「感謝の気持ちがあふれた復帰戦だった」
2月8日に行われた名古屋ダイヤモンドドルフィンズvsサンロッカーズ渋谷の第2戦。第4クォーター残り6分52秒。一際大きな歓声に包まれて、名古屋Dの佐藤卓磨はコートに立った。
「コートに入るとき、ベンチの一人ひとりに『ありがとう』と声をかけていました。交代する相手が今村(佳太)だったので『ありがとう、ここまで』と言ったら『行ってこい!』と」
同い年の今村とコート上で力強くハグし、互いに笑顔があふれた。佐藤にとっては右膝前十字靭帯損傷を負った昨シーズンの4月27日以来の試合。しかし不安や緊張は一切なく、感謝と喜びを胸にコートに立った。
2つ目のオフェンスポゼッションで早くもチャンスが訪れる。佐藤は左ウイングでボールを持つと躊躇することなく3ポイントシュートを放つ。リングの奥に弾かれたが、加藤嵩都がリバウンドを回収して、再び佐藤が3ポイントシュート。リングに触れることなく綺麗にネットを揺らし、会場からはこの日1番の大歓声が湧き上がった。
その後のオフィシャルタイムアウトで時計が止まると、今村と齋藤拓実が我先にとベンチから飛び出し、佐藤に飛びついた。「なんて言っていたかは覚えてないですけど、めちゃくちゃうれしそうな顔をして駆け寄ってきてくれて」と佐藤は笑い、2人はケガでプレーできない期間を支えてくれた存在だったと明かした。
「2人はケガしたその日に連絡をくれました。今村からは『またお前と一緒にプレーしたいから、マジで頑張れ』、齋藤からは『またお前にパスしたいから、ちゃんと走れるように、跳べるように帰ってこいよ』と言われたので、その言葉をモチベーションに頑張ってきました」
「あのシュートを決めた瞬間は、自分のキャリアにとって大事なものになりました。支えてくれたチームメートやスタッフ、ファンの皆さんに感謝の気持ちがあふれた復帰戦でした」
「考え方次第で成長できるとバスケットが教えてくれた」
バスケキャリアで初めての大ケガ。苦しい気持ちも大きかったと佐藤は話したが、チームのためにできることを模索した。その裏には先輩の姿があった。
「僕がドルフィンズに入団した時に(張本)天傑さんが同じケガをされていて、その時の彼のチームに対するサポートを見ていました。僕も年齢を重ねて後輩も増えてきたので、チームのために何ができるかなと思って過ごしていました。毎日バスケに向き合う姿や、とにかくリハビリを続ける姿を見せられたかなと思います」
当然プレーしたかったが、できないからこそ、この期間を有意義なものにしようとしていたと佐藤は言う。「このケガをして、悪いことや良くないことが起きても考え方次第で成長できると、バスケットが自分に教えてくれました。大きな壁にはなりましたが、体の機能面を見直す機会にもなりましたし、外からチームを見てレベルの高い選手の技を盗んだり勉強になりました」
ケガでシーズンの半分は出られない見込みだったが、副キャプテンにも就任した。チームの中で居場所があったことが気持ちを切らさない要因になったと続ける。
「毎試合ハーフタイムや、どんな小さなミーティングでも喋る機会をコーチからもらっていたので、自分の心はずっとコートにいられました。9ヵ月ぶりの試合でもテンパらなかったのは、チームメートやスタッフが試合に出ない自分を練習に参加させ続けてくれた環境のおかげです」
メンタル面だけでなく、スキルの上達にもフォーカスして復帰までたどり着いた。「自分ができることを証明したい」と意気込んでの復帰戦。「ショーン・デニスヘッドコーチからは『ノックダウンシューター(重要な場面で確実にシュートを成功させる仕事人)になって帰ってきてほしい』と言われていました。3ポイントの精度をより高めることと、動きながらでも入るように練習してきていたので、それが出せました」
「『大ケガから進化』が自分のテーマで、選手としてもっともっと上に行きたいという気持ちがありますし、ケガする前よりもその気持ちは強いので、頑張っていきたいです」
「頼ってもらえる存在になれれば良い」
名古屋Dは今節を連勝で終えて29勝8敗、地区首位の長崎ヴェルカとのゲーム差を2に縮めた。佐藤は、自身の復帰でよりチームの層が増すことを実感し、今後もっと高いところに行けるという感触を得ている。
「今日は僕と加藤、カイル(リチャードソン)、エイチ(アーロン・ヘンリー)、スコット(エサトン)が同時にコートに立って、こんなメンバーでできるんだなと思いました。自分が戻ることでいろんなローテーションができるし、チャンピオンシップでは、誰のシュートが当たるか分からないです。優勝するためにも駒はたくさんいたほうが良いので、自分も頼ってもらえる存在になれれば良いなと思います」
さらに今回の復帰戦は、佐藤にとってIGアリーナでのデビュー戦でもあった。「週末を楽しみに来てくれるファンの皆さんがいて、また来週も頑張ろうと思ってもらえる会場だなと。そこにやりがいを感じて自分もコートに立ちたいと思っていましたし、こんなすごいところでやっていて皆ズルいなと思いました(笑)。もっと早くプレーしたかったですが、まずはスタートラインなので、これから頑張っていきます」
両日1万人を超える観客が集まった新アリーナでプレーすることは、佐藤にとって大きな原動力になると続ける。
「名古屋の皆さんのために頑張りたいですし、地域を盛り上げるために優勝を目指して一戦一戦、大切に戦っていきます。お金を払って来てもらっている以上、一秒たりとも気を抜いてはダメだと思うので、来てよかったと思ってもらえるような試合をしたいです。それが最終的に優勝に繋がるので、また明日からしっかり準備していきます」
これまで経験しなかった大ケガでの長期離脱。しかし、これを糧にして佐藤は人間としてもプレーヤーとしても成長して戻ってきた。名古屋D優勝へのラストピースとして、佐藤の挑戦が始まった。


