B1の舞台に戻って来た島根スサノオマジックは、先月にバンダイナムコの経営参加を発表して変革の時期を迎えようとしている。しかし、戦力は昨シーズンのロスターを軸とする『B2仕様』で、残留へ向けて厳しい戦いが予想される。その島根に新たに加わったのがベテラン司令塔の山下泰弘だ。チームが苦しい時こそ、リーダーシップが必要となる。一つずつ積み上げてB1残留を目指す島根にとって、道を示す存在になることが期待される。ティップオフカンファレンスの当日、「今日初めて着たんです」と言う島根のユニフォームはまだ少々照れ臭そうだったが、開幕が近づくにつれて馴染むはずだし、それと歩調を合わせるように山下のチームリーダーとしての資質も発揮されていくに違いない。
「今度こそ、ここでキャリアを終えたいという覚悟」
──東芝から故郷の福岡へと戻った時点で、キャリアプランとしては「ここで最後までプレーする」ということで固まっていたと思います。その福岡が経営難のためB1ライセンスを取れずに降格。こういう形で移籍することになったのは戸惑いもあったと思います。
そうですね。経営のことが報道されて、自分自身も家族がいるのでどうするのかを考えなければいけませんでした。もともと僕は東芝で、バスケットボール選手ではあっても保証がある中でプレーしていました。それでもBリーグができて、地元のチームを盛り立てたいと強い覚悟を持って福岡に戻りました。おっしゃる通り、福岡でできる限り長くプレーを続けて、そこでキャリアを終えた後も、福岡のバスケットの発展に携わっていきたいというのが僕の考えだったので、だから3年で終わってしまったのは「まさか」という思いですし、今でも残念です。
──そんな状況で島根からのオファーを受け入れました。
家族を養うために次を探さなければいけない状況で島根からオファーをいただきました。僕が中学の時の全中が松江市での開催で、2004年のインターハイも島根県でした。私事ではありますが妻も島根の出身です。そういうこともあり、オファーをいただいた時に縁を感じました。今度こそ、ここでキャリアを終えたいという覚悟でやって来ました。
やはり、僕自身のプレーを欲してくれていることがプロ選手としての最上級の褒め言葉です。ただの駒ではなく、自分という選手を必要としてくれている。求められていることがうれしかったです。ポイントガードとしてゲームをコントロールするのはもちろんですし、年齢的にもリーダーシップを求められています。東芝での優勝経験、福岡での昇格の経験を買われたとも思っています。
「地道に強くなってBリーグの勢力図を変えていく」
──外から見ていた島根のイメージはどんなものでしたか?
鈴木裕紀ヘッドコーチの芯の通っている部分、ブレない部分には共感していました。シーズンごとに選手は入れ替わりますが一貫したバスケをやっているイメージです。やはり地方のチームなので選手を集めるのは大変な部分もあります。それでも一番大事なのはバスケットがチームスポーツであることで、島根はメンツで戦うのではなくチーム力で強豪と渡り合うスタイルが見えていました。育成にも力を入れていて、若い選手の成長をチームの成長にしていく。地道に強くなってBリーグの勢力図を変えていこうとするチームです。
──その島根に来て、今シーズンの目標をどこに置きますか?
優勝と言いたいところですが、昇格と降格を繰り返しているので、まずはB1に定着することですね。一つずつの試合を単にこなすだけでなく、意味のある試合を重ねていくことでチーム力を高めて、その結果として残留したいです。そうやってチームの地力を付けることが、その先のシーズンにも生きていくと思います。
──予期しなかったポジティブなニュースとして、バンダイナムコの経営参加があります。昨シーズンのこともあるので、安心してバスケに打ち込めるのは心強いですね。
そうですね。僕たちは選手なので経営的なことは何もできず、与えられた中で精一杯やっていくだけです。それでも今はBリーグの意識改革が選手にも浸透しました。バスケットを頑張ることは僕たちの使命の最初の一つにすぎなくなって、最近ではお客さんを魅了すること、一人ひとりがプロとして応援してくれる人たちにどう接して、どんな振る舞いをするのかがすごく大事になってきます。僕もプレーはもちろんですけど、そういう面でチームの先頭に立つつもりです。
チーム力を生かした抜け目ない戦いでB1残留を目指す
昨シーズンの島根はレギュラーシーズンで43勝17敗。西地区1位は熊本ヴォルターズに譲り、ワイルドカードでB2プレーオフに進出した。プレーオフでも信州ブレイブウォリアーズに連敗して敗退。それでもB2ファイナル進出チームがB1ライセンスを持っておらず、事実上の昇格決定戦となったB2プレーオフ3位決定戦に勝ってB1復帰を決めた。B2においても突出した強さがあったわけではなく、B1で全く歯が立たなかった2017-18シーズンの悪夢が繰り返されるシナリオは残念ながらあり得る。ただ、チームとして積み上げてきたものは当時とはまるで違う。インタビュー中で山下が触れたように、鈴木裕紀ヘッドコーチ体制での島根は派手さはなくても着実に力をつけ、骨太なチームになっている。ビッグネームはいないがチーム力を生かした抜け目ない戦いで勝ち点を積み上げていけるか。開幕戦は10月5日、名古屋ダイヤモンドドルフィンズをホームに迎える。西地区の強豪相手にどこまで戦えるか。シーズン全体を占う一戦となる。
島根スサノオマジック 2019-20シーズン 登録選手一覧
0 佐藤公威(SG 186cm 87kg)
1 後藤翔平(SG 180cm 85kg)
3 アイク・ディオグ(PF 206cm 116kg/外国籍)
4 ロバート・カーターJr(PF 206cm 114kg/外国籍)
5 山下泰弘(PG 187cm81kg)
6 北川弘(PG 183cm70kg)
7 坂田央(SF 193cm90kg)
13 阿部諒(SG 183cm77kg)
18 相馬卓弥(SG 182cm80kg)
32 安部潤(SG 177cm72kg)
41 ブライアン・クウェリ(C 211cm118kg/外国籍)
45 頓宮裕人(PF・C 198cm100kg)
75 神里和(PG 171cm65kg)