文=小永吉陽子 写真=FIBA.com、小永吉陽子

2020年東京オリンピックに向けた第一歩となった東アジア選手権。準決勝でチャイニーズ・タイペイに敗れた日本だが、3位決定戦で中国に快勝し、大会を終えた。

今大会は6チーム中5チームが8月のアジアカップに出場できる予選という位置づけ。そんな『広き門』に対し、主力を招集せず若手強化の場とした国もある。韓国は平均24歳のメンバーで挑み、中国に至っては平均19歳で大会に乗り込んできた。

そんな中で、ベストメンバーを揃えたホスト国の日本は『優勝』を目標にしていたが、準決勝で痛恨の敗戦を喫した。敗れたのが、世代交代中ではあるが、日本同様に主力を擁して臨んだチャイニーズ・タイペイであることを考えれば、現状の課題がそのまま出た結果だった。今大会の課題と収穫を検証したい。

今まで以上に多くの人が代表に興味を持ったのは収穫

最大の収穫は、国内で国際大会を開催したことに尽きる。ファンやBリーグ関係者に日本の現状を知ってもらったことが何よりの収穫ではないだろうか。

これまで、リーグが分裂していた状態では男子日本代表に関心を持つ人は限られ、いくら日本が不甲斐ない戦いをしていても、惨状を嘆くのは強化の現場と熱狂的なファンだけだった。しかし、Bリーグがスタートしたおかげでファンは拡大し、注目する人が増えた。

日本で国際大会を開催したのは2012年のアジアカップ(昨年より『アジアチャレンジ』に名称変更)以来。長野という地方都市、しかも駅から遠く離れた場所での平日開催で集客は厳しかったが、それでもオープニングゲームの韓国戦は土曜ということもあり、4000人超の観客を集めた。

またテレビ放映に関してはこれまで同様、有料チャンネルでの放映だったが、今回はBリーグを中継するスポナビライブのインターネット中継があったことで、今まで以上に多くの人が観戦することができた。国内で国際大会が開かれれば、『我らの代表』を支援する熱は高まっていく。来たる東京五輪に向けて、日本代表の戦いぶりを目の当たりにしてもらうことは、とても大切なことだ。

そこで、だ。長野での戦いを目の当たりにした人たちは、Bリーグの主役たちが同等の体格であるチャイニーズ・タイペイを相手に完敗した姿を見てどう感じただろうか。ここで最大の問題点が浮かび上がる。Bリーグでのプレーが代表戦に直結していない、という事実だ。

「プロ=代表」につながっていないと前指揮官は指摘

今大会、チャイニーズ・タイペイにはリバウンドで46対31、そのうちオフェンスリバウンド21対11と圧倒されたことが敗因となった。確かにクインシー・デイビスという帰化選手がインサイドの軸になっていたが、身長が同等である相手に、なぜこれほどまでリバウンドで後手に回ったのか。その答えは明白。「取れない」のではなく、「取りに行っていない」からだ。

リバウンドを取りに行けない理由を分析するには、日本代表の前ヘッドコーチである長谷川健志が取り組んできたことを紹介すると分かりやすい。

この10年間だけを見ても、日本はアジア選手権(2017年から『アジアカップ』に名称変更)で8位、10位、7位、9位と惨敗している。しかし、長谷川ヘッドコーチが就任してからはアジア競技大会(2014年)で3位、アジア選手権(2015年)で4位と成績を上げ、2016年のオリンピック世界最終予選に結び付けている。

ただし、シーズン活動の初期、国際親善大会のジョーンズカップなどでは常に負けが先行して下位に沈む惨状にあった。

そうした状態から、オリンピック出場権がかかった2015年のアジア選手権では、日本の永遠の課題であるリバウンドについて取り組んだ。全員がボックスアウトの徹底を図り、リバウンドの要である竹内譲次を主体にリバウンドに跳びこみやすいディフェンスシフトを敷いた。これは海外遠征を通して何度も実践で試さなければ習得できなかった戦術である。その結果、大会を通してリバウンドが16カ国中8位(1試合平均40.3本)と健闘できたからこそ、4位という成績を収められた。

