「決めるつもりで打つ。外したら切り替えるだけ」

NBAファイナルはサンアントニオで行われた最初の2試合と同様に、ニューヨークへと舞台を移した第3戦でも接戦となった。スパーズはビクター・ウェンバニャマの異次元の高さとスキルに加えて、ステフォン・キャッスルやディラン・ハーパーの爆発的な運動能力が噛み合っていながら、終盤の試合運びの拙さで接戦を落としてきた。第3戦でもほとんどの時間帯でリードしながら、ニックスの追い上げのプレッシャーに晒されており、精神的に崩れれば過去2戦の再現となる可能性が十分にあった。

第4クォーター残り1分からOG・アヌノビーのフリースローとジェイレン・ブランソンの3ポイントシュートと連続得点が決まり、111-108とニックスが1ポゼッション差まで追い上げる。

スパーズの選手たちは、第2戦の最後、ウェンバニャマとキャッスルの呼吸が合わずに起きたターンオーバーのシーンがどうしても頭をよぎり、重圧を感じていたはずだ。実際、ミスをしないよう慎重になった結果、アグレッシブなプレーは影を潜め、ニックスの反撃を許していた。

そんな窮地で、勝敗を懸けたポゼッションを担ったのがディアロン・フォックスだった。ショットクロックが残りわずかとなった残り15秒、アヌノビー相手にドライブを仕掛け、ステップバックでわずかなスペースを作り出すと、すぐさまミドルジャンパーを放つ。コート上の10人、そしてマディソン・スクエア・ガーデンを埋めた2万人の視線が注がれたシュートは、リングの中央を寸分の狂いもなく射抜いた。

フォックスは足首のケガを抱え、いまだコンディションは万全ではない。本来であればオンボールで自ら仕掛け、もっと得点を狙いたいところだが、チャンスメークに徹して若手の持ち味を引き出す役割に徹している。それは機能しているものの、彼自身のシュートタッチは向上せず、サンダーとのカンファレンスファイナルではフィールドゴール成功率36.5%、11.2得点と不発。ニックスとの初戦でも、終盤に決まれば同点のシュートを外しての7得点に終わり、批判を浴びていた。

しかし、全員が縮こまってしまうような時こそ、経験豊富なフォックスの出番だ。クラッチプレーヤー・オブ・ザ・イヤーの真価を久々に見せた彼の一撃。これで流れを引き戻したスパーズが115-111で接戦を競り勝ち、対戦成績を1勝2敗としている。

「シュートは水物だし、自分の得意なスポットまで行ければ、あとは結果を受け入れるだけだ」とフォックスは言う。「シュートがなかなか決まらなくても、正しいプレーを続けるのが大事で、無理に打ったりはしない。ボールを動かして、行くべき選手のところに届けるんだ」

「もちろん、打つからには決めるつもりで打つ。外したら切り替えるだけ。まあ、終盤に勝敗の懸かったシュートを決めることができて気分が良いのは確かだね(笑)」

スパーズで目立つのはウェンバニャマでありキャッスルだが、彼らもフォックスの経験が肝心な場面で必要なことを理解している。ウェンバニャマは「言うまでもないけど、どんな時でも彼はチームで最も頼りになる」と、キャッスルは「本当に賢い選手だから、彼がボールを持っていれば僕たちは落ち着くことができる。ボックススコアに表れない彼の影響力のおかげで、僕たちは今ここにいるんだ」という言葉で、フォックスへの信頼を語った。

もっとも、フォックスは自分のシュートが勝利の決め手となったとは思っていない。第3クォーター終了時点で91失点していたが、第4クォーターを20失点に抑えたディフェンスこそが勝因だと語る。「ここまでの試合はすべて、リードしている時間帯は僕たちのほうが長かったんだ。問題はそのリードをどうやって最後まで保つか。ボールを動かし、リバウンドを取り、ターンオーバーを避ける。それができたから勝てたのさ」