ギャレットの加入で控えに回る経験も『成長の糧』に
アルバルク東京はチャンピオンシップのセミファイナルで川崎ブレイブサンダーズに惜敗し、Bリーグ初年度を終えた。キャプテンを務める伊藤大司は今シーズンを「結果として優勝できず悔しいですが、ファンの方々の声援を直に感じられるシーズンになりました」と振り返る。
Bリーグが盛り上がり、ファンが増えたことで、試合に対する感覚も変わった。伊藤が感じたのは『負けの重さ』だ。「今までは負けても自分たちだけで悔しがっていました。でもファンの方が増えたということで、負けたり情けない試合をしたりすると、自分たちだけでなくファンの方にも申し訳なく思います。負けのダメージが変わりました」
また、コート内でも難しい変化があった。伊藤は過去5シーズン常に先発としてプレーしていたが、元NBAプレーヤーのディアンテ・ギャレットの加入に伴い、先発から外れるとともに終盤の大事な時間帯をベンチから眺めることが増えた。伊藤にとっては初の経験で、「そこの部分で悩みました」と明かす。それでも自分の役割はしっかりと見いだしていた。
「流れを見てチームに何が必要なのかを気付かせたり、選手を落ち着かせたり、その役割を誰かがやらなきゃいけないと思っていたので、それがベンチにいてもできるようになったのは今シーズン学んだことです」と、苦しい経験を成長の糧としている。
コミュニケーション能力を生かし、チームの懸け橋に
アメリカの高校と大学でバスケットをしていた伊藤の経験は、外国籍選手とコミュニケーションを取る上で貴重なものとなっている。「英語を話せて、日本で7年やっているので日本のバスケットも分かっています。アメリカ人の性格や文化を分かっている自分だからこそできること」と伊藤は言う。
兄である伊藤拓摩ヘッドコーチ、同じくアメリカでのプレー経験のある松井啓十郎、外国籍選手扱いはされないがアメリカ人のザック・バランスキーのいるA東京は、外国籍選手とのコミュニケーションの良さが特長だが、その中においても伊藤は積極的に声を出し、日本人選手と外国籍選手の橋渡し役を担っている。
「3人のアメリカ人選手にどう声をかけるかは常に考えています。(田中)大貴はずっとコートにいるけどあまり表現しないタイプなので、大貴に聞いてアメリカ人選手に伝えるとか。そこは心がけていました」
逆に、兄弟でヘッドコーチとキャプテンであることにやりづらさは感じないのだろうか。「弟だから試合に出してるのかとか、弟だからこう言うのかとか、そういう見られ方をするという心配がお互いにありました。自分たちの気持ちより、どう見られるかを意識するやりづらさはありました」
そう認める伊藤だが、時間の経過とともに利点だけを生かすようになったと言う。「何を求めているのか、言われなくても僕は気付くことができるので、その部分ではやりやすかったです。もちろん、コート上では兄ではなくヘッドコーチと思って接していますし、それは向こうも一緒です。プラスもマイナスもありますが、個人的にはプラスのほうが大きかったと思います」
もっとも、『ヘッドコーチと選手』の関係を保っていられない時もあった。「母親が東京に試合を見に来て、負けた後に家族一緒でいる時はやや気まずかったですね」と苦笑交じりで明かしてくれた。
「世間を騒がせた」初年度を終えて「2年目が大事」
伊藤はあらためてBリーグ初年度のA東京を振り返り「世間を騒がせた」と表現する。「開幕戦でプレーさせてもらって、元NBA選手のギャレット、ジェフ・エアーズの加入、千葉(ジェッツ)さんとの乱闘もあれば、田中大貴の熱愛スクープなどがあり、世間を騒がせました」
もっとも、特に大きな注目を集めた開幕戦を戦ったこと、そして首都のクラブとしての存在感から、バスケットボールの認知度を高めるという意味で大きな役割を果たした1年だったと言える。企業クラブからプロクラブになったA東京にとっても「去年に比べファンクラブの人数もそうですし、会場に足を運んでくださるお客さんの数も増えました」と成果が上がっている。
だからこそ「2年目が大事」と伊藤は言う。「2年目はなかなか初年度ほど注目を浴びることは少なくなると思います。僕にとってもチームにとっても、そしてリーグとしても、1年目と同じことをしていてもダメだと思うので、工夫してもっと盛り上がるように行動していきたいです」
そのためにはどうすればいいのだろうか。伊藤は茶目っ気のある笑みとともに「イケメン選手が熱愛スクープをとってもらえたら」と言った。田中大貴をイジる発言は、公私ともに仲が良いから出てくるものだ。
それでも、Bリーグの発展を願う思いは本物。プレータイムが減ったことで新たなスタイルを確立し、シーズン途中で外国籍選手が入れ替わるなど激動のシーズンを過ごし、伊藤自身も一回り成長した。来シーズンのさらなる飛躍に期待したい。