井手口孝

12月23日に開幕した2019年のウインターカップ。男子で圧倒的な優勝候補と目されるのは福岡第一だ。公式戦では負けなしが続いており、河村勇輝と小川麻斗、クベマジョセフ・スティーブの3人が前回大会の優勝をスタートで経験している強みもある。まさに盤石の強さに思えるが、井手口孝監督は「上手く行っているかは結果を見ないと分かりません」と慎重だ。そこにあるのは4大会連続準優勝に、ライバル大濠に準決勝で敗れるという過去の苦い思い出。だからこそ、できる限りの準備を整えてウインターカップに臨む。

「あと5試合しかないのか、という寂しさを感じます」

──いよいよウインターカップを迎えます。チームの仕上がりはいかがですか?

日本代表の活動がなかったので、チームとして1年間やれたのが何よりです。去年と違って3年生が1年間ずっとチームにいられました。去年から負けていないので、他のチームの第一に勝とうという意識は分かります。こちらからすればありがたいことです。

今年負けたのは胎内カップの東山戦。負けた負けたと言われるから負けなきゃ良かった(笑)。言い訳がましくなりますが、国体に行って私が不在で、中間考査もあって個人練習だけで終わっていた週だったし、前日も2時間も練習できずに、オープニングゲームで朝9時からの試合でした。インターハイに比べて東山は3番、4番の選手が積極的に点を取りに来て、ウチもごまかそうとプレスをやったけど、それでも運ばれました。

今年1年のチームの成長としては3ポイントシュートが入るようになってきたこと。私の中ではブレイクの3ポイントシュートは基本的にないので、セットオフェンスで相手のゾーンディフェンスが増えてくる中で3ポイントシュートを狙っていく。神田壮一郎はそのプレーが好きで、河村勇輝、小川麻斗、内尾聡理が時々。5番ポジションでは(クベマジョセフ)スティーブがたまに打ちます。控えの山田真史、仲田泰利、(ハーパージャン・ローレンス・)ジュニアも含めて8人全員が3ポイントシュートを持っていて、ペイントアタックが確実にできる選手が5人います。

──河村選手はこの1年でベンチの厚さが増したと話していました。実際いかがですか?

セカンドユニットの方がブレイクが速かったり、佐藤涼成やジュニアのプレッシャーが強かったり。身体も厚くなりました。彼らは国体で良い経験をしてきて、ファーストとセカンドの10人は揺るぎないと思います。

──大会が始まったら、どの部分がカギになると思いますか?

まず初戦です。やっぱり初戦がどうかで全部が決まってきます。昨年に強い勝ち方ができたのは、初戦での戦いぶりが非常に良かったからだと思っています。それで周囲が「福岡第一は強い」と思ってくれたことがプラスになった。今回、北陸学院にしてもつくば秀英にしても力のあるチームなので、そこをどれだけ抑えて勝っていけるのか。

初戦で良いスタートができれば、ディフェンスの激しいチームがこちらを抑えに来てファウルを吹かれることもあるわけです。激しいディフェンスはファウルトラブルと紙一重なところがありますから。そこでウチがファウルをせずに強いディフェンスができれば、自然と走れます。

井手口孝

「毎日の練習に起承転結を準備する」

──やはりディフェンスから走る展開にどれだけ持って行けるかがポイントですね。

ディフェンスの要となるのは内尾です。内尾が相手の一番良い選手を止めることによって周りが生きてきます。あとは河村のポイントガードに対するボールプレッシャー。小川、神田、スティーブのディフェンスにはまだ課題はあります。それでもジュニアと佐藤、(キエキエトピー)アリは伸びてきました。国体を経験してすごく自信を持ってプレーできるようになりました。

──今年は台湾と中国への遠征もありました。そこで経験できたことも大きいですか?

やっぱり高校生だから、いろいろ出掛けて新しいものに触れた方が良いです。私でも海外に行ったらアッと思う出来事があるわけですから、できれば若いうちに行かせて、いろんなものを見せてあげたい。バスケットだからできればアメリカで、河村と小川はロサンゼルスに行きました。

──浮き沈みの激しい高校生のチームでこれだけ勝ち続けられる秘訣はどこにありますか。

やはりベストプレーヤーがベストコンディションでいられることだと思います。グレッグ・ポポビッチも一番嫌がるのはケガだそうです。アクシデントだけでなくオーバーワークも含めて。だから平気で休ませたりしますね。私もそんな感じで、練習試合でもプレータイムはそれほど長くありません。今では私が練習を見ていて、5対5でも私が笛を持っている限りはケガをさせる前に止める自信があります。これは指導者なら誰でも考えていかないといけないことです。