長谷川健志は指揮官を退く時、次のように語った。

「結果を見てもらえば分かる通り、日本はシーズン初めのほうは全く勝てません。その理由は、リーグでは外国人主体のバスケットをやっていて、代表チームに招集した時にチームを作り直すからです。日本がアジアでベスト4になれたのは、何度も合宿を繰り返し、海外遠征を積み、ようやく一つのチームになれたから。日本に勝てというのであれば、強化の時間をもっと割くべきです。日本のリーグはあまりにも長すぎます」

同じような傾向が今回も出た。シーズン終了直後の大会で、チャイニーズ・タイペイのようにガツガツとフィジカルコンタクトを厭わない国に対してアタックできない、という悪い習慣を露呈したのだ。この現実を目の当たりにしたことで、このままの国内リーグの戦いではいけないのだと、多くの関係者が認識することができたのではないだろうか。遅まきながら、ようやく。

今後ピック&ロールは『習慣化』しなくてはならない

長谷川前ヘッドコーチが指摘するように、外国人選手に頼っているのはリバウンドだけではない。外国人選手がフィニッシュすることが多い得点でも同じことが言えるし、ルカ・パヴィチェヴィッチHCが導入したピック&ロールについても同様だ。

ピック&ロールは世界的には主流とされているオフェンス戦術であり、強豪国ならばスクリーンの使い方は幼い頃から習っている。それを日本は代表レベルの選手があらためてスクリーンのかけ方からやり直している。東アジア選手権では、ピック&ロールをスムーズに使えず、試合を円滑に運べないシーンが多かった。合宿を積んで練習はしてきた。国内リーグの実戦でやっていないことを、国際大会でいきなりやれるわけがない。

それでも、日本人が苦手としていたピック&ロールに取り組んだことは、今後に生きてくるはずだ。

「私はディフェンスで激しく当たることとピック&ロールを主体に指導していますが、これは、どの国のコーチが来ても引き継ぎができるベーシックな形で、必要なことばかりです」とパヴィチェヴィッチコーチは、この大会後にバトンタッチするフリオ・ラマスにも継続できるものだと強調する。今後も継続して『習慣化』にすることが大事なのだ。

3位決定戦での『修正力』に見えた選手の意識向上

3位に終わった今大会における最大の収穫は、チャイニーズ・タイペイに敗れた後の3位決定戦で得られた。中国のゾーンに対してしっかり修正を図ったことと、選手が目の色を変えてスカウティングの策を遂行したことだ。東野技術委員長は大会をこのように総括する。

「優勝はできませんでしたが、3位決定戦で完璧に修正できたことを評価したい。敗戦後、ここまで強い気持ちで切り替えて試合に臨んだことは今までの日本にはなかった。これは観客に見られている、結果を出さなければいけないという意識の向上からです。間違いなくBリーグ効果でしょう。スキルについてもピック&ロールの精度は今後上がっていきます。ラストショットを打てる日本人選手も増えています。すぐに結果は出ないけれど、2年目のBリーグでの変化を見てください」

Bリーグが開幕し、選手の意識が向上しているのは確かなことだ。だからこそ、今の日本に必要なことは、日常の強化であるBリーグでのプレーを、そのまま代表戦で発揮できる仕組みにすることだ。優秀な外国人選手が多く来日するリーグであるならば、『外国人選手vs日本人選手』の強化試合を組むことを外国人選手の契約に盛り込むなど、日本独自の強化方法だってある。

これまでのように、どこかの国で行われている大会で、興味のある人だけが日本代表を応援する時代は終わった。Bリーグでのプレーの質と習慣が日本代表へと直結するような制度作りへと発展させることが、東アジア選手権を日本で開催した意義につながるのではないだろうか。