マーク・ウォルターの資金スキャンダルが引き金に

2025年6月、マーク・ウォルターはバス・ファミリーが46年の長きに渡り経営してきたレイカーズを100億ドル(約1兆5000億円)で買収。そのわずか14カ月後に120億ドル(約1兆8000億円)で売却する。

冒頭の写真は、2025年の全米オープンを視察した(左から)NBAコミッショナーのアダム・シルバー、『スライブ・キャピタル』を率いるジョシュ・クシュナー、元ディズニーCEOのボブ・アイガーの3人だ。このクシュナーとアイガーが今回のレイカーズの買い手となる。このオーナー交代がNBA理事会から正式に承認されれば、レイカーズが打ち立てたアメリカプロスポーツ史上最高の売却額は、レイカーズにより再び更新されることとなる。

MLBドジャースの筆頭オーナーであるウォルターは、同じロサンゼルスの名門NBAチームも傘下に収めることで、そのノウハウをレイカーズにも持ち込もうとした。実際にその動きをスタートさせていた彼が、たった14カ月で『転売』した背景には、彼の本業を揺るがすスキャンダルがある。

ウォルターがCEOを務める大手投資会社『グッゲンハイム・パートナーズ』とその傘下の生命保険会社には、顧客資金の不正流用の疑いで今年7月にマンハッタンの連邦検察や米証券取引委員会から本格的な調査が入った。ウォルターは保険会社の顧客から集めた資金を、開示義務を通さないまま自身の持ち株会社へと移し、ドジャースの大型補強やレイカーズの購入に用いた疑いがもたれている。

捜査はまだ始まったばかりだが、起訴されるかどうか、有罪になるかどうかは別として、今回のスキャンダルは信用第一の投資会社のトップであるウォルターに致命的な信用低下をもたらす。これからの名誉回復のためには本業に注力し、巨額の裁判費用を用意する必要のあるウォルターにとって、20億ドル(約3000億円)の利益が得られるレイカーズ売却は『渡りに船』だった。

アイガーとクシュナーは当初、エクスパンションでラスベガスに新設される球団のオーナーとなる形でのNBA参入を計画していたが、ウォルターの状況を知って買収を提案し、そこからわずか3日で合意に至ったという。

唯一の懸念はアイガーの『元ディズニーCEO』という経歴だ。ディズニー傘下の『ESPN』はNBAにとって最大の放映権パートナーで、巨額の放映権契約を結んでいる。退任したとはいえ契約交渉時期にCEOを務めていたアイガーが、放映権を売る側と買う側の両方の立場となることで、ESPNがレイカーズの全米放送枠を優遇するような『利益相反』が懸念されるのは当然とも言える。そうならないための規制作りが、NBA理事会の承認を得るための絶対条件となるだろう。

そしてもう一つ、今回のレイカーズ買収劇には裏がある。つい先日まで、ワールドカップを終えたサッカー界は、ワールドカップの放映権やスポンサー、チケットなどのビジネス部分を別会社へと切り出し、その株式を投資家に売却する計画で揺れに揺れた。サッカーのビジネス化を極限まで推し進め、さらに私物化するこの動きは世界中から猛反発を受け、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)は「強行されればワールドカップをボイコットする」との強い反対を表明。これを受けて、計画を主導していたジャンニ・インファンティーノFIFA会長は計画の完全撤回を余儀なくされた。

この計画が実現した時に株式を購入するはずだった投資家こそが、クシュナーの『スライブ・キャピタル』であり、ディズニーCEOを退任した後にそのアドバイザーとなったアイガーだ。7月31日にこの計画が正式に頓挫したことで、行き場を失った資産をどう活用するかを考えた時、ウォルターの危機的状況があった。オファーから3日で合意に至るスピード感は、買い手と売り手の立場がピタリと一致した結果だろう。

買収に使われる120億ドルが少々『いわく付きの金』であっても、ウォルターのスキャンダルの影が消え、『スライブ・キャピタル』が後ろ盾となるのは、レイカーズにとっては非常にポジティブな出来事だと言える。

クシュナーのファンドはAIやデータサイエンスを得意としており、ウォルターが着手した『シリコンバレー型』のクラブ運営がより効率的な形へとアップデートすることが期待される。クラブ経営を主導するであろうアイガーには、元ディズニーCEOとしてエンタテインメント業界のIP戦略のノウハウがあり、さらに放映権交渉の過程で築いたNBAとのコネクションがある。

アイガーとクシュナーは連名で「生涯のNBAファンとして、世界屈指の名門球団の担い手となれることを深く光栄に思う」とのコメントを発表している。