──福岡第一はランメニューが厳しく、ケガのリスクは高いはずです。

全くケガがないわけじゃありません。でも、大きなケガは指導者に欲がある時に出ます。「もう1本やりたい」という気持ちを抑制していかなきゃいけない。選手がケガをした時に「やっぱりケガしちゃったか、交代させておけば良かった」という状況は出てきます。そこを事前に察知できるのが一番ですね。スティーブなんて1年の時はケガばかりしていました。身体のバランスが悪いから40分間出すのは難しいです。

ただ、そこをコントロールしながら、選手にはお腹いっぱいと思わせるのも大切です。毎日の練習も一つのショーであって、私はその演出家として起承転結をちゃんと作らなきゃいけない。毎日の練習に起承転結を準備して、同じことをやらないのは大事です。

井手口孝

「4年連続準優勝は辛かったし、記憶から消したい」

──これだけたくさん注目されて取材も受けて、プレッシャーは感じませんか?

生意気な感じになるかもしれませんが、プレッシャーよりも寂しさがあります。昨年を思い出すと、インターハイがなかったようなものだったから「もうちょっとこいつらと試合がやりたい」と思っていました。今年は結構やっているのに「あと5試合しかないのか」という寂しさを感じます。大会が終われば「はい、さようなら」と切り替わると思いますが。

もちろん、負けるのは怖いですよ。だから一生懸命に対戦相手のスカウティングをして、生徒もスカウティングして、データだけでは計り知れない相手チームに対する感性を持っておこうとしています。そこを怠らずにやり、あと数日をケガとか病気がないよう万全を期すことです。

──ずっと勝っているイメージがありますが、勝てない悔しさもたくさんありますよね。

最初の優勝は(並里)成が1年生だった2005年。でもその後に4年連続準優勝がありました。あれはやはり辛かったし、記憶から消したい思い出です。一回ぐらい3位があってもいいから優勝したかったですよ(笑)。ただ、それ以上に辛かったのは2年前、ウインターカップの準決勝で大濠に負けたこと。4年連続準優勝以上に、屈辱はこれが一番です。ウインターカップに出られなかった年もありますが、それはレベル的に仕方ない。2年前に大濠に負けたのは、私が試合を上手くもっていけなかった。選手の使い方も決断が遅くて中途半端で、迷った1年でした。

──その負けから得たものはどんなことですか?

ファウルトラブルで負けた試合だったので、ファウル一つの重さをそこから意識するようになりました。ところがまたインターハイの初戦で負けたわけです。松崎裕樹と河村が代表に行っていても、それまでは勝っていたんです。ところが2人がいなくてインターハイ初戦で負けて、それまでは自由にやらせていたのをある程度は管理するようになりました。Aチームだけ先に食事させてもう一回練習するとか、土日の練習開始時間は9時だったのを、平日と同じ7時にすることでBチームにもちゃんと練習させるとか。そこからあらためて取り組むようにしました。

これができるのもスタッフの人数がいるからです。今は4名と外部のトレーナーがいて、留学生のいろんな手続きをしてくれる先生もいます。スタッフは全部で8人です。私としてはコーチの育成も考えています。ずっとここにいる必要はないし、ここで勉強して大成してもらいたいです。

──最後に、福岡第一のバスケットに注目している方々へのメッセージをお願いします。

私たちの取り組みが本当に上手く行っているのかどうか、それは結果を見ないと分かりません。それでも選手たちは彼らなりに、すべての時間をバスケットに注ぎ込んで頑張ってくれましたから、負けることもあるかもしれませんが、どんなに苦しいゲームでも最後まであきらめずにやってくれると思います。胎内カップで東山に負けた時には全然そういうところが見られませんでしたが、そこから修正して11月の県大会や天皇杯でも頑張ったところが試合に出ました。

天皇杯は本当に良い経験でした。千葉の選手たちが胸を貸してくれて、高校生の選手たちの力を引き出してくれました。福岡第一がちょっと戦えたとか通用したとか、そういうことではないと思っています。富樫(勇樹)くんの力だし、大野(篤史)くん始めスタッフの皆さんに力を引き出してもらいました。ああいうのをやってくれると、下の世代が育ちます。その部分もウインターカップでは出てくると思います。そこを是非、見て感じ取っていただければと思います。