「『これがバスケの面白さだよな』と実感しました」

試合残り2秒で放たれた3ポイントシュートは高い弧を描いてリングに吸い込まれた。クロックが示す時間は0.2秒と相手に反撃する時間を与えず、女子日本代表が韓国に78-77で逆転勝利した。

「鳥肌が立ちました(笑)」と、田中こころは自らのクラッチシュートを振り返る。この試合はスタートダッシュを決めた前日の第1戦と打って変わって、第1クォーター終了時点で9-22と韓国にリードを奪われて始まった。6本のターンオーバーから韓国に走られ、速攻から10点を奪われた。ハーフコートバスケットでもボールを回され、日本が志向する『ペース&スペース』のバスケットを逆に展開されてしまった。

ただ、日本は我慢強く試合を進めていくと第3クォーターに、馬瓜ステファニーが状況を打破する果敢なドライブとファウルドローでチームを鼓舞する。そして第4クォーター中盤に星杏璃が決めた3ポイントシュートをきっかけに流れを引き戻した日本は、田中がギアアップして攻撃の起点となり、立て続けとなる3ポイントシュートで日本を勝利に導いた。

試合の勝ち負けはガードの責任と語る田中は「こんな終わり方をしてはダメだなと思いましたし、ガードの私がヘッドダウンしたらみんなも思い切ってプレーできなくなってしまいます」と劣勢を跳ね除けたマインドについて言及した。彼女はその状況下でも時折笑顔を見せていたのが印象的だった。そのことについてこう答える。「1点差、2点差を追う緊迫した状況が自分にとってすごく楽しかったです。相手とバチバチやり合えている時間が楽しくて、それが自然と顔に出て笑顔になったのかなと思います」

切迫した状況でもそれを楽しめるマインドになれるのは、いわゆる『ゾーン』に入ることができる素質を持っているということ。これはコーリー・ゲインズヘッドコーチが選手を選ぶときの基準としている他の選手が持ち合わせていない『特別な何か』の一つであり、田中はその持ち主の一人と指揮官は語る。そして、決勝点へと繋がったプレーについてゲインズヘッドコーチは、「最後のシュートは絶対にパスするな。今波に乗っているのはお前なんだから、他人に頼らず自分でリングにアタックしろ。時間をかけて自信を持って打て」と指示したことを明かし、その理由として「彼女の表情や調子の良さを見ればわかります」と続けた。

田中がゾーンに入ったことは明白だった。その証拠にベンチで戦況を見ていた渡嘉敷来夢も「4クォーターはもう(田中の)自分が自分がという思いが強かったのをすごく感じていました。だからもう最後は『お前がいけ』と思いながら見ていました」と語らせるほど。

「目の前の相手を絶対倒したいという気持ちがあって、本当にリングしか見えていないぐらいにずっとリングを見ていました」とその時の心境を語った田中は、マークマンがシュートチェックをする上から見事に決め切った。

決勝弾を決めた感覚は田中にバスケットの醍醐味を再認識させた。「皆さんの声援もすごく上がって、『これがバスケの面白さだよな』と実感しました」。この試合で見せた田中のクラッチ力とゾーンへ入った時のパフォーマンスは9月から始まる『FIBA女子ワールドカップ2026』でも大きな武器になることだろう。