
女子マレーシア代表のヘッドコーチに就任した森山知広に、前編では就任の経緯などについて語ってもらった。後編ではマレーシア代表として求められていること、これから描くキャリアについて語ってもらった。
モチベーションとなる国際大会での日本人コーチ対決
──全カテゴリーをコーチングできることがマレーシア代表コーチになった大きな決め手でしょうか?
もちろん全カテゴリーをコーチングできるのも魅力の一つでしたが、大きな理由としては、FIBAの国際大会経験を積めるということです。日本国内でもBリーグのトップになれば『東アジアスーパーリーグ』や『BCL Asia』といった国際大会に出場できますが、一握りになります。代表監督になれば、そういった経験値を多く積むことができます。様々なカテゴリーを担当することは大変ですがその分、国際大会の試合数も単純に増えるので成長できる環境だと思えたことが大きな決め手ですね。
──海外でコーチをする意義についてお聞かせください。
ヨーロッパやアメリカのコーチが国外でコーチングするのは主流ですが、日本人コーチが海外でHCとして指揮しているコーチは欧米諸国に比べるとかなり少ない、ほとんどいないんじゃないかなと思います。Bリーグも外国籍コーチが増えて、その中で戦わなくてはいけません。国内で経験を積むことも重要ですが、海外に出られるチャンスがあるなら経験を積むことも重要だと思います。国際試合の経験はプロクラブではあまりできないことで、日本人コーチが海外で活躍すれば間接的に日本バスケへの貢献にもなると考えています。台湾女子のヘッドコーチに前田顕蔵さんが就任したことは、ある意味で日本人コーチが認められていることだと思います。今後、戦うこともあると思うので楽しみですね。
──前田コーチとは連絡を取っていますか?
結構連絡を取り合っていますね。僕が先にハナ銀行でコーチングをしていたので海外生活についてや、練習試合で台湾のチームとも戦ったことがあるので選手情報の提供など様々な情報交換をしました。「国際大会の舞台で戦うことになったら面白いよね」とは常々話していましたね。
──直近では『ウィリアム・ジョーンズカップ』が開催されますね。
そうですね。台湾は前田コーチが率いると聞いているので楽しみですし、国際大会で日本人コーチ対決が実現することは一つのモチベーションにもなっています。
──協会から求められている成績や目標はありますか?
アジアはFIBAランキングでグループAとBに分かれていて日本は上位のグループAに所属していて、マレーシアはBに所属しています。ですが今年は、世界情勢の関係で欠場国が出たために本来出場することができなかった9月に行われる『アジア競技大会』へ出場することが決定しました。そこで成長を感じられる内容の試合がどれだけできるか、そして来年に行われる東南アジアの大会でのメダル獲得を目指します。U18は各カテゴリーで唯一グループAに所属しているので、そこに残ることが求められていて、マレーシアがホスト国になる『FIBA U18 Women’s Asia Cup 2026』で良い成績を残すことをターゲットに進めていきます。U16は、U17のワールドカップアジア予選に出場するための大会で勝ち抜くことがそれぞれの目標になります。
U18はアジアの上位国と戦うチャンスが与えられているので、今後長い目で見ても、強い相手と常に対峙しながら自分たちの成長を実感できる環境を維持するためにグループAに残ることが重要です。その中で自分たちのスタイルを確立すること、自信を持ってレベルの高い相手にも臆せず戦えるマインドの部分をしっかりと作っていかなくてはいけないと思っています。

「次に続いてくれる人が出てくればうれしい」
──代表の選考方法について教えてください。国内にプロリーグはあるのでしょうか?
男女ともにプロリーグは存在しません。ただ日本で言う天皇杯のような大会など、数々の大会が存在します。その出場チームは各州を代表するチームが出場します。日本で言うところの国体のような感じですね。その大会に視察に行ってメンバーリストを作り、セレクションをして候補選手を絞り込んで行く流れです。21歳以下、U17チャンピオンシップなど年齢制限が設けられた大会もあるのでその中からもピックアップをしていきます。
──代表の強化試合はどのように組んでいくのでしょうか?
国内の大会にナショナルチームとして出場させることもできます。そのほかにもシンガポールが隣国なので親善試合を行ったり、協会の職員全般が中華系の方々なので中国の招待試合やトーナメントに参加したり、台湾の大会にも出場します。そうやって国際経験を積んでチームを形成していきます。
──マレーシアの人々のカルチャーに特徴はありますか?
多民族国家なので様々な宗教への信仰があります。豚肉を食べてはいけない。お酒がダメ。食事は右手で直につかんで食べる。など、これまで日本であまり経験してこなかった文化に触れることが多いですね。
──バスケットに対する姿勢はいかがでしょうか?
練習を見学させてもらった時に、選手が直前までシューティングや個人練習をせずに座っているだけだったのは衝撃でした。こういったところから少しずつ選手と話し合って改善していく必要があると思いましたね。ただこちらから押し付けるのではなく『郷に入れば郷に従え』という言葉もあるので柔軟に対応して良い方向に進むように伝えていきたいですね。
──日本で言うところのナショナルトレーニングセンターは存在するのでしょうか?
あります。日本のように全競技が集約されているわけではないのですが、バスケットボール協会が入ってる建物にコートが一面あって、そこで練習ができます。ただ男子と日程が重なると別の地域にある体育館で練習をします。この前は屋内と聞いていたのに、壁がない半分屋外みたいな体育館で練習することもありましたね(笑)。
──今後の目標はマレーシア代表の強化だと思いますが、ご自身の中長期的な目標はありますか?
日本国内男女を問わずこの経験を還元できるようになることが一番ハッピーだと思っています。今はいろいろな人との繋がりで他のコーチとは違ったキャリアを歩んで行けていますが、これを評価してもらえるかは自分の頑張り次第です。代表のコーチはクラブチームのコーチよりもシビアに判断されます。それだけの重責がある仕事だとも思うのでプレッシャーを感じながらも、どれだけパフォーマンスを発揮できるのか、成長することができるのかというチャレンジです。便利か不便かで言うと、絶対不便な環境ではあるので、そこで全力を尽くして結果を残したいですね。
自分の将来については深く考えていませんが、振り返った時に様々なご縁で出会った人、お世話になったチーム、すべての方々に「やっぱり良いコーチだったね」とか、「まだまだ頑張ってるね」と思ってもらえるようなニュースが届けれるようにしたいです。
──最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
2年間日本にいなかったので忘れられている可能性もあるのですが(笑)、若いコーチや選手に海外でチャレンジしている人材がいることを知ってもらえて、これをきっかけに次に続いてくれる人が出てくればうれしいです。なかなかSNSで発信することはしないのですが、東南アジアのバスケット事情も伝えていきたいと思っています。9月には『アジア競技大会』も愛知県で開催されて、日本代表と対戦する機会もあると思うので頑張りたいと思いますし、名古屋の会場で皆さまにお会いできるのを楽しみにしています。マレーシア代表チームの応援もよろしくお願いします。