『富永啓生のチーム』から全員バスケへと変貌
ウインターカップ男子3回戦の桜丘(愛知)と県立能代工業(秋田)は、前半にゾーンディフェンスで能代工の攻撃をシャットアウトした桜丘が35-19と先行。そのまま後半も相手に主導権を渡すことなく77-60で快勝した。
「こんなにゾーンが上手くいくとは思いませんでした。能代工は3ポイントシュートが来るからゾーンからの変化を考えていて、上手く行ったのか助かったのかは分かりませんが、それが全然来なかった」と桜丘の江崎悟コーチは語る。
それでも、相手のシュートが落ちるのをただ祈ったわけではない。能代工がゾーンディフェンスに対してどんな攻め方をするかはスカウティング済み。それに対応するローテーションを準備していたからこそ、能代工の3ポイントシュートは思うように決まらなかった。
ディフェンスとオフェンスは両輪。守備が機能すれば、そこから良い攻めを作ることができる。今年の桜丘は全員が得点力を備えたチーム。能代工の伝統、オールコートの激しいプレスを、高い位置で個人がかいくぐることで優位を作り出す。また留学生プレーヤー2人のうちスタートを務めるのは得点よりも守備とリバウンドに強いベンツロバス・ラポラス。相手にタフショットを打たせ、そのリバウンドを確実に抑えて攻撃に転じることでリズムを作り出したところで得点力のあるセン・マム・リバスを投入。リバスは16得点、ラポラスは13リバウンドと役割は異なるがチームプレーを優先できる点では共通している。フィジカルの強さ、ボールへの執着心でも能代工に劣らず、優位を作り出した。
15-10で始まった第2クォーター序盤に1点差に詰め寄られたが、山本星矢の連続得点から14-0のランで引き離す。前半を35-19で折り返すと、後半も付け入る隙を与えなかった。
山本星矢は富永の後継者?「そう見られるのはうれしい」
昨年は最強スコアラー富永啓生を擁して、彼の得点力を最大限に生かすチームを作ったが、江崎コーチは「あれは例外です」と断言する。ただ、エースの役割を果たせる選手としては「後半に向こうのペースになりかけた時に、得意のペネトレーションを何本かやってくれて流れを戻してくれた」と木村貴郎の名を挙げるとともに、「山本星矢は富永啓生の後継者と言われているけれど、私と彼で言ってるだけで、誰もそう思ってない」という冗談とともに期待を語る。
その山本は能代工を突き放す時間帯のオフェンスを引っ張ることで勝利に大きく貢献。リバスと並びゲームハイの16得点を挙げた。それでも「3ポイントシュートの確率がまだ悪いです。ラインを踏んで2ポイントだったり、もったいないシーンもあったので、そこは修正したい」と反省も多い。
『富永啓生の後継者』については「練習中に一度、笑いながら言われただけです」と苦笑とともに否定するも「そう見られるのはうれしいですし、期待に応えられるよう頑張りたい」と語る。「啓生くんは何でも上手いので、全部やるのは難しいと思います。でも3ポイントシュートは得意なので、それを起点にいろんなプレーで貢献したいです」
「今の自分たちのすべてを出し切りたい」
能代工相手の完勝は大きな自信となるはず。しかし、明日の準々決勝の相手は前年王者の福岡第一(福岡)、富永啓生を擁した昨年のチームでも準決勝で72-103と大敗した相手である。チームバスケットの完成度を高めるのはもちろん、木村や山本の奮起も求められる。
江崎コーチに福岡第一との再戦について問うと「能代工業に勝つことが今回一番大きなテーマだったので、もういいです。達成しましたので、帰る準備をして明日来ます」と一度ははぐらかしながらも、理想のゲームプランを語ってくれた。
「ロースコアでゆっくり、じらしてじらしてやりたい。こちらは24秒かかってもいいからターンオーバーをしないでシュートで終わる。オフェンスで時間をかけて、2点入ったら儲けもの。入らなくてもいい、ハリーバックして速攻を止めて、それでゾーン。向こうは走りたい、ゾーンアタックに神経を使いたくはない。私のところはそうさせない。そこだけを頑張ってロースコアの展開にしたい」
山本は「僕たちの目標はベスト8だったんですけど、ここまで来たからには福岡第一にも思い切りぶつかりたい。今の自分たちのすべてを出し切りたいです」と意気込みを語った。
今日からはセンターコート。桜丘は13時40分から、福岡第一との決戦に挑む。