
仙台89ERSは2025-26シーズンのレギュラーシーズンを35勝25敗の東地区6位で終えた。昨シーズンは11勝49敗という成績から見事に急成長し、前シーズンからの勝利数増加はリーグの新記録となった。この成長の背景には新しく就任したダン・タシュニーヘッドコーチの手腕もさることながら、得点王に輝いたジャレット・カルバーを筆頭に、ネイサン・ブース、セルジオ・エル ダーウィッチ、ブーバカー・トゥーレという外国籍選手の活躍なくしては語れない。
初来日した外国籍選手が多い中で、これだけの活躍ができたのはオフコートで快適な時間を過ごせたことによるメンタル面のヘルスケアの充実もあったに違いない。このサポートを任されていたのが、通訳兼マネージャーの山﨑幹太だった。その彼にこの仕事に就いた経緯、仕事に対する向き合い方などについて語ってもらった。
「人間性を重視して寄り添うことが重要」
──自己紹介をお願いします。
山﨑幹太と申します。小学校の時にNBAに入る夢を持った時に、親へ直談判をしてアメリカに単身で中学生の時から行きました。最初はグアムに留学して英語が喋られない状態から必要な語学、文化の違いといったことを吸収し、高校2年生の時にカリフォルニアの学校に転校しました。向こうで生活をしていく中でスポーツマネジメントに興味を持ち、大学ではそれを専攻に勉強しました。そして去年の5月に卒業して、現在は仙台で働かせていただいています。
──大学選びはスポーツマネジメントのある大学が候補だったのでしょうか?
まずは、大学は人生を大きく分ける大事な時間で良い大学に進学するよりも、素晴らしい人たちの元で大事なことを学んでいきたいという気持ちがあったので、キャンパスに赴き在校生にインタビューして、その大学の良いところなどを聞き回って5校くらいに絞りました。その中にスポーツマネジメントを専攻にしている大学があったのでそちらに決めて受験しました。入学後に出会った2人の教授から教わったことが大きな学びになりました。
──どのようなことを学んだのでしょうか?
彼らはメンターのような存在で、人との関わり方だったり、スポーツは勝つことだけが成功ではないという道徳、接する人のキャラクターや人間性を大事にすることなど学びました。例えば、ジャレット・カルバー選手が52点を取った試合があったのですが、その試合で0点の選手もいます。この数字だけで選手の勝ちを決めつけるのではなく、人間性を重視して寄り添うことが重要であることを学んだのは大きなことでした。
──仙台に加入するきっかけについて教えてください。
Bリーグで通訳を探しているという話を僕の友人を通じて知ったのがきっかけです。その後、エージェントを通じて仙台と面談をする機会を得てゼネラルマネージャーやヘッドコーチと段階的に話をして採用していただきました。
──その時にどのような話をしたのですか?
これまでの経験談について話しました。それに対して、どういった決断をしてきたのか?どのように考えていたのか?という質問をされて応えていきました。雇ってもらう立場でしたが、良い関係性を構築できる環境だと感じることができ、採用してくれた時は感謝しかありませんでした。

「本業から離れられる時間を作ることを心がけている」
──英語ができることはこの業務を行う上で優位だと思います。
普段からプライベートでもなるべく選手と一緒の時間を過ごすようにしています。寄り添うことで他の選手やスタッフに言えないことも聞くことができて、チームの改善に役立たせている部分もあります。そういった意味では自分にとってアドバンテージだと思っています。
実際にオフコートの通訳も担っていて、外国籍選手の家族のケアや単身で来ているセルジオ・エル ダーウィッチ選手とはよく食事をしに行ったりもしています。5000人近くのファンの前でヒーローインタビューを受けて、家に帰ったら一人で食事をする。このギャップは僕が渡米していた時も経験していて、規模は違いますが、みんなでバスケットして楽しく過ごしていたのに帰ったら一人、というのはすごく寂しい思いをした経験もあるので、メンタル面のケアも含めてご飯に誘ったりしています。
──改善に繋げるということですが、選手が話してくれたことを他のスタッフにも共有することがあるのでしょうか?
あまり簡単にオープンにしてしまうと、センシティブなことを話してくれたのに関係性に問題が発生してしまうので伝え方には気を付けています。その中で、外国籍選手が日本人選手のコミュニケーションを増やしてほしいということや、遠征の時にケアが必要だけどもマンパワーが足りていないので増員してほしいといった要望は伝えました。その結果、遠征に帯同するトレーナーの人数も増やすことができました。
──マネージャーとして、どのようなことを普段はされていますか?
マネージャーとして仕事をするのが初めてだったので、自分でできる仕事を探しながら進めていることが今は多いです。その中で、備品の在庫管理、練習や試合の準備、その後の洗濯などを担当させてもらっています。選手が練習や試合でロッカールームに入った時に『このチームに来て良かった』と思えるように準備しています。
──選手は練習や試合で持ってくるものはバッシュくらいでしょうか?
