文=鈴木健一郎 写真=吉田武

追いすがるアイシン三河を振り切るブザービーター

NBL最後のシーズンを制したのは東芝神奈川だった。まずは北海道を相手に2連勝すると、レギュラーシーズン上位(2位)であるリンク栃木に、初戦を落としながら第2戦、第3戦を取ってファイナルに進出。そしてアイシン三河相手に連敗し、後がない状況に追い込まれながら、そこから怒涛の3連勝でNBLの頂点に立った。

プレーオフを通して東芝神奈川を引っ張ったのは辻直人だ。第3戦、最高のタッチで得意の3ポイントシュートを次々と沈め、相手の注意を引き付けては巧みな良いパスでオフェンスのリズムを生み出した。第5戦でも攻撃を組み立てつつ、要所で3ポイントシュートを沈めた。

第4ピリオド残り30秒を切ったところ。橋本竜馬と金丸晃輔の連続3ポイントシュートで67-70と1ポゼッション差に迫られた場面で、ショットクロック1秒からのブザービーターを決めたのが辻だった。結果的に、このシリーズで彼が決めた17本目の3ポイントシュートが、粘るアイシン三河を振り切る一発となった。

ファイナルMVPに輝いた辻は「最高の気分ですよ、もちろん」と喜びつつも「僕ではないと思っていたから、余計びっくりしています」と照れてみせた。「ニック(ファジーカス)だと思っていたので。最後に1本決めたので、あれで多分……いや、あれだけだと思います(笑)」

そう笑いながらも、このプレーオフを通じて、特にこのファイナルの5試合でチームとしても個人としても大きく成長したことには確たる自信を持っている。「プレーオフを通じて僕らは試合数が多かったので、経験値が上がったと思います。しかもこうして勝ったことで自信にもつながりました。レギュラーシーズンでは味わえない緊張感の中で試合をこなすというのは、個人にとってもすごく良い経験になりました」

MVPについては「ニックだと思っていました」と笑う。

「プレッシャーが来ようと関係なかった」

突出したパフォーマンスを見せた第3戦以降は特に、アイシン三河の徹底マークを受けたが、それをも苦にしなかった。橋本竜馬とのマッチアップについて質問されるとこう答えている。「橋本さんは大学の先輩で、ディフェンスの激しさはずっと近くで見てきました。やっぱりすごくタフなディフェンスをされましたが、そういうディフェンスをかいくぐってシュートを決めるのが、僕としては一番気持ちいいと言うか、バスケットをやっていて一番楽しい部分です。プレーオフという舞台でこういうプレーができたことは自信になりました」

最終戦も20得点を記録。警戒されている3ポイントシュートに固執することなく、アシスト役に回ったり、2点のジャンプシュートを沈めたりと、幅広いプレーで勝利を引き寄せた。「出だしから2ポイントも3ポイントも決められました。第1クォーターの序盤は果敢にシュートを打てたと思います。そこで立て続けに打ってミスした時に、もう一度冷静になって周囲を見ることができました。序盤の僕のシュートが当たったことでディフェンスが過剰に反応してくれたところがあって、それをうまく利用することもできました」

そして最後は難しい体勢からのブザービーター。「最後の3ポイントシュートは、その前にアクシデントで足を痛めてしまっていたのですが、それでも自分のポジションは打たないといけないので。自分のシュートが打てなくて手打ちになってしまったのですが、残り1秒ということで『もらったら打つ』しか考えていなくて、それでうまく行きました」

長く過酷なシーズンの最後、フィジカルもメンタルも万全にはほど遠く、むしろギリギリの状態だった。「あっちこっち些細なケガだったり、痛いところはあります。1戦目はすごく良いスタートだったのですが、終盤にアイシン三河の強さが出て、やられてしまいました。2戦目は僕もみんなも、それを引きずって弱気になったところがありました」

だが、そこから辻は奮起し、チームもそれにつられるようにパフォーマンスを高めていった。「3戦目は追い込まれていました。僕は昔から、やらないといけなくなってから頑張るタイプなので(笑)。昔から宿題とかもそうでした。それで吹っ切れて頑張れました。そこでああいうスタッツを残したことで個人的にもすごく自信になったし、余裕が出ました。それで4戦目と5戦目は、プレッシャーが来ようと関係なかったです」

アイシン三河との頂上決戦を、辻はこう総括した。「そう簡単には勝たせてくれないチームでした。アイシン三河はやっぱり個が強くて、でも東芝神奈川はチームとして何も劣っていないと、プレーオフが始まる前の取材ではっきりと言ったので、それを5戦通じてコートで全員が表現できたと思います。これは自信につながります。個人的にも非常に良い経験ができたプレーオフでした。本当に最高のプレーオフでした」

プレーオフで得た手応えを大いに語った辻。

「Bリーグへの準備より、まずは目の前の代表です」

NBLは辻と東芝神奈川にとって最高の形で幕を閉じた。次はBリーグ……と言いたいところだが、彼には日本代表が待っている。7日に発表される日本代表メンバーに、辻の名前は確実に入っているだろう。「オフと言うよりは代表活動です。Bリーグへの準備より、目の前の代表です」。リンク栃木の古川孝敏、アイシン三河の金丸と、代表でポジションを争うことになるシューターをプレーオフで倒してきた辻には、当然ながら大きな期待が掛かる。

それでも、来たるべきBリーグに向けての思いを、辻はこう語ってくれた。「開幕戦はトヨタ東京と沖縄で、すごく注目されていますが、それを機に僕たちの試合にも観客が増えると思います。そういう雰囲気でバスケットができるというのは、本当に楽しみです」

「NBL最後のチャンピオンということで注目もされるだろうし、bjのチームからも警戒されたり、いろいろと対策をされると思います。だから最初の1巡目はすごく楽しみです。そこでうまくパフォーマンスを出せれば、さらに注目されるはずです。そういう場で活躍するのが、日本中に自分の名前を知ってもらうチャンスであり、バスケットを知ってもらうチャンスだと思います。Bリーグの開幕週は今まで過ごしてきたシーズン以上に大事なので、1週目から気合を入れて頑張りたいです」

ファイナルを通じて、得点もさることながらチーム全体を操るパスワーク、駆け引きの妙も印象的だった。

辻直人 プレーオフファイナルの個人成績
第1戦 31分24秒出場 15得点 3p(5/10) 2p(5/15) FT(0/0) 3リバウンド 2アシスト
第2戦 34分28秒出場 7得点 3p(1/9) 2p(3/13) FT(0/0) 2リバウンド 2アシスト
第3戦 31分31秒出場 30得点 3p(7/11) 2p(11/17) FT(1/2) 3リバウンド 7アシスト
第4戦 14分48秒出場 7得点 3p(1/5) 2p(3/9) FT(0/0) 1リバウンド 4アシスト
第5戦 31分24秒出場 20得点 3p(3/11) 2p(7/17) FT(3/4) 4リバウンド 3アシスト

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