藤井祐眞

「欲を言えばもっと上に行きたかった気持ちがある」

「本当にいい1年でした」。チャンピオンシップクォーターファイナルで三遠ネオフェニックスに敗れてから約2週間が経ったこの日、群馬クレインサンダーズの藤井祐眞は晴れやかな表情で今シーズンを振り返った。

東芝ブレイブサンダーズ(現・川崎)でキャリアをスタートさせ、2019-20シーズンから3年連続でレギュラーシーズンベストファイブ入りを果たし、チームとしても2年連続で天皇杯優勝に輝いた。2021-22シーズンにはレギュラーシーズン最優秀選手賞(MVP)を受賞。チャンピオンシップ常連の中心選手として長らく活躍してきた藤井の移籍は、昨年オフの大きな話題となった。

10シーズン在籍した川崎を離れ、自身にとって初めての移籍を経験したチャレンジングな1年を、藤井は次のように総括する。

「前半戦はすごい良かったですが、その後に負けが続いて…… 。60試合もあると、良い時もあれば悪い時もあるなとあらためて感じました。チャンピオンシップに出られたのは大きな成果でしたが、欲を言えばもっと上に行きたかった気持ちは当然あります。悔しさはありますが、それでも楽しい1年だったと感じています」

川崎ではニック・ファジーカスをはじめ、多くの選手と阿吽の呼吸でプレーができていた。しかし、環境が大きく変わったことで順応の難しさを感じたと言う。

10年も同じチームでやってきたので、誰がどこにいるか、自分がどう動けばいいのか分かっていました。群馬では初めて一緒にプレーする選手が多かったので、周りがどう動くのか、自分がどう動けばいいのか、コミュニケーションをしっかり取らないと分からない状況でした」

慣れない環境だからこそ、自分らしさを見失わないように心がけてプレーした。「自分の良さや今までやってきたことを出そうして、それがうまくハマったところでは貢献できたんじゃないかな」と振り返るように、群馬での藤井のパフォーマンスは決してこれまでに引けを取らないものだった。

つのチームで長くプレーし続けることは簡単ではないが、居心地の良い慣れた環境を手放すことも困難である。藤井は勝手知ったる環境から飛び出したからこそ、得たものが大きかったと続ける。

「すべてが新鮮でした。もちろん『今まではならこうだったのに』みたいな思い通りにならないもどかしさはありましたけど、 引退までのキャリアの中で自分が成長するために、良い経験ができたシーズンでした」

藤井祐眞

「今シーズンはより考えるようになった」

新たな環境に身を置いたことで、プレーだけでなくバスケットボールの考え方にも変化を感じたと藤井は言う。

「川崎ではニックと僕が中心となってプレーを作って、そこを起点にみんなが動いてくれていたので『自分が活躍して勝たせなければ』という責任が大きかったです。もちろん今年もその気持ちは強かったですが、自分のドリブルに対して寄ってきたらパスをさばくとか、トレイ(ジョーンズ)が崩してくれて展開が生まれるとか、まわりの動きを意識することが多くなりました」

これまでの藤井のキャリアには、ファジーカスという圧倒的な個の存在があった。しかし、相棒がいない初めてのシーズンは、これまでとは違った考えを持ってプレーしていた。「チームで作っていこうという気持ちがありました」と話す通り、全員バスケの意識が強くなったのだ。「群馬はみんなが動いてスペーシングも決めて、ランダムな動きが少ない感じはありました。その中で自分がおとりになるのか、点を取りに行くのか、 そういうことを考えながらやっていましたね」

さらに藤井は続ける。「今まではミスマッチがあるところで攻めようとか、うまくいっているプレーがあれば続けて同じコールをしようとか、攻めるところを限定していたと思います。何だったらコールもせずにニックと勝手にバーって始めて、自由に動いてフリーが作れるみたいな。ニックとは感覚でやりとりできちゃったので」

川崎時代、藤井はクロージングで得点を多く決めて、試合を決定付ける活躍を何度もしてきた。しかし、その内容はファジーカスと藤井という強い個ゆえに非常にシンプルだったという。「クロージングのコールが2個しかなかったんですよ。何回も同じプレーをやって、それで相手が守り方を変えてきたら逆手に取るだけって感じだったので」。藤井はこのように明かし、群馬ではより考えてプレーするようになったと言った。

「流れが良くない時にどういう動きが必要かなとか、何のプレーから始めてみんなをどう動かそうかなとか、そういう意識を持つことが多くなりました。それこそトレイと自分のどっちがハンドラーになるか、誰をどこに置くかなどいろいろ考えることが多くて結構大変でしたが、良い経験でしたね。ハーフコートまでボールを運んでから『あれ、何をやろう?』と考える時もありましたけど(笑)」