佐々宜央が率いる琉球ゴールデンキングスは、11月のリーグ中断期間を10勝5敗で迎えた。オフには主力選手の入れ替わりがあり、開幕後には大黒柱のジョシュ・スコットが今シーズン絶望の故障と大きなアクシデントに見舞われたことを考えると、まずまずのスタートと言える。その一方で、11月9日、10日に行われた王者アルバルク東京との対決では連敗を喫し、トップとの力の差を痛感させられた。様々な出来事があった序盤戦を経て、佐々はチームの現状をどう感じているのだろうか。
「気持ちの入るゲームで平常心でいられるかどうか」
──まずは、序盤戦におけるビッグゲームであったアルバルク東京戦での連敗を振り返りたいと思います。
アルバルク戦は今の自分たちの立ち位置であり、優勝候補との力の差が分かった試合でした。正直、選手たちもショックが大きかったと思います。自分にとっても、あの試合は不甲斐ないものでした。勝ちたい気持ちが強すぎて、自分で解決しようとした部分が大きすぎました。自分よがりな考えが戦術、戦略、スカウティングに出てしまった。それで選手にも良い準備をさせてあげられなかったです。
相手は非常に質の高いチームですが、故障者が出ていて万全の状態ではない。最低でも1勝はしたかったのですが、安易なミスが出て連敗となってしまった。選手に考えさせすぎた結果、思いきったプレーをさせられず、選手にも自分にもストレスが出てしまった。単純に負けたというより、何もかも悪い方向に出てしまった連敗でした。
──師匠であるルカ・パヴィチェヴィッチとの対決を意識しすぎたのでしょうか?
そういうつもりはなかったのですが、今振り返ると相当入れ込んでいました。試合でプレーするのはあくまで選手なのに、勝ちたいと思えば思うほど、ひとりよがりになってしまう悪い癖が出ました。だから選手たちも多分、自分たちが主体となってやっている感覚があまりなかったでしょうし、そういった意味でアルバルク戦では試合を楽しませてあげられなかった。非常に後悔が残りました。
こうやって振り返ると、アルバルク戦の日は寝られなかった。どこかで特別な気持ちがあって、精神レベルが良くなかったと思います。今後は気持ちの入るゲームでも、自分が平常心でいられるかどうかがとても大事だと感じています。
──このショックが残る連敗の翌週、滋賀レイクスターズとのホームゲームを連勝で終えることができたのは大きかったですか。
滋賀戦では、前半に苦しい時間帯がありましたが、後半に選手たちが自分たちでコミュニケーションを取って解決しているシーンもあり、そういった意味での収穫はありました。ただ、絶対的な力がついてきたと言えるような試合ではなく、満足することはないです。ただ、ブレークに入る前に、一つ乗り越えたところはありました。
「同じ悔しさを選手と共有できていたのか」
──試合中の様子を見ると、開幕当初からの変化として藤田(弘輝)アシスタントコーチが指示を出すケースが増えているように感じます。そこにはどんな意図がありますか。
「ヘッドコーチとは?」と考えた時、例えばルカみたいにグイグイ引っ張っていくようなタイプになれるかといったら、僕には彼のような選手としての経験値もカリスマ性もありません。自分ができることは、選手、スタッフの持っているものをサポートする能力です。
最終的には自分も力はあるという思いでやらないといけない。ただ、みんなが力を存分に発揮できる状況を作るのも自分の仕事だと考えています。そういった部分で、藤田にも試合前のミーティングをやらせていたり、選手たちに練習のスケジュールを決めさせたりする。自分だけでなんでもやらないようにすることを意識しています。そうでなくても、自分のキャラが強すぎるというのはやっぱり感じているので。
──やろうと思えば一から十まで自分ができるものを他人に任す。それでストレスを感じることはなかったですか。
「これは自分でできるのに」と感じることも最初はありました。ただ、アルバルク戦に負けた後、すごく悔しくて反省した時に感じたのは、自分よがりでやってしまうことで、同じ悔しさを選手と共有できていたのかということです。もちろん選手たちは負けて悔しかったと思います。ただ、普段からもっと自分が責任感を与えることで、よりチームとして悔しさを感じることができたのではないか。最終的な結果の責任を取るのは自分ですけど、バスケットボールをプレーする上で、そういった役割を与えるのも自分の仕事だと思いました。
──スコットの代わりにユージーン・フェルプスが加入しました。フェルプスはインサイドでもプレーできるパス能力に優れたフォワード。ブルックスは機動力のある点取り屋、クーリーは巨漢のセンターとタイプが異なります。彼らの使い分けをどのように考えていますか。
そこは相手の外国人選手に合わせる形で、まずはディフェンス第一で選ぶ形になります。例えば、アウトサイドからシュートをどんどん打ってくる相手に対しては、デモンとユージーン。巨体のパワータイプの選手で来るところにはジャックが必要となります。3人ともに違う役割を持っていると認識しています。
──相手の出方は関係なしで、自分たちのスタイルを第一に押し出すことも可能です。しかし、キングスは相手に合わせる形を取りますか。
そうですね。自分たちには日本代表はいないですし、タレントが相手よりもかなり優れているわけでもない。今の自分たちはリーグトップの力を持っていない。トップのチームに食らい付いていく状況となると、自分たちのバスケットをすることと同じぐらい、相手の持ち味を消すことも大事です。そういう駆け引きが、勝つためには大事な要素だと思っています。
「戦っていく姿勢はどのチームにも負けたくない」
──ブレーク明けは、現在リーグ最高勝率の川崎ブレイブサンダースとの対戦です。敵地での厳しい戦いとなりますが、どんなイメージを持っていますか。
川崎さんはタレントが豊富ですが、僕の中で川崎の心臓は藤井(祐眞)選手ですね。今の日本のバスケットボール界で、彼ほど常にあそこまでファイトできる選手はいないと思っています。長谷川技選手もそうですが、仕事人の選手たちにどれだけ負けずに、彼らの役割をさせないか。そこは特に意識する部分です。
──川崎の佐藤賢次ヘッドコーチは、かつて日本代表で一緒にアシスタントコーチを務め、リオ五輪の最終予選でともに戦ったメンバーです。なにか意識するものはありますか。
個人的な感情が試合に入ることはありません。ただ、それでも宇都宮で一緒にアシスタントをやっていた安齋竜三ヘッドコーチも含めて、Bリーグが始まった時はアシスタントで、コーチの端くれでした。それが今、みんなヘッドコーチになって多くのお客さんの前で戦えるのは特別なものだと感じています。だからこそ、今回こうやって彼とヘッドコーチ同士として戦えることは特別ですし、負けたくない気持ちもあります。
ファイトする姿勢がお客さんに伝わるチームを僕は目指して作っていますし、賢次さんもそういうチームを作っています。戦っていく姿勢はどのチームにも負けたくないと思っていて、もちろん向こうもそう思っている。その中で熱いゲームになれば良いですね。
──レギュラーシーズン4分の1を終えた今の状況をどのように見ていますか。
先ほども言いましたが、A東京との連敗が最も大きな負けで、同時に最大の収穫でもありました。15試合で10勝を挙げられたのも収穫です。ただ、真価が問われるのは、西地区で上位の大阪、名古屋、京都と対戦した時だと思います。そこで自分たちが西地区でどこまで行けるのかが見えてくる。それと同時に、滋賀も気が抜けない。島根は就任1年目に連敗を喫した苦い思い出があり、ユキさん(鈴木裕紀)はリスペストしているコーチです。僕たちが上にいけるのか、どうか。まだまだ、自分たちの位置は分からないですし、これからというところです。