晒されながらターンオーバーを犯すことなくメリハリのついたオフェンスを展開し、10得点7アシスト3スティールとチームを牽引した。
「思ったより自分たちのほうがブレイクを出せて、前半は気持ち良く終わることができた」と米須が話すように、明らかに東山のペースで試合は進んでいた。
しかし、福岡第一にはまだ武器があった。後半になって福岡第一が出したオールコートディフェンスにターンオーバーを連発。前半はほとんど出させなかった速攻を連続で許した。第3クォーターを11-30と圧倒され、一気に逆転された。
米須は「後半スローダウンしすぎて自分たちのぺースが狂いました。プレスを仕掛けてくると予想はしてましたが、他のチームにない圧があって、自分たちも冷静にプレーできなかったです。相手に速攻を何本か出されて、そこで流れを変えられてしまったのが一番大きかった」と、第3クォーターの展開を悔やんだ。
その後もゲームプランを忠実に遂行し続けたものの、一度傾いた流れは覆せなかった。スローペースに持ち込んだことが善戦の要因ではあるが、それは同時に東山の得意なトランジションを封印することを意味した。
米須も「速攻を出したかったのですが、スティールされて流れを持っていかれたらさらに点差が開くと言われていたので、速攻は出さずに落ち着いてやろうと考えていました。自分たちも速攻で流れを変えていくことが多かったんですけど、ゲームコントロールをして、自分たちのゲームが狂ってしまったのは一つあります」と、司令塔として葛藤があったことを明かした。
「河村さんがいる時に勝つという目標があった」
東山は去年のウインターカップで福岡第一に大敗して以来、『打倒福岡第一』を掲げてきた。それとともに、米須は『河村勇輝超え』を目指して、修練を積んできた。だが、結果的にその悲願は達成できず、河村には25得点10アシストのダブル・ダブルを決められた。
「マッチアップして、やられてはいけないところで3ポイントもやられてしまって流れを変えられました。メンタルが強いというか、3年生の意地を見せられたと言うか。僕よりも上の上を行っていて、完敗です」と、米須は悔し涙を流した。
それでも、高校No.1ポイントガードとの呼び声高い河村にとっても、米須は無視できない存在のようで、試合後には「来年は絶対優勝しろ」とエールを送られたそうだ。だが、米須が勝ちたいのは来年ではなく今年、河村がいる福岡第一を倒すことがすべてだった。「河村さんがいる時に勝つという目標があったんですけど、それを達成できずに悔しいです」
来年は米須とムトンボ・ジャン・ピエールが最上級生となり、主力を担った西部秀馬が2年生になる東山は、主力がごっそり抜ける福岡第一よりも優勝に近いチームになるかもしれない。
「今年は全国で2回負けているので第一を倒して優勝したい。来年はうれし涙で帰ってきます」
河村という最大のライバルは高校の舞台を卒業するが、米須の挑戦はこれからも続く。悔し涙は今年で終わり。来年の今頃は河村のように高校バスケの中心選手となっている米須の姿が目に浮かぶ。