バッシュもすべてチームで管理しています。手ぶらで来ても大丈夫な状態になっています。
──マネージャーはもう一人いらっしゃるようですが、分業制ですか?
櫻田(ののか)さんは経験豊富なマネージャーですごくリスペクトしている方なのですが、その方に信頼してもらうことから始めて仕事を分けてもらっている形ですね。遠征の時の洗濯などは一緒に手伝ってもらっていますが、お話しした仕事は完全に任せてもらっています。
──先ほどもオフコート通訳の仕事について話してくれましたが、エル ダーウィッチ選手と食事に行くことのように心がけていることはありますか?
家族のサポートは気にかけています。子供がいる中で、知らない国に飛び込んでくるのは不安になる部分も多いと思います。だから、できるだけ生活面でサポートが必要なところは手伝っています。子供の検診や買い物に付き合うこともありますし、自分のほうから「一緒に公園に行かない?」と誘って子どもたちと遊んだりしています。みんな同じ地域に住んでいるので、オフの日に公園で見かけたりすると一緒に遊ぶこともありますね。
特に食事をともにすることが多いですね。普段からバスケで頭を使うことが多いのでリフレッシュしてもらう方法を考えています。カルバー選手は僕と同じクリスチャンなので一緒に教会に行ったり、セルジオ選手も聖書に興味があるそうなので、聖書の勉強をしたりしています。そういったことをして、脳みそをズラすというか、本業から離れられる時間を作ることを心がけています。

胸に刻んだ言葉『人で始まり、人で終わる』
──今シーズンの仙台は劇的に勝ち星を伸ばしています(取材時はシーズン中)。その一員になれている実感はありますか?
選手やコーチングスタッフが試合に集中できるように細かくサポートすることを心がけているのですが、セルジオ選手が試合後に僕のことについて話してくれることがありました。「なぜこのチームが上手くいっているのか知っているか?それは見えないところでいろいろなことをやってくれているカンタがいるからだ!」と。ジョークなのか、本当なのかわからないですが、それを聞いた時はうれしかったです。だから僕の仕事が彼らのメンタル面に良い影響をもたらし、チームの結果に繋がっていると信じて続けています。
──仕事を認めてもらえると喜びもひとしおですね。逆に苦労している部分はありますか?
理想はもっと選手一人ひとりと深く知り合いたい気持ちはあって、日本人選手と外国人選手が一緒にオフを過ごすことができるのが理想ですが、マネージャーの仕事もたくさんあるので、手一杯な状態です。自分がやらなきゃいけない仕事と、選手と一緒に過ごす時間のバランスが最初に思っていた現実とは少し違いました。
マネージャーの仕事もまだミスは多く、アウェーでの試合後に後少しで出発しないと間に合わないという状況で、どのように立ち回ったら良いかわからなくなって空回りしたこともあります。上手くサポートするにはまだまだ経験が必要だと思いました。だから、今は学んだことをノートに書き留めています。これも櫻田さんから教わった知恵です。
──この仕事をする上で必要なスキルについて教えてください。
この仕事はすごく人間関係が大事だと感じています。まずは相手に対してリスペクトを持つこと、それは活躍している選手だろうが、ベンチにいる選手だろうが関係ありません。僕たちが売っているモノは試合で、そこは色濃く『人』が関わっています。一人の人間として寄り添うことが重要で『どうやったら手助けができるか』。英語で言う『serve』、日本語にすると『仕える』という意味ですが、周りにいる人たちのために自分がやりたいことを一旦置いて、全力で頑張ることが大事だと思います。
──寄り添うことを大事にしているようですが、どのような経験を経てそのマインドになったのでしょうか?
やはり両親の教えは大きいです。そして、留学中にお世話になったホストファミリー、大学の教師、現在も一緒に仕事をさせていただいている方々からも影響を受けていると思います。今は関わってくれたすべての方たちに対して『恩返しの旅』が始まった感覚です。
──ご自身の未来像についてお聞かせください。
この仕事に入ってきた大きな理由の一つが、選手のバスケットでのキャリアだけではなく、その人の人生を通してサポートしていきたいという気持ちがありました。バスケット選手としてのキャリアは短く、それからの人生のほうが長いので、キャリアが終わった後もサポートできるようなことをしたいと思っています。チームが成長し勝つために必要であれば様々なことにチャレンジしていきたいと思っています。
──これからマネージャーを目指す方にメッセージをお願いします。
『なぜこの仕事をしたいのか』、『なぜマネージャーをしたいのか』、その『Why』のところがとても大事だと思います。ただ『マネージャーをしたい』と思うよりも、もっと深掘りして自分に何度も問いかけていくと目標が明確になってくると思います。芯をしっかりと持って目標に向かって努力することが重要だと思います。
『人で始まり、人で終わる』という言葉をエージェントの方からいただいたことがあります。人間関係を大事にして成長することが大切